第13話 ご馳走になろう
うどん屋のなかは、簡素なテーブルと椅子、そしてお座敷があり、それなりに広い店だった。木造で、簡素な作りでやや振るそうだが、転移前からこうだったのだろうか。壁にはマジックで書かれたお品書きが張られているが、変色して古い物だとわかる。
一人で来たらそれなりに情緒もありそうなものなのだが。
「さぁ、うまいぞ。ここは」
世紀末なおっさんが、ようやく来た釜揚げうどんを勧めてくる。
世紀末な格好をした連中が、店内にギュウギュウ詰め状態だった。しかし、店員も、慣れているのか、普通に対応している。しかしながら、電気が来ていないのか、節約しているのか、明かりは一つもついておらず、窓からの自然光頼みのようだった。
異世界に来て、変わったこと、変わらなかったこと、色々とあるみたいで。
「そういえばさ、香川って水不足になりがちだった気がするけど、水ってどうなのよ? 」
またうどんかと思いつつも、箸をのばしながら尋ねる。確かに、本場なら、また少しは味が違うかもしれないが。
「水か。気候が少し変わって、雨が増えたが、それでも全然足りないな。ため池を増やしたり、ダムを造ったりしているが、それでも足りない。そういうわけで、水を濾過する魔法で足りない分を補っている……それでも、普段から節水だがな」
「そんな魔法まであるのかよ」
いや、人を異世界から召喚する魔法に比べたら、大したことないのだろうか。
しかし、節水と言いつつ、うどんは茹でるのか……。
「俺も詳しくはないが、あるみたいだな。魔方陣を書いた壺に水と魔石を入れておくと、一晩で水と不純物が分離していてな。あとは、普通に濾過すれば十分に使える。ここで、茹でるにも、その魔法で作った水を使っているはずだ。ただ、例によって値段が高いな。魔石も輸入量も品質も安定していないから、なかなか安くならない。賞金稼ぎも、魔石の経費が一番かかるな」
そう言って、おっさんは、豪快にうどんをすすっていく。
なるほどね。ライフラインの水は、そうやって確保していたか。さらに聞いた情報では、食料は、農業試験所が味よりも収穫量と病気に強い品種を提供し、それが広まっているというし、魚介類は昔ながらの方法で一応とれるらしいし、家畜は自然放牧で徐々に増やしているらしい。
なおかつ、それらの技術や品種を12の国々に売り込んでいくことで、魔石や人材を輸入しているようだ。戦争禁止の不可侵条約も、逆に言えば、そんなことにまでする余力がないだけかもしれない。
日本人に実戦を戦える人は圧倒的に少ないだろうし。兵士の練度で言えば、12の国々のほうが、昔から小競り合いをしていたそうだから、圧倒的に上だろう。もし戦争になったとして質と量のどちらが勝るか……。
はて、そういえば。
「治安はどうなってる? 警察組織が生きているのか? 」
目の前に格好だけはヒャッハーな人たちがいるが、治安はどうなっているのだろうか。
「警察か。最初は、警察と自衛隊と有志の自警団がそれぞれ、治安維持をしていたが、その後に、政府側の提案で一つに再編されて、自衛軍になったな」
「軍ね。日本人だと抵抗感ありそうなもんだけど」
自衛隊がどうこうって度に、なんやかんやで紛糾している国だというのにね。
「どうだろうな。俺は、平和維持なら名前なんてどうでもいいが。とにかく、自衛軍が香川の治安維持にあたっている。が、やっぱり、装備も人員もたりないからな、そういうわけで、俺達みたいな自由に動ける賞金稼ぎが出てくる。最近だと、12の国からも所謂モンスターハンターがやってきているみたいだな。手が回りきらないから助かることは助かる」
「なるほどねぇ。モンスターって結構出るのか? 」
おっさんは、うどんをさらに豪快にすすってから飲み込んだ。
「出るんだよなぁ。どうも、もともといた動物がこっちの世界に来てから凶暴化したみたいでな……普段は山の中にいたようだが、人里に下りてきては人を襲うんだ」
「飢えた熊と変わらないな」
「熊なら、まだいいほうさ。12の国の方からモンスターが海を渡ってやってくるようにもなってな。特に、スライム。あれは厄介だ」
「ゲームだと弱そうだけど? 」
俺は、スライムには出くわしていなかった。
ひのきの棒で相手するなら、丁度良さそうな気もするが。
「とんでもない。下手な攻撃すると、小さく分裂していくだけだし、素手で体液に触れると火傷みたいな怪我をする」
そりゃ、また、本当に厄介な。スライムをそんな強敵扱いにしなくてもいいじゃないかと。
「どうやって倒している? 」
「対スライム用の除去剤をスプレーしている。そうすると、ナメクジに塩をかけたみたいに、しぼんでいって死ぬ」
「スライムを、そういう倒し方するとは思わなかったわ」
ファンタジー世界といえど、ゲームやラノベとはこれまた違う様子だ。
ふむ、ライフライン事情に、治安事情もわかってきた。
この香川は、異世界で生きていくために最大限のことをやっているだけだろう。やはり、あの条約も、すこしばかり騙しているように思えるが、必要だからしたのだろう。
かといって、何故に週7日のうどんを条約にしたのか……。
俺は諦めと呆れと一緒にうどんをすすった。
流石に、これまで食べたものとは味が違った。




