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死亡フラグはどうやったら回避出来るのだろう?

作者: 幻影

広い荒野のある所に二人の兵士が居た。

二人の兵士の任務は弾薬の補給所見張り兼、国境を越えようとする怪しい人物を射殺すること。

二人の内、兵士とは言えない女顔を持ち、長髪なのがアラと言う名前の男。取り敢えず一部隊のマスコット的存在だ。その容姿で数々の敵部隊の男達をタブらかし、破壊の限り尽くした。

そしてもう一人の兵士はアラより60cm背の高いノッポだ。

名前の通りノッポのクセして筋力が軍隊一無い。人並み以下な彼がどうやって闘いから生き残れたのか、兵士達の間では七不思議扱いをされていた。


「僕達の自己紹介酷くない?」


「事実だろ。つーかこんな所誰が攻撃してくるんねん! おかしいだろ、こんな所に誰が攻め込むかぁ!」


「あ、アラ駄目だよそんな事言ったら……任務を全うしなきゃ…」


ノッポは子供をあやす様にアラを高い高いする。


「ふんっ、第一、戦争で俺達優勢だろーが。誰が好き好んで自殺しにくるんだ? 来るとしとしたら相当なドMだぜ、気持ちワリイし頭でヤカンが沸騰する」


離せよー、と手と足を駆使し暴れてもノッポには大して効かなかった。

こんな同僚の姿を見れて可愛いとさえ思えてきた。


「よっこいしょ、っと。そうだよねー、だれがこんな場所を選ぶんだろーね?」


「選んだとしたら、かなりの暇人だ!」


お互いに笑いあった。

こんな暇で楽なミッションは無いな、とそれ以前にも楽しみな事があった。

それは、今日無事に過ごせば明日には兵士からただの一般人になれる事だった。

兵士に志願可能年齢は15歳からで、5年間兵士時代を生き残れば政府が安全と居場所、金銭面を保障してくれるのだ。

最も辛かったのは訓練だが、兵士になる前の関門だ。その関門は自分と同じ姿形をした捕獲した敵を殺すということだった。

その意味はこうだった。


『まだ大人へと成長していない少年少女達は殺人に抵抗感がある、だから今の内に慣れておかなければならない』


中には自殺した者も居れば、人格が残忍になった者も居た。

だが二人はそれを乗り越えた仲だった。

そして今日、兵士から開放されるのだ。


「色々あったよね」


「だがそれも本日限りだ!」


手と手を握りあい、回りあった。例えるならジャイアントスイング。

身体の小さいアラがノッポを振り回していたのだ。

ここで、二人はある嫌悪感があった。それは、


((あれ?この流れでいったら……死ぬんじゃね?))


と。

アラは最初に、回転力を弱めながらノッポを下ろした。

そして、


「なあ、俺達さ、」


「何かな?」


「死亡フラグ立ったんじゃね」


アラの一言が空気をブリザードに変えた。

そして、二人は弾薬の箱に座って寄り掛かる。

気まずい空気が流れる。

もしかしたら騒いでいる内に敵襲が来るんじゃないか、と思えてきた。


「……何か云えよ…」


「…………、僕さ、」


「…何だよ」


ゴソゴソ、と迷彩服のポッケからある写真を取り出す。

アラが覗いて見ると、大分古い初級所属部隊の集合写真であった。

そんなもの良く持っていたな、アラは思った。


(それ、カレーこぼしてカレー臭くなったから捨てたんだよな……)


「この可愛い女の子居るじゃん」


一列に並んでいる、左端のセミロングの髪の女性兵士を指した。


「ん? …ああ、クーダのことか」


「明日、結婚するんだ」


「おいぃいいいい 死んじゃうよ!? そんなこと言っちゃったら死んじゃうよ!? いつからそんな仲になったんだよ! 羨ましいぃ!! ってか死ね!」


「幼馴染みなんだ」


「うわぁああああ! もう死ぬ要素が二つ出てきたよオゥイ!」


「小さい時に約束したんだ。好きだ、兵士卒業したら結婚しようね、って」


「もうお前死ぬよ!? そんな事言ったら死んじゃうよ!! もう充分解ったからそれしまえ!!」


「明日さ君が神父やってくれ」


「やめろおおおおお! 俺を巻き込むなぁああああ!!」


「ナンダヨゥ、折角話したのに。アラはワガママでちゅねー」


「誰が死亡フラグ立てろと言ったボケぇ! つか頭撫でんな子供扱いすんな!」


「あはは、照れちゃってさ。可愛いなぁ」


「か、きゃわいい言うな!」


「可愛い、可愛い。アラって本当は女の子じゃない?」


「ッテメ、一緒に風呂入っただろ! アレ付いてただろ! 人おちょくってるとぶっ殺すぞ!!」


「あっはっはっは。落ち着いて落ち着いて。あ、そうそう、男子全員君と結婚したいって言ってたよ?」


「あのっ変態共っ…! どうりで俺の下着が……!!」


「え? マジ、キモ同期じゃん。ホモ同期じゃん。挙式にはみんな呼ばないでおこう……っと」


アラ弄りを止め、ノッポは立ち上がり積み上げられた弾薬の箱を避けて裏へ行く。


「おっ、おいどこ行くんだよ」


「んー、トイレ。オシッコしたくなってね。どうするアラも行く?」


「そんな気分じゃねえよー」


ノッポには見えないがアラは右手をヒラヒラさせ、行かないの合図を出す。

弾薬の見張りには一応それなりに優遇され、仮設住宅を建てられる。

そんな物建てるなら人工迎撃システムを置けば良いのだが、生憎予算が足りない為こうして人員を派遣している。


「あーあ、こんなバカに騒いでいたらもう夜か……」


兵士の5年間が、昨日のように感じる。

怪我もしたし、血反吐を吐いた。

あっという間の戦争だった。

夜空を見れば星が輝いている。そんな風に見れる余裕がどこにあったのか、いや、ありはしなかった。見る暇があればアラは敵を斬殺していた。

ボロボロの服を着て、敵地の中心に行き迷子の子供のフリをして敵を殺す、それがアラの大方の仕事だった。

殺すのはもう疲れた。

一番辛かったのは、兵士になりたての訓練。捕獲した敵を殺すこと。もっと辛かったのは、殺しても何も感じられない己だった。

殺しても、殺しても、何も悲しくなかった。当然のことだ、生きていくには仕方の無いことだと思える己が、辛かった。

だが、明日からだ。

殺さなくても生きていける場所がある。

明日から平和な日常が訪れる。

明日が来るのをこんなにワクワクしたのは、これが初めてだ。


(……あ、あれサクランボみたいじゃん…美味しそうだなあ)


紅い二つの点が、そう見えた。

兵士になりたての、二人で並んで歩いているノッポとアラのようにも見えた。


(今はクーダとアイツか……。あーあ、俺こんなんだからノッポみたいに結婚相手が見つからないんだろうな~…。そうだ、神父って何言えば良いんだろ? ………………ま、いっか、アイツが帰ってきたら――ん? あれ、何だ。星が大きく―――)


直後、アラの上を通り過ぎた紅い星が数十メートル先の地面に直撃し、爆発音を立てた。

耳を塞ぎ、即座に弾薬から離れ身体を丸める。

爆風に耐えられなかった数箱から弾丸が飛び出し、地面に叩き付けられた。

事が大体収まったところで身体を起こした。


(う…そだろ……)


アラは目を疑った。

直撃したのは地面ではなく、あった筈の仮設住宅。あの紅い星は星ではなく、小型ミサイル。

小型ミサイルが仮設住宅に入っていったであろう、ノッポごと撃破された。

茫然と立ち尽くしているアラの足にペシャリ、と何かが張り付いた。足に張り付いたものを取る。

オレンジ色で辺りが明るくなり、容易に張り付いたものが見えた。

初期部隊の写真だ。

ノッポが持っていた、あの写真。ポッケから取り出したあの写真。

カレーの香り付き写真を捨てたのと一緒のもの。


「……おい、ノッポ……クーダはどうすんだよ」


全身から力が抜けた。

膝が勝手に地にくっついて、自分では取れなくなっていた。


「ふざけっ…なっ……ぅ……じん父……っすんだよっ…!」


視界が、段々滲んでいく。


「ノッポっーーーーーーー!!!!!」


力の限り叫んだ。

身近に居る、親友が殺された。

5年間生き抜いた相棒が、死んだ。

さっきまで、バカな事をやったばかりの相棒が、死んだ。


「はーい……ってなにこれ!? どうすんの家燃えてんじゃん!」


「…………………は?」


崩れかけた箱の間を縫って、弾薬を踏みながらノッポが出てきた。


「大きな音がしたと思ったら…何でや! 何で家燃えてんねん!!」


「……ぇ……………ぅえ……?」


「あ、写真見つけてくれたの? ありがとーね、ポケット穴空いてたみたいでさー、写真無くなっちゃってって探してたんだよー」


ひょい、とノッポがアラの右手から集合写真を取り、胸ポケットに写真を入れる。


「どうしたのさ、そんなに泣いちゃって? …可愛いから良いけどさ……」


「え…? なに…どういう……え? トイレ行ってたんじゃ……?」


「……? 行ってたけど?」


「え? 何で? トイレあっちじゃないの…?」


「積まれた弾薬の箱の裏のトイレだけど? それが?」


「え……?」


「?」









おわり

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