夏祭り
纏め終わりの話です。この次の話からは、新作の予定。
今日は地元の神社で行われる夏祭り。出店も多く出ていて、見て廻るだけでワクワクしてくる。
だけど今の私には、そんな雰囲気を楽しめる余裕はない。
「ほ~ら、いつまでそんな暗い表情してるの? せっかく来たんだから、楽しもうよ」
「そうだよ~。可愛い浴衣も着てるんだしさ」
「……うん……」
そう返事をしてみたものの、やっぱり気分は晴れない。
瞳に映っている周りの様子が、何だか遠い世界みたいだ。
どうして私は今、こんな気持ちでここにいるんだろう?
本当なら、部活で来る事の出来ない彼氏の分まで楽しんでいたはずなのに。
「ッ……」
視界が微かに歪む。泣いちゃいけない。せっかく皆が楽しそうなのに。
「ほら、あいつの事なんて忘れて、ね?」
「そうそう。それにもうじき男子と合流するんだし」
“いつまでも、別れた彼氏の事なんて考えているな”
五人の表情はそう言っている様で、本当に悪いなと思う。
それでまた少し落ち込んでしまって、俯き加減で皆の後ろを歩きながら待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせている男子達は、普段から何かと集まって騒いでいる友達で、私の彼……だった人もその中の一人だった。だから当然私達の事も知っているから、ちょっと顔を合わせづらくもある。
けどこれは私達二人の問題だから、心配されない様にしないと。
そう思って顔を上げると。
待ち合わせ場所の鳥居の前に男子達がいるのが見えた。
そして、そこに……彼の姿も……。
え、どうして?
だって部活だって言っていたのに。
来るなら教えてくれればいいの……って、もう恋人じゃないんだから言う必要なんてないのか。
パニックになったり落ち込んだりと忙しくて、私の思考回路はショート寸前だ。
そして追い討ちをかける様な友達の一言。
「私達が頼んだんだ」
「二人でゆっくり話しなよ」
「じゃあ私らは行くから」
え? は?
ちょっと待って、何がどうしてどうなっているの?
状況が全く理解出来ずに気が付くと彼と二人きりになっていた。
続く無言。お祭りの喧騒が少し煩く感じる。
何を話せばいいのか、何を話すべきなのか判らない。
「……この前の事だけど。別に蔑ろにしたわけじゃない。傍にいるのが当たり前過ぎて。お前に言われて気付いた。ごめん」
真剣に謝る彼。その言葉をもっと早く……あの時に聞いていれば、私も素直に自分の非を認めて……今も別れずにいられたのかな?
でも、もう終わった事。
「……私も、わがまま言って、ごめんね? これからはまた……友達として、よろしくね?」
上手に、笑えてるかな?
「……俺は、今でもお前が好きなんだけど。というか、別れたつもりないんだけど」
「え……?」
「俺のお前を好きって気持ちは、どうすればいい?」
私はどうしたらいいんだろう?
あの時みたいに途中で逃げ去る事は、許されない……。