プロローグ
「ねぇ、クリスティーネ。大きくなったら、ぼくのおよめさんになってくれる?」
「まぁ……ほんとうに? わたくしを?」
「うん。きみがいいんだ。へんじを聞かせて?」
「──はい……! とっても、とっても、うれしいですわ」
「よかった。じつは、ことわられたらどうしようって、ドキドキしてたんだ。
大好きだよ、クリスティーネ。ぜったいに、むかえにくるから。だから、まってて」
「はい。おまちしていますね」
それは、まだ私が十になったばかりの子供の頃。
プラチナブロンドの髪と空色の瞳を持つ、まるで天使の如き容姿の少年から、妖精のような愛らしさを持つシェルストレーム王国の王女クリスティーネ様へのプロポーズ。
当時クリスティーネ様の遊び相手として仕えていた私は、邪魔にならないよう少し離れたところから、手を取り合って互いを見つめ合う、私よりもさらに幼い二人を眺めて微笑んでいたのを覚えている。
頬を染めるクリスティーネ様がとても楽し気で、嬉しそうで、その様子がまた可愛らしくて、自分のことのように嬉しかったのだ。私自身が、まだ『貴族や王族の婚姻』の持つ意味を知らず、『結婚』というもの自体に憧れていた幼い少女だったから。
子供同士の、可愛い可愛い約束。
それがまさか、十二年も後になって思い出すことになろうとは、このときの私は思いもしなかったのだ。