第8夜
新年一発目の投稿です。
今回は元狙撃兵、現〈魔剣士〉高天原Aさんの投稿キャラ『鍛冶峰刀弥』と『御剣鞘香』の登場とLAN武のオリキャラ『風間流』の登場です。
セイガーと結華が共に過ごした一夜が明け、結華は宿に取った部屋に敷かれた布団の中で一人目覚めた。
昨夜の事は夢だったのか?そう思い部屋の中を見渡すと枕元に証拠が有る事に気付いた。
セイガーとの逢瀬が夢ではなかった証拠。
それは折れた刀身に布を巻きつけた大剣スウェンガナルとセイガーから結華と龍星に宛てた二通の手紙だった。
「セイ……」
結華は自分宛ての手紙を手に取ると封を切る。
そして、中に入っていた手紙を取り出し読み始めた。
『結華へ。
お前が寝てる間に時間が来ちまったから手紙を認めておく。
俺が死んだ時の事に何時までも捕らわれるな。
あの時、俺はお前を守れて幸せだった。だから笑って逝けたんだ。
ハンターは理不尽な事で命を落とす奴も多い。だが、俺は愛する女を守れた。だから俺に悔いはない。
お前も何時までも悩んでないで未来を向いて笑って歩いてくれ。
俺は何時でもお前を見守っているからな?
世界中で一番お前を愛するセイガーより。
追伸。スウェンガナルは龍星に渡してくれ。今のアイツにはスウェンガナルが必要だからな』
「……起こせよ。さよなら言えなかったじゃないか」
セイガーからの手紙を胸に抱き、結華はポツリと呟く。
「でも、ありがとうセイ。これで漸くあの日の夢に苦しまなくてすみそうだ」
セイガーの想いを受け取った結華の瞳から涙が零れ落ち布団に染みとなって消える。
そして、顔を上げた結華の表情は晴れ晴れとしていた。
「あんたの頼み確かに引き受けた。スウェンガナルは確実に龍さんに渡すよ」
そう言って結華は布団から立ち上がり、下着を着けスーツを着て、身支度を整えると荷物とセイガーから預かったスウェンガナルを手に取るとそのままチェックアウトして一路うさぎ屋へと向かってバイクを走らせるのだった。
「ただいま!龍さん居るか!?」
うさぎ屋に戻ってきた結華は開口一番龍星の所在を尋ねた。
「みゅ?お兄ちゃんならお部屋だよ?」
「そっか、ありがとなつぐみ」
「みゅ〜♪」
結華は龍星の居場所を教えてくれたつぐみの頭を優しく撫でる。撫でられたつぐみは嬉しいのか頭にうさみみが飛び出し、気持ち良さそうにゆらゆら揺れていた。
「龍さん、入るぜ」
結華は龍星の部屋の前に行くと軽くノックして扉を開け中へと入った。
「お帰り。……何か良い事でもあったのか?」
「まあな。それよりも預かり物だ。受け取りな」
そう言って背負っていたスウェンガナルを龍星の前に置き、預かっていた手紙を龍星に渡す。
「こ、これは……セイさんのスウェンガナル!」
「昨日の夜、あたしはセイに会った」
龍星はスウェンガナルを手に取り驚愕する。
「セイさんに会った?どういう事だ?」
「セイ曰く、あたしが危なかったから死神ぶん殴って1晩だけ戻ってきたそうだ」
結華がそう言うと龍星は思いっ切りテーブルに頭をぶつけた。
「し、死んでも変わらないなセイさんは」
額にでっかい絆創膏をつけながら、龍星は呟き手紙の封を切る。
『龍星へ。
何下らねえ事を悩んでんだお前は?
強い強くないは自分で決めろ。
死人に頼るな。
今のお前に必要なのは自分の武を十二分に発揮出来る獲物だ。だから、ちと早いが俺のスウェンガナルをくれてやる。
風流堂の流なら完璧に直せる筈だから直して使え。
お前の大事な奴らを守り抜いてみせろ。
俺は何時でも見ているからな?
