第2話 電話をかけよう
随分と落下していた気がする。
スカイダイビング(パラシュート無し)ってこんな気分なのだろう。
と暢気に考える余裕があった。
いや、このまま激突したら死ぬだろう。感電死の次は落下死か?
でも、もう死んでいるから怖くない。
いや、なんだか、その理屈は可笑しい気がするが。
「あぁ? 」
気がついたら、落下していなかった。
何やら広い空間で、地面には白い床に赤い線で何か書かれている。その線がなんだか仄かに光っているが、一体何だろうか。
どういう訳か座ったままの姿勢だ。
立ち上がって辺りを見回すと、人が数人いて、こちらを見ている。男が多いが、俺の正面にいるのは女性だ。見た目は白人で金髪、真っ白なワンピース風の服をまとっている。ワンピース風とはいえ、どことなく古代のってつくような古くささがある。
一人、離れた場所に三角帽子を被った少女がいるが、こちらを見てからきびすを返して部屋から出て行く。
さて、何か声に出しているが、さっぱり何を言っているのかはわからない。英語は得意な方だが、英語じゃねーなこれ。何系の言語なのかも判らない。
参った、これから何をすればいいのかさっぱり判らない。
いや、そもそも異世界救済士をするって了承すらしていないのだが。
そうして、何を言っているのかもわからないまましばし周囲を観察しようとした矢先に、胸ポケットからメロディが鳴る。ついでに振動も。
「スマホ? 」
胸ポケットに入っていたのはスマホだった。それが振動しながら着信メロディをならしている。生前にもスマホを使っていたが、今手元にあるそのスマホには見覚えが無かった。真っ赤なボディと片手に収まるサイズながら、大きめの画面は俺好みではある。問題はスペックか。
とりあえず、画面にはカトリーヌ・大塚と出ているので、通話をタッチした。
「ヤッホー。聞こえるかな? 」
「おう、聞こえるぞ。よくも落としやがったな、この野郎」
「べ、別にいいじゃん。いつの間にか召喚されていたでしょ? 」
「あぁ。そうか、召喚された訳か。あの方式しかねぇの? 」
辺りを見回すと赤い線は何やら円を描き、円の中に幾何学模様を描いている。魔方陣というやつだろうか。何故、落下して、この魔方陣に召喚されるのかさっぱりだな。
「まぁ、それはいいが、何を言っているのかさっぱりだ」
わからない事だらけで、本当にさっぱりだ。
「そうだと思ってね、通訳アプリ入れておいたから起動しなさい。ふふふ、どうだ、致せりつくせりでしょ」
「アプリねぇ」
とりあえず、通話はしたままに出来るらしく、通話の画面をスライドさせると見たこともない画面が出てくる。幾つかのアプリが渦巻き状に配置されている。その中で、ふむ、人が喋っているマークのアプリを見つけ、タッチした。多分、これのことだろう。
「しゃさま、勇者様! どうか我々の願いを聞き届けてください」
アプリをタッチした瞬間に、先ほどから何を言っているのか判らなかった女が、何を言っているのか判った。
「マジか? 」
試しに、アプリを切る。
そうすると、再び何を言っているのか判らなくなった。
再度、アプリ起動。
「通訳アプリって、全自動翻訳か? 」
こんなに高性能なアプリとは思っていなかったというか、アプリって言うか魔法か何かじゃないのか?
「イエース! 厳密にはスキルアプリって言ってね、言語能力スキルが使用可能になります。とりあえず、それは常時起動しておくと便利だね」
「おう。でも、電池大丈夫か? 」
「それはね、電池∞のアプリがあるから、それを常時起動しておけばいいよ」
「便利すぎるだろ」
そういいながら、俺は、電池マークのアプリを起動した。スマホの右上にある小さな電池の表記が無限マークに変わった。もう、これ、世界中のスマホユーザーが渇望してやまないアプリに違いないだろう。
「とりあえず、話を聞いてみて。じゃ、又困ったら連絡して」
「おう。いや、まて、そもそも」
ツーツーツーと一方的に電話は切られた。
どうするかな。
しゃーねーか?
いっちょ、やってみるか?
つーか、帰り方もわからないんだ。
とりあえず、あのカトリーヌ・大塚を殴るためにも帰りたい。
帰るには、ここで一仕事して行かなくてはならないようだ。
「ひとまず、悪いけど、最初から説明してくれるか? 」
先ほどから語りかけてきている女性に説明を求めたのだった。