第27話 これでも戦ってます
「ハッ! 」
水鉄砲野郎が気合いの入った声を出した。
再び突っ込んでくるサラマンドラに対して、俺と水鉄砲野郎は、それぞれ足の裏から炎と水を噴出して回避する。
よく考えると、あの巨体だけでも十分な武器になる。吹き飛ばされたらタダではすまない。前回の対決がいつのことだったのかも知らないが、自衛軍はよく追い払えたな。いや、サラマンドラが気まぐれに逃げていっただけだろうか。
「ふーむ。まっ、やってみるか」
両手の間に5個の小さな火の玉を作り出す。弱々しく払えばかき消されそうな火の玉だ。
サラマンドラが口を開けた瞬間に全部の火の玉を放つ。火の玉は、スプリンクラーに突っ込みながらも消えることなく、サラマンドラの口の中へと入っていく。入っていった瞬間に、少しだけ燃えて消える。
「牽制にもならないぞ」
アレクサンダー・ワトソンが言う。しかし、名前が長いな。アレックスとバカのどっちで呼べばいいだろうか。とりあえず、暫定でバカと呼ぶか。そっちの方が短いし。
「お前のもな」
「ふん」
バカは、めげることなく、シカゴ・タイプライターで水の銃弾を撃っていく。大抵の銃弾は鱗に弾かれているが、鱗のはがれた箇所に当たると、一瞬だけ血が少しだけ出ている。しかし、あの巨体だ、針で刺された程度のダメージしかなさそうだ。
俺はといえば、再び小さな火の玉を作り出してそれをサラマンドラの口めがけて放っている。周りはスプリンクラーとサラマンドラから立ち上がる蒸気で、スチームサウナのような状況になってきていた。
いや、辺りの水の温度が上がってきているのか。
このままだと、異世界救済士の蒸し物、二人前の出来上がりか。
しかし、決定打に欠けるのに、長期戦は不利と来たか。全く、嫌になるね。
どれほど、攻防が続いただろうか。
サラマンドラが暴れ続け、一人、二人と、歩兵が吹き飛ばされたり、倒れた木々の下敷きや、火炎放射で火傷して、少しずつ負傷し、銃弾が切れた歩兵と一緒に、数人ずつ離脱していった。補給後に戻るらしいが、戻ってきたところで、あまり戦力にならないだろう。
俺や、バカは、アプリで火や水で緊急離脱できるから辛うじて大きな負傷は無いが、それでも、引きつけるぐらいしか出来ていない。まぁ、大体は、サラマンドラはバカを狙ってきているが。あの水塊の攻撃が、よほどしゃくに障ったのだろうか。
俺は、林の中にスライディングして入り込んだ。そこには、最初一緒にいた歩兵がいた。
「大丈夫ですか」
「いい加減に、茹で蛸になりそうだ」
全身濡れて、泥だらけになって、服もあちこちほつれ、全身擦り傷だらけになっているが、水の温度もドンドン上がってきている。
「今、ヘリをなんとか動かして向かっていると連絡がありました」
「それまで引きつければなんとかなるか? 」
「その、ヘリの装備で何処までダメージが行くかが……。それに、ヘリと戦車は虎の子の兵器ですし」
そりゃそうだ、さっきから何回かは無反動砲と迫撃砲を当てているが、致命的なダメージを与えられていない。あの鱗が本当に、厄介すぎるな。
「そろそろ効いてこないかな」
「何がです? 」
「俺の攻撃」
そう言い残して、再び立ち上がる。
とりあえず、バカ一人だけだと厳しいだろうし。そのバカは、幾らでも水を回収できるので、永遠とシカゴ・タイプライターを撃ちまくっている。マフィアもビックリのハッピートリガー野郎だな。
サラマンドラが大きく跳躍し、再び木に突っ込む。いい加減に、林の木も随分と倒れたものだ。サラマンドラが、大きく口を開けて息を吸い始める。うん、炎を吐く準備段階だ。
しかし、途中で呼吸を止めて、荒々しく呼吸をし始めた。どことなく動きも鈍くなっている。
「様子が妙だな」
バカが、マガジンを交換しながらサラマンドラの様子をうかがっている。
その横に俺はたどり着いて口を開いた。
「人間なら、空気中に1パーセント弱含まれていると3分もあれば死に至る」
「何の話だ? 二酸化炭素にしては少ないが? 毒ガスか?」
「正解は一酸化炭素」
さっきから小さく弱々しい炎は、不完全燃焼させた炎だ。何発もぶつけている。それなりに、一酸化炭素を吸い込んでいるはずだ。
あの常識外の生き物が、まともな生物の構造をしていて、根本的には酸素を消費して活動しているなら効いていて欲しい。火の中でも平気らしいが、果たして一酸化炭素の耐性はどれほどあるかは不明だったが、どちらにしろ、他に有効な攻撃も出来ない以上、試してみる価値はあった。
「なるほど。やるな」
「ただ、あのでかさでどのぐらい効いていると思う? これ以上は電池がもたん」
炎の相殺に移動に使っている炎、不完全燃焼の火の玉、それなりの時間を戦った以上、これ以上はもたない。
「こちらも、こいつを撃ったら電池切れだ。一旦退くべきか? 」
シカゴ・タイプライターを掲げながら言う。
意外とバカは冷静な判断を下せるようだ。
「どっちのしろ、これ以上は熱湯風呂だ。戦えるか」
やはり、決定力不足か。
あとは、ヘリ頼みになるが、それまで、こいつが大人しくしてくれているかどうか。
と、思ったら、見たことのある人影が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「あとは任せろ」
そう頼もしい台詞を残して、そいつは太刀を振りかざしてサラマンドラに立ち向かっていき、何かを察したサラマンドラがなんとか退こうとした瞬間に、サラマンドラの首に一太刀浴びせた。サラマンドラの首が半分程度斬られて、そこから血が沸騰し、蒸発しながら流れ出ていく。
突然の出来事に、俺も、バカも呆然としていた。
あの鱗を切断するって規格外すぎるだろ。
「あんた、どういうことだよ?」
太刀を収める人物に、ただ、問いかけるしかなかった。
「俺は、藤崎吾郎。お前達なら、異世界救済士と言えばわかりやすいか? 」
それは、前職がエステシャンで今は賞金稼ぎをしているという、ヒャッハーな格好をしたバイクのおっさんだった。
あんたもかよ。
あんたも、異世界救済士か。
まさかの再会。
まさかの再登場だった。




