第7夜
筆が進む!筆が進むぞー!と言う事で、連続でMOON NIGHT HUNTERの更新です。
今回はチル兄様のキャラクター『ジェームズ・ランフォート』と『セイガー・レンフォード』の登場です。
気付けば結華さんがメインになっていた。
そんな第7夜、どうぞごゆるりとお楽しみ下さい♪
「さて、問題はコイツをどうするか……だよなぁ」
ある夜の事。珍しく仕事の無い龍星は目の前にある折れ曲がったトンファーを見て呟いた。
「カーミラレベルの妖魔が出たらコイツじゃ受け止める事が出来ない。ならばもっと硬度の高い鋼を使うか?だが、それだと下手をすると殴り殺しかねないしなぁ」
龍星は悩みながらふと、本棚にある一冊のアルバムに目をやった。
「……セイさん、俺は強くなれたのかな?あんたに習った武をちゃんと引き継げてんのかな?」
龍星はアルバムを開くとそこにある写真を見ながら独り言を呟く。
其処には17歳の龍星と20歳の結華、そして龍星のハンターとしての師匠であり、結華の恋人だった男セイガー・レンフォードの姿が写った写真があった。
龍星が部屋で悩んでいる頃、結華は一人ベットの中でうなされていた。
「う……くっ!セイ、逃げて……セイィィィィィッ!」
ガバッと飛び起きる結華。その両目からはとめどなく涙が溢れ落ちる。
「あ?……またか。またあの夢か」
結華は流れる涙を拭おうともせず、ベットの上で一人呟く。
結華が見た夢は嘗て自らのミスでセイガーが死ぬ夢だった。
「なあセイ。あんた何であたしを庇ったんだ?あんたが生きてた方があたしなんかよりもっと沢山の人を救えたのに……。セイ……」
暗い部屋の中、結華は涙を流しながら今は亡きセイガーに想いを馳せるのだった。
「龍さん、ワリイけどあたし今日ちょっと出かけてくるわ」
次の日の朝、目を赤くした結華は朝食の席で龍星にそう言った。
「そうか、わかった」
龍星は頷くとそれ以上聞こうとはせずに黙々と食事を取り始めた。
「にゃ?遅くなるの?お昼どうする?お弁当作ろうか?」
「いや、どっかで食べるよ。ついでに夕ご飯も良いや。多分帰りは明日になるから」
尋ねてくる芹香にそう言うと結華は早々に食事を終え、部屋へと戻って行った。
「せりかっか?」
『どうしたんだろうね?結華さん』
せりかさんと霊体ベルーナは結華を見つめ首を傾げた。
「んじゃ、行ってくる」
しばらくして結華はうさぎ屋の前にバイクを止め、メットを被り龍星と芹香に言った。
「気を付けてね?」
「事故んなよ」
「あはは、大丈夫だよ。じゃ」
龍星と芹香の言葉に笑って応えると結華はアクセルを吹かしバイクを発進させた。
「さて、芹香俺は部屋に居るから何か有ったら呼んでくれ」
「うにゃ♪分かったよ」
龍星は芹香にそう言うと自分の部屋へと戻って行くのだった。
数時間後、とある墓地の近くにある宿に結華の姿があった。
『いらっしゃいませ!』
「すいません。急で悪いんですけど部屋空いてますか?」
「はい。一部屋空いてますよ」
「じゃあ、一泊お願いします」
「畏まりました」
結華が宿泊の手続きを済ませると従業員の女性が部屋へと案内してくれた。
「さ、行くか」
結華は腰に二丁のレイジングブルを納めたホルスターを着けると部屋から出る。
「お出掛けですか?お客様なら大丈夫かも知れませんがこの辺りも物騒になって来てますので気を付けて下さいね」
先程、部屋に案内してくれた女性が結華へと声をかけ「行ってらっしゃいませ」と軽くお辞儀をした。
結華はそれに手を挙げて応えると目的地である墓地へと向かうのだった。
墓地に向かう途中で花屋により花束を買い、更に酒屋に寄ってウィスキーを買うと再び墓地へと向かった。
「ん?誰か居るのか?」
墓地へと入り此処に眠るセイガーの墓の近くに来ると嘗てセイガーの使っていた大剣スウェンガナルが突き刺さったセイガーの墓の前に人影が有る事に気付く。
その人影は座ったまま結華に気付く事無く、セイガーの墓の前でちびりちびりと酒を飲んでいた。
「……何でてめぇが此処に居る!」
結華が更に近づくと、その人影の正体に気付いた。
「……セイガーの墓参りだ。毎年この時期になると此処に来てコイツと酒を飲んでいる」
その人影は漸く結華に気付くとコップに残った酒を飲み干して手酌で新たな酒をついだ。
「ふざけんな!セイはてめぇが殺したんだろうが!?ジェームズ・ランフォート!」
結華が叫ぶとその人影……氷狼の妖魔ジェームズ・ランフォートはゆっくりと立ち上がり一歩引いて墓の前から立ち退く。
「何の真似だ!」
「コイツの墓参りに来たんだろ?逃げはしないから墓参りを済ませると良い」
そう言ってジェームズは近くの木に向かうと木の根元に腰を下ろし、再び酒を飲み始めた。
ジェームズを睨みつつもセイガーの墓参りを済ませた結華はジェームズに近づくとレイジングブルを引き抜きその眉間に狙いを定めた。
「……あの戦いはオレの望む決着では無かった」
ジェームズはコップを握り潰すとゆっくり立ち上がり、残った酒をラッパ飲みで飲み干す。
「此処でお前に討たれてやっても良いが、オレもまだ死にたく無いのでな。手加減はしてやるから怪我の一つや二つは覚悟してくれ」
そう言ってジェームズは背中に背負っていた二本のショーテルを引き抜き両手に構える。
「うぉらぁっ!」
結華はレイジングブルを両手に持つとジェームズに向かって連射する。
だが、ジェームズはショーテルと体捌きを駆使して結華の連射を防ぎきり結華へと駆け出す。
「オラよっ!!」
結華は近付いてくるジェームズと距離を取る所か自ら近付き計7発の蹴りをぶち込む。
「ぐっ!」
腕をクロスさせ7発の蹴りを防ぐジェームズの眉間に結華はレイジングブルを撃つ。
「ちっ!避けやがったか」
ジェームズは眉間に撃たれた弾丸をショーテルで弾くともう一本のショーテルで結華に切りかかる。
「おっと!」
ショーテルを避けると結華は更にジェームズに近付く。
「ブッ飛べェッ!」
そして渾身の力を込めてジェームズを殴り飛ばす。
「ぐはっ!」
口から血を撒き散らしながら吹っ飛ぶジェームズを追撃しようと結華はジェームズに駆け寄る。……が、背筋を走る猛烈に嫌な予感を感じた結華はすぐさまバックステップで距離を取る。
「……ふむ。良い感だが少し遅かったな」
ゆらりと立ち上がるジェームズがそう呟くと同時に結華の手足から血が噴き出した。
「がっ……何時の間に」
痛みに顔をしかめる結華にジェームズはゆっくりと近付くと結華の顎を蹴り飛ばす。
「ぐふっ!」
そのままセイガーの墓の前まで吹っ飛ばされると結華は起きようとするが手足に力が入らずただもがくだけだった。
「(しまった!)ふぐっ!」
「止めとけ。脳を揺らしたんだ。力なんざ入らねえよ」
ジェームズを見上げる結華はジェームズを取り巻く気配が先程までと変わった事に気付いた。
「ったく、折角俺がセイガーの女だから生かしてやろうとしてんのに調子に乗りやがって」
ジェームズは結華のシャツにショーテルを引っ掛けるとそのまま結華の首もとまでショーテルを動かす。
「くっ!///何すんだこのスケベ野郎!」
結華のシャツは切り裂かれ豊かな胸が露わになる。
「な〜に、セイガーの墓の前でお前を辱めてやろうと思ってな」
ゆっくりと結華に近付くジェームズを睨み付けながら、結華はセイガーの墓に目を向ける。
(ごめんな?セイ。あたし、あんた以外の男に見られちゃったよ)
自然と流れ落ちる涙が地面へと落ちる。
その時である!
『おいおい。人が寝てる前で何、人の女に手を出そうとしてんだよ?』
辺りに響き渡る聞き覚えのある声に結華は驚いた。
「あ、あ……!」
「な、何でお前が!?」
驚くジェームズと結華の間に光が集まりゆっくりと人の形を取る。
そして、セイガーの墓に突き刺さったスウェンガナルを引き抜いて肩に担ぐ。
「う……あ」
視界が涙で曇る結華だが、その人物の姿ははっきりと分かった。
黒い髪をオールバックに纏め、白いスーツに日に焼けた浅黒い肌を包むその男はどこからともなく取り出した煙草に火を付けゆっくりと紫煙を吐き出す。
『大丈夫か?結華。ったく、オレ以外の野郎に肌を見られてんじゃねーよ』
その男は結華が見慣れた顔で、にっと笑うと結華の黒いスーツの前を閉める。
「迷って出たか!セイガー・レンフォードォォォォッ!」
ジェームズがその男の名を叫ぶ。そう、その男は嘗ての結華の婚約者でありジェームズが確かに殺したセイガー・レンフォードその人であった。
『ん?ああ、何でオレが現世に居るのかって事か?』
セイガーの言葉に結華もジェームズもコクコクと頷く。
『いや、結華が危なかったから死神ぶん殴って戻ってきた』
「「死神ぶん殴るなよ!」」
あっけらかんと言うセイガーに思わず声を揃えてツッコむジェームズと結華だった。
『さぁて、ジェームズゥ?結華から売った喧嘩とは言え結華を傷付けるとはなぁ』
ゆらりと立ち上がるセイガーは刀身が折れたスウェンガナルを自然体で構えるとジェームズを睨み付ける。
「くはは!よもやお前と再び剣を交える事が出来るとは!奇跡とやらに感謝するぞ!」
『奇跡?違うな。コイツはオレを想う結華と結華を想うオレの愛の力だ!』
「こっ恥ずかしい事大声で叫ぶなあ!///」
臆面めなく言い放ったセイガーに顔を真っ赤にしてツッコむ結華。
『この身体はオレの霊力で作った一夜限りの幻影。出来りゃあお前の相手をしてやりてぇが、残りの時間は結華と久しぶりに愛し合うのに使いたいからな。端っから全開で行くぜ?』
不意に真面目になるとセイガーはスウェンガナルに炎の渦を生み出す。
『久々に喰らいな!秘剣・轟火剣嵐!』
セイガーがスウェンガナルを突き出すと凄まじい炎の嵐がジェームズに襲い掛かる。
「くあっ!当たらんぞセイガー!」
『悪いな?轟火剣嵐はおとりだ』
「なっ!」
ジェームズが轟火剣嵐を避けると何時の間にか目の前にセイガーがいた。
『秘剣・百火繚嵐!』
セイガーは叫ぶと高速でジェームズの後方に土煙を上げ立ち止まる。
「っ!