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第18話 交渉しよう

 知事室の扉には鍵は掛かっておらず、スッと開いた。

 中にはソファのセットがあり、さらに奥には正面の机越しにおっさんが一人、その横にもおっさんが一人。二人ともネクタイはしていないが、スーツを着ていて、そのスーツはくたびれている。新調もなかなかできないのだろうか。それとも、使える物は出来るだけ使う方針なのか。


「何かね? 君は? 」


 横にいるおっさんが怪訝そうに、いや、かなり警戒しながら俺を睨み付ける。秘書だろうか?


「異世界から召喚された勇者です。条約改正の交渉に来ました」

「……!? 出会え出会え! くせ者だ! 」


 秘書のおっさんが、やけに時代かかった台詞を言う。確かに不審者だろうけど、反応が早いな。


「時代劇か! 」


 思わず突っ込んだ。

 どこか錯乱している様子でもあるので、こんな場所で俺のような奴が入り込んでくるのは想定外だったのだろうか。

 そして、部屋のあちこちから警備員が入り込んでくる。迷彩服に透明な盾と金属製の警棒を持っている。人数はちらっと見たが、5人。


「手を挙げろ! 」


 そりゃそうだよな。とりあえず、手を挙げる。少しでも話し合いの余地があるなら、それにかけたいところだ。


「どこまで本気か知らないが、どこだ!? フェニックスか? イフリートか? 」

「さて、どこだったかな。着たばっかりだから覚えられなくて」


 とぼけながら、知事らしき人間の様子を見ると、両手を組んで、こちらを睨み付けているだけで、一言も発していない。肩幅はがっしりとして、髪は短髪、おっさんと言ったが、肌は黒く焼けており、どこか活動的で若々しく見える。

 うん、見た感じ、さわやかで結構頼もしそうではある。投票されるのもわかるな。


「とぼけるな。いいか、まだ、冗談ですむ。本当の事を言いたまえ」


 言いたまえ、なんて表現、本当にされることがあるんだな。


「本当の事か、条約の12の国に対する不利益をなくすために来た」

「……痛い目を見なければだめなようだな」

「いや、ちゃんと話を聞いてからでも」


 ここで、知事が口を挟む。ふむ、秘書のおっさんよりも穏健なのだろうか。


「知事! 何かあってからでは遅いのです。ものどもかかれ! 」

「だから時代劇か! 」


 思わず突っ込むが、入り口付近にいる警備員が、警棒を振り上げてくる。

 しゃーないか。

 手のひらに炎を出し、それをぶつける。一瞬で、警備員が火だるまになって床を転がっていく。

 それでも、警備員は、今度は二人がかりで盾で守りながら警棒を振りかざしてくる。今度は、両手に炎を作り出し、ぶつけると、盾にぶつかるが、炎は盾を迂回していき、同じように燃え上がり火だるまになっていく。


「あ、あつい! 」

「うわぁぁ! 」


 と叫びながら、床をのたうち回っている。

 その様子を見ていた残りの二人の警備員は、盾をこちらに向けながら慎重そうに、間合いを計っている。


「な、魔法? だが、どんな? 」


 秘書らしきおっさんが、呆然と呟く。

 魔法はあるが、この世界の魔法は魔方陣に魔石を使って発動するらしいから、俺のスキルが何なのか戸惑っているのだろう。

 そのうちに、三人の火だるまが動きを止めた。

 その頃には炎も消えていて、何も燃やしていなかった。

 そう、炎は燃えていたが、何かを燃やしてはいなかった。

 一人が蹲りながら、両手で体を抱いて震えている。


「さ、さ、さ、さ、寒い! 」


 警備員と秘書のおっさんと知事は、不思議そうに火だるまになったはずの三人を眺めている。三人ともが、体に霜がついて震えているからだ。


「な、何をした? 」

「燃やして凍えさせた。これなら、無効化までで済むかと思って」


 面白そうなアプリが手頃な値段だったので、使ってみたまでだ。モンスター相手にもテスト済みだ。

 今まで静観していた知事がゆっくりと立ち上がった。


「一筋縄ではいかないようだ。私が相手になろう」

「ち、知事! 」

「みんな避難しろ」


 そう言って、上着を脱いだ。

 え? 知事が戦うわけ?

 俺が戦うわけ?

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