第12話 乗っていこう
道路の左右には見渡す限り麦畑が広がっている。途中途中で、人力で刈り取っているところもあれば、コンバインハーベスターで収穫しているところもある。一見すれば、長閑な光景なのだろうか。こんなにも畑だけ、が広がっている光景、普通の日本じゃ中々無いような気もする。
さて、これが全てうどんになるのだろうか。
いや、いくら何でもそんなことは……パンとか、ピザとか、お粥とか色々と……。
うむ、幾らか香川県でもうどん、うどんって、うどんしか無いみたいな印象は失礼だろうな。
「コンバインは高くてな、整備も一苦労だし、奴隷を使う方が一般的だな。農業は随分と人力に頼るようになった。まさかの機械化以前への逆戻りさ」
「ふーん」
「全く、機械化される前は、人の力でこういうことを全部していたのだと思うと、ご先祖様は偉大だよ」
「そうかもな。日本人の大半は、元たどれば農民あたりに行き着くだろうし」
バイクを運転するおっさんが、律儀に説明してくれる。自分のことはイフリートに行っていたと説明し、転移後、どのように香川が変わっていったかを説明してくれていた。まぁ、どうも怪しんでいる様子でもあるが、何も言ってこないなら、聞きたいことを聞かせてもらおうか。
「奴隷ね……。抵抗ないのかねぇ? 」
「実質的には安く使える従業員待遇が多いな。言い方が奴隷ってだけで、事実上の移民にだろうな。実際問題、日本は少子高齢化が進んでいたんだ、特に地方はな。そりゃ、機械が使えなくなったら、マンパワーに頼るしかないからな」
「なるほどねー。確かに」
こう考えていくと、資源と人材のない地域が異世界に行くなんてハードモード過ぎるな。技術があって良かったと言うべきか。不幸中の幸いと言うべきか。
いや、どんな地域であっても、異世界に行くのはハードモードだろうかな。
うどんしか食えないし。
これは、冗談として、
「ちなみに聞くけど、おたくらは、何している人たち? 」
マジで略奪がお仕事じゃないだろうな。
「俺達か? おいおい、知らずにヒッチハイクしたのか? 」
ちょっと笑いながら、おっさんが問いかけてくる。
いや、あまりにも車が通らないから試しにヒッチハイクしたわけで、そして、あの集団で止まる人がいるなんて思っていなかったのだが。
「いやーなんとなく? 」
「へぇ。なんだか、変わった人だな」
「自覚は無いけどね」
とりあえず、電話向こうのポンコツよりは変だとは思っていないのだが。
「俺達は、賞金稼ぎをしている」
「賞金? できるの? 」
「できるさ。要は、馬の代わりにバイクに乗っているみたいなもんさ。異世界に着てから、治安が悪化してな。犯罪者に賞金をかけているし、モンスターにも賞金がかかる場合があるからな。俺達はそういう連中を、バイクで追いかけて棒で殴って、倒したり捕まえて生活している」
棒……麺棒じゃなかった、ひのきの棒じゃないだろうな。
「よくまぁ、そういう転職したね」
「俺達のリーダーが、需要はあるって見込んでな。それについていっただけだけどな」
「ちなみにあんたの前職は? 」
「エステシャン」
思わず変な声が出そうなぐらい、意外な前職だった。
え、その見た目で? 男の?
いや、失礼すぎるか。
「……他の人たちは? 」
「ネイリストやペットブリーダー、プログラマー、保育士、看護師もいるな。珍しいところだと、ベーリング海でカニ漁していた奴もいるし」
「それ、世界で一番過酷と言われている漁じゃねぇか」
それに比べたら、あの動物なのかモンスターなのか区別が怪しいモンスターなんて可愛い物だろうに。ただし、RPGよろしく金とアイテムドロップは無いが。
「そうらしいな。まぁ、失業して生活のために始めた部分もあるが、へっへ、困っている人を助けるのも、悪くないさ」
見た目よりも、いい人達だった。
しかし、それならば、一つ気になっている事がある。
「そのトゲ付き肩パットって、どこで売ってたのよ? 」
「これか? これはな」
その後、告げた店名は、日本で一番有名な総合ディスカウントストアだった。
確かに、需要はあるかもしれないが、良く売りに出したな。商魂たくまし過ぎる。
「ところで、ちょいと余地道するぜ? 」
「ああ、いいぜ」
乗せてもらっている以上、気軽に答える。
そうして、しばらく走ってバイクの集団が止まった。
バイクから降りて行く際に、おっさんが、
「一杯、おごってやる」
と言ってくれた。
寄り道は、うどん屋だった。