第15話 言ってみよう
「思っていた以上に、立派なビルだな」
目の前にそびえ立っているのは香川県庁だった。階数は数えてみたら22階ある。ビルディングは白く、綺麗だ。比較的新しいのだろう。
スマホの地図で確認してみると、これがどうやら本館らしい。さらに8階建ての東館があり、西側には警察本部庁舎があることがわかる。
しかし、その県庁の敷地は、その周囲には高さ3メートルほどの石垣が作られ、さらに有刺鉄線で乗り越えられないようにガードされている。石垣を抜ける出入り口は二つあるが、二つとも金属製のシャッターが下りている。なんともちぐはぐな印象だが、石垣に関しては異世界転移後に突貫工事で作られたのだろうか。
さらに、シャッターの前には二人の警備員らしき人物が立っていた。迷彩服を着て、さらに長さ二メートルほどの槍を持っている。さらに、腰のホルスターに入っているのは拳銃だろうか。現実の日本から言えば、物々しい程の警備がしかれている。あれが、自衛軍の人間なのだろうか。
「香川の血税とうどん税がこんな使われ方を! 」
「おう、ポンコツ、うどん税ってなんだよ? 」
多分、無いと思うぞ? 多分。
それに、県の顔にもなる建物だし、ケチってあまりにも、みすぼらしいのもどうだろうか。確かに、地上100階建てなんてことになったら、地方都市にこんな物必要ないと文句の一つ二つは幾らでも言われるだろうが。
さて、まずは、ジャブといこうか。
俺は、正面から入り口に近づいていった。
警備員が警戒しているのが、判るが、出来るだけ穏便に、そしてゆっくりと歩いていく。
「何か用か? 」
警備員の一人が、やっぱり、警戒心丸出しで声をかけてくる。
そりゃそうか。お仕事お疲れ様です。
「何から、説明したらいいか……、俺、つい先日、この世界に転移しまして」
少し、不安げにしゃべり出す。目は少しだけ泳いでいた方が、リアリティがあるだろうか。
「何? 」
警備員が聞き返しながら、俺の姿を観察してくる。ジーンズにポロシャツと、この世界の香川でも一般的な格好だし、格好だけなら怪しくはないはずだ。
「それで、本当にどうしたらいいのか判らないので、とりあえず、ここに来たのですけど? 助けてもらえないですか? 」
「ちょっとまて」
もう一人の警備員が俺を制し、二人の警備員が話し始める。
「今更、一人だけ転移ってあるのか? 」
「でも、香川ごと転移するよりありそうじゃないか? 」
「うーん、そうだが……」
「何よりも、困っているんだ。とりあえず、相談課に回してみよう」
一人は警戒しているようだが、もう一人は、助けになってくれるようだ。
うん、嘘は言ってないが、騙しているようで、罪悪感があるな。
それはともかくとして、俺はシャッター横にあるアルミサッシのドアを通されて中に入れた。中にも警備員がいて、ゆっくりと歩きながら巡回しているようだ。どれだけ警備を厳しくしているのだろうか。恐らく、行政の要となる施設だから、必要でやっているのだろうけど。
しかし、人に対する警戒が緩いと言うことは、モンスターに対する用心として行っているのだろうか。
中に入ってから、別の警備員にバトンが引き継がれ、俺はその警備員に着いていくことになった。
県庁の東館に入ったが、他の施設同様に、日光だけで補っているようで、うす暗かった。玄関ロビーの案内図を盗み見て、おおよその位置だけを把握しておく。
エレベーターの前を通り過ぎるとき、扉には『節電! 使用禁止』の張り紙が貼られている。8階もあるのに、エレベーター使用禁止か。高いのも考えものだな。
案内されて着いた先は東館の中二階にある、何でも相談室と書かれた部屋の前だった。中に入ると、ワイシャツにスラックス、ベストを着た中年のおっさんがカウンター越しにいた。
「どうしました? 」
おっさんが、忙しいのか、やや面倒そうにこちらに言う。
「こちらの方、つい先日、転移してきたそうです」
「え? そんなことが? 」
「というわけで、少々話を聞いてください」
「……わ、わかったよ」
おっさんも戸惑いがあるのか、渋々といった様子でうなずいた。
そして俺は、パイプ椅子に促され、警備員は出て行った。
「まず、氏名をお願いします」
そうして、相談が始まった。
する相手も、する内容も、いらない話だけどな。