お師匠様より。
追伸。お前、彼女と甘々なのは良いけどちったぁ周りの事も考えて甘々やれよ?』
「追伸が余計なお世話な上にあんたに言われとうないわぁぁぁぁっ!」
思わず手紙を握り締めながら心底叫ぶ龍星。
尚、これに驚いたせりかさんがつぐみの胸元に潜り込んでつぐみが慌てるという出来事があったが割愛する。
「り、龍さん?どうしたんだ?」
結華が突然叫んだ龍星を見て驚きながら尋ねる。
「いや、何でもない。セイさんには勝てないと思い知っただけだ(汗)」
「そ、そうか(汗)」
汗を浮かべながら遠い目をする龍星を見ながらこれまた額に汗を浮かべて言う結華であった。
「兎に角、風流堂に行って来るか」
「龍さん、セイが使ってたスウェンガナルのケース持って来るからちょっと待ってろ」
そう言って結華は部屋を出た。そして、数分後結華は黒い長方形のケース(バットケースみたいなバッグ)を持って戻って来た。
「ほらよ龍さん。大事に使ってくれよ?」
「ありがとう結華。じゃあ行って来る」
龍星は結華からケースを受け取るとスウェンガナルを中に入れ肩に担ぐとスウェンガナル修復の為に風流堂へと向かうのだった。
うさぎ屋から10分程歩いた場所にある『鍛冶・風流堂』。
龍星は店の前まで来ると扉に手を掛け店内へと入る。
「いらっしゃいませ!」
「刀弥。流さん居るか?」
カウンターに座る十代後半位の少年に龍星は尋ねる。
「あ、はい。少し待って下さいね?師匠!龍星さんがお越しですよー!」
刀弥と呼ばれた少年は己の師匠であり風流堂の店主を呼んだ。
「ん?どうかしたのか?珍しいじゃねぇか」
刀弥に呼ばれ奥から出て来たのは店主の風間流である。
「流さん、コイツの修復を頼みたい」
そう言って龍星はスウェンガナルをカウンターの上に置く。
「セイガーのスウェンガナルか。コイツは……」
布を剥ぎ取りスウェンガナルを手に取ってマジマジと視る流。
「龍星。コイツは既に死んだ剣だ。普通に直しても魂の無いコイツはナマクラ同然だぞ?」
「セイさんがあんたなら完璧に直せると手紙に書いてたんだ。術はあるんだろ?」
「セイガーが?どう言う事だ?」
龍星は結華に聞いた話を流と刀弥にも聞かせる。
「す、凄い人ですね(汗)」
「変わんねーなセイガー。直す術は確かにある。だが、それにはお前の協力がいるぞ」
「協力?」
「そうだ。死んだコイツを生き返らせる為にはお前の魂から創り出される魂鋼が必要だ。まあ安心しろ。死にはしねぇ。ただ滅茶苦茶痛いだけだ」
「それのどこに安心する要素が……?因みにどれくらい痛いんだ?」
「……死んだ方がマシかも知れません(汗)」
龍星の質問に刀弥が顔をひきつらせながら答えた。
「……(汗)ええい!俺も男だ!やってやる!」
龍星がそう答えると流はニヤリと笑い、
「良く言った!ついて来い!」
と言い龍星共々奥の方へと入って行った。
その数秒後。
『ウッギャアアアアアアアアアアッ!?』
龍星の魂を絞り出すかのような悲鳴が辺りに響き渡ったのだった。
おまけ『その後の刀弥』
「龍星さん、大丈夫かなぁ?師匠ってばわざと痛くするもんなぁ」
龍星の魂からの悲鳴が響き渡ってから数分後、流の弟子である鍛冶峰刀弥は頬杖をつきながら店番をしていた。
「こんにちは。店主は居るかしら?」
「あ、いらっしゃいま……せ」
カラカラと店の扉が開き、刀を持った美少女が店内に入って来た。
刀弥は何時もの様に接客しようとして失敗した。その少女に思わずみとれてしまったのだ。
「どうかしたのかしら?」
「はっ!すいません!今店主は奥で作業中でして、御用件は僕が承ります」
慌てて接客する刀弥に少女は手に持った刀をカウンターに置いて、
「この刀の研ぎをお願いするわ」
と言った。
「かしこまりました。では、この記入帳にお名前と連絡先をお書き下さい。研ぎ上がった時に此方から御連絡します」
「わかったわ」
刀弥からペンを受け取ると少女はノートに『御剣鞘香』と書き携帯の番号を書いた。
「御剣鞘香様ですね。確かに承りました」
「じゃあよろしくね?」
少女ー御剣鞘香は刀弥にそう言って風流堂から出て行った。
「御剣鞘香さんかぁ〜。綺麗な子だったなぁ」
「あら、ありがとう」
突如かけられた声に刀弥が弾かれた様に顔を入り口に向けると其処には先程出て行った筈の鞘香が笑って立っていた。
「あ、いや、今のはその」
「ふふふ♪ごめんなさい。2つ程聞き忘れてた事があったの」
鞘香は刀弥が慌てる姿を楽しそうに見詰めながら言った。
「聞き忘れてた事……ですか?」
「えぇ。一つは不動産屋の場所を教えて欲しいと言う事。もう一つはあなたの名前を聞くのを忘れてたのよ」
刀弥は顔を赤くしながら鞘香の質問に答える。
鞘香はそんな刀弥を見詰めながら微笑むのだった。
「あの、御剣さん」
「何かしら?」
「不動産屋を探しているって事は住む所をお探しですか?」
「えぇ。そうよ」
「なら、今奥に居るお客様がもう少ししたら出て来ると思いますのでそれまでお待ち頂けますか?」
「あら、何でかしら?」
「今来ているお客様は左島龍星さんと言う方でその方はハンターの寮みたいな事をやってる方なんですよ。まだ部屋も空いてる筈ですし頼んでみたらどうですか?」
笑顔で言う刀弥に鞘香は少し考える。そして、
「そうね。頼んでみようかしら?ありがとう刀弥君」
笑顔で言う鞘香にドキドキしながら刀弥はある違和感を感じた。
(何だろう?何か違和感が……。ああ、そうか。彼女は笑っているけど笑ってないんだ)
刀弥が気付いた違和感。
それは彼女の目だ。
彼女は顔は笑っていても目は少しも笑ってなかったのだ。
(何時の日か見てみたいな。彼女が心の其処から笑っている姿を……)
この後龍星達が出て来るまでの間、刀弥と鞘香はたわいもない話をしていた。
結局鞘香の住まいはうさぎ屋の空いてる部屋に決まり、刀弥が研ぎ上がった刀を届けに行った(事前に連絡はしてある)所、シャワーでも浴びていたのか鞘香はタオル一枚を身体に巻いた姿で応対し刀弥が鼻血を吹いて倒れたのは全くの余談である。
因みに、流は人間では有りません。
彼は千年を生きる風魔です。