第28話 またお風呂に入ろう
アレクサンダー・ワトソンが空気中に水の玉を作り出す。その大きさは直径1メートルほど。
その水の玉を包み込むように炎を作り出して暖めていく。
「で、あんたは、なんであの場に現れたんだ? 前触れも何もなかったぞ」
「それは話せば長くなるが」
どこかもったいつけた様子で切り出す。いちいち、面倒な奴だ。
「短く頼む」
俺は短く言った。
「……話せば長いが」
「短く」
「……あのサラマンドラは、元はイフリートの火山地帯に生息していたものだ。イフリートの国はわかるか?」
「名前だけ聞いたことがある」
まぁ、多少は、長くなることは許容するか。
「サラマンドラのコロニーにいたはずだったが、それが群れをはぐれて山を下りた。まれにあるそうだ。麓の村が、火山とサラマンドラを火の神と火の神の化身として奉り、火山とサラマンドラの監視をしているのだが、このままでは被害が出ると判断し、火の神に祈祷し、僕が召喚されたというわけだ」
「ふーん。つまり、お前の雇い主の神は、こっちの世界だと火の神ってことか?」
俺は、カトリーヌ・大塚が、神は無数の世界で様々な形で信仰されているという話を思い出していた。今思えば、この世界に送り込まれる直前にかかってきた電話は、どうやらこの世界からの呼び出しのようなものだったのだろうか。
「そうなる。こちらの世界では、火と水と風の三大神が最上級神として信仰されているそうだ」
「大地の神はいねーのな」
「いるぞ? ただ、火の神の下につくそうだ。どうやら、火山が大地を作ったとされていることから、そういう関係らしい」
「ふーん」
別に地味だから、地属性がハブられている訳ではないのか。
「そして、僕は、痕跡を探しながらサラマンドラと対決していたのだが、何度も逃げられてしまってね」
逃げられたのか、電池切れで逃げたのかはともかく、追跡していた訳か。
「そして、ようやく香川国で探し出して、あの僕が大活躍した戦いに至るわけだ」
「微妙に話を盛るな。とどめは藤崎のおっさんだろ」
「あれは、僕がトドメを譲ったのだ」
「電池切れって言ってただろうが!」
「それは君だけだ!」
水の玉ごと、こいつも熱しようかな。よくもまぁ、都合の良い記憶にしていやがるな。
「そろそろ熱くなってきたが、いいんじゃないか?」
「そうか」
そういって、俺は炎を消した。アレクサンダー・ワトソンは、その熱した水の玉を、ぬるま湯が半分ほど入っている浴槽へと落とした。直ぐさまに浴槽から湯気が大きく立ち登っていく。
ここは、香川にあるスーパー銭湯だった。最も、通常は週に一日だけしか営業していないそうだが。そこに、俺と、他二人の異世界救済士と自衛軍の兵士達がいた。
「入って良いぜ?」
親指で浴槽を指し示すと、「ありがとうございます」としっかり挨拶しながら、全裸の兵士達がしっかりとかけ湯してから次々と湯船に入っていく。
あの戦闘の後、俺達は全員がずぶ濡れの泥だらけだったので、知事が特別に掛け合って風呂を開けてもらったらしい。しかし、期待して来てみれば、ぬるま湯が半分ほど入っているだけだったので、俺とアレクサンダー・ワトソンがお湯を足したというわけだ。
「俺達も入るか」
それまで黙っていた藤崎のおっさんもかけ湯しながら言った。浴槽は幾つもあるが、今お湯を足したのは2つ。その内ひとつに兵士達が行儀良く入っていて、もう一つには入っていなかった。
「お三方は、どうそそちら側を」
と現場の指揮官だったという兵士のおっさんが、自分はまだ湯船に入らないまま勧めてくる。
「そこまで気を遣わなくてもいいぞ?」
と言っている側から、アレクサンダーが飛び込み選手みたいに湯船に派手に飛び込んだ。大げさなほど水しぶきがあがる。こいつ、かけ湯すらせずに入るとは。
「ふう。ちょっと熱いか? まぁ、いい、たまにはお湯に入るのもいいね」
「風呂のマナーも知らんのかお前は」
そう言いながら、俺もかけ湯し出す。とりあえず、気を遣い合っても平行線だし、ありがたく入らせてもらおう。
「別に、風呂ぐらい自由に入れば良いじゃないか?」
「水も燃料も貴重なんだよ。後マナーな?」
「今なら、僕と君で、幾らでもお湯を足せるからいいじゃないか?」
アレクサンダーは気楽に言う。うん、どういう生き方してきたらこれほどお気楽で自己中に育つのかな。
「だからってな」
そりゃ、そうかもしれないが、湯船にゆったりとつかっている兵士の方々を見ると、どうも、ちゃんとした風呂って言うのは久しぶりのように見える。
俺もようやく、湯船に入り、異世界救済士が三人並んだ。しかし、この大げさな名前はどうにかならないのだろうか?
「あー、良い湯だ」
肩までお湯につかって、深く呼吸する。昼間は、あまり出来の良い風呂じゃなかったからな、ちゃんとした風呂は久しぶりに思える。
「なんだ、すまんな。俺まで」
藤崎のおっさんが、少し遠慮がちに言う。しかし、おいしい所を取っていった形になったとはいえ、どのみち、俺とバカではトドメをさせなかったわけで。
「いいんじゃねーの? 俺もそっちのバカも電池切れだったし」
「誰がバカかな?」
「自覚あるから反応しているんじゃね?」
「き、君、失礼だろ」
なんだか、五月蠅いので、俺は頭までお湯につかった。




