第11話 歩いていこう
初老の男との会話もそこそこに切り上げて、高松方向に歩き出す。
歩いて行くには遠いのだが、車も燃料の魔石も貴重らしく、乗せていってくれとは切り出せなかった。
「別に、ダメ元で頼んでみればいいのに」
カトリーヌ・大塚がどこか不満げに言ってくる。
「どちらかと言えば、香川の敵だからな」
そう、とりあえず、今の仕事は、条約改正。うどん週七もとい不平等を改善することにある。
……俺は一体、何をしているのだろうか。
死んで、異世界に飛ばされてまで、何をしているのだろうか。
いや、ここで、我に返るなよ……。
とはいえ、散々考えてきたが、どう達成した物かな。
条約改正のため署名付きの嘆願書でも作るか……誰も署名いないだろうし、そんな嘆願書を受け付けるとも思えない。
何も思いつかなければ。
「殴り込みで改正か? 」
本当に、それしか思いつかないのだが。
歩く道に、人通りは無い。左右に麦畑が広がっている長閑な風景にも見えるが、決して長閑ではない生存競争が繰り広げられている。もっとも、現代日本人の集団と異世界の集団のどちらが優れているかというと、それぞれに弱点があるので、何とも言えない気もしてくる。
「超脳筋発想だよね。流石元ヤンキー」
「誰情報だよ? 」
「想像だよ? 元ヤンでしょ? 」
「髪染めていた程度だが、ヤンキーじゃねぇよ」
バイクを盗んだことも、カツアゲしたことも、学校の窓ガラスをたたき割って回ったこともないのだが。
「初対面の相手にアイアンクロー食らわせる人ってDQNでしょうに」
「あれは、お前がおかしなこと言い出したのが悪い」
「またそうやって、人の所為にしてー。これだからゆとりは」
「残念ながら脱ゆとり世代だ」
「なんだと……」
カトリーヌ・大塚がえらく仰々しく呟くが、無視する。
そのとき、背後からエンジン音が小さく聞こえてくる。
「ヒッチハイクをしてみるか? 初めてするわ」
「スケッチブックに丸亀って書いておこうか」
「なんでだよ、行き過ぎだろ」
「じゃあ、うどん? 」
「最早、意味がわからん」
しょーもない突っ込みをしつつ、立ち止まって右手を握り、親指を立ててみる。だが、近づいてくるエンジン音と影の姿に違和感を覚えた。
恐らく、一台だけでなく、それどころか、何台もいるようだ。さらに車にしては幅が小さいのでバイクだろうか。
数十秒後、俺の目の前をまず、先頭のバイクが通り過ぎていく。
それに続いて、何台ものバイクが通り過ぎていく。
俺の視力がおかしくなければだ、バイクに乗る男達は、その多くが肩パットを着けていた。それもトゲ付きだ。髪型は、オールバックからスキンヘッド、モヒカンと、一種の統一がはかられている。ちなみに、髪型が判ると言うことは、ヘルメットはしていなかったわけで。
いわゆる、世紀末のヒャッハーな格好をした連中だった。
なんか、これ、駄目な方向の集団じゃね?
ファンタジー世界に転移したのに、資源不足から世紀末状態なのはわかるが、そういうサイバーパンクな集団が発生していようとは思いも寄らなかった。
「ツーリング集団だね」
「そんな暢気な集団に見えねぇよ」
カトリーヌ・大塚のとぼけた言葉に突っ込みつつ、手を力が抜けたように下ろしていった。
関わらないようにと思ったが、案の定、道の先で一台のバイクが止まった。
おぉ、ハーレーだ。
いい人もいるものだ(遠い目)。
乗っているのは、髭モジャで丸いフレームのサングラスをかけた中年のおっさんだ。いい年して、異世界転移だからってはっちゃけすぎじゃないだろうか。
でも、やっぱり、関わりたくねぇな。いや、人を見た目で判断するのは間違っているが、これ、どう考えても、反社会勢力じゃね? 村で略奪して、来年の種籾まで奪っていくタイプじゃね?
「乗りな」
「お、おう」
しかし、俺は、歩いていくのも飛んでいく気も無くなっていたせいか、バイクにまたがってしまったのだった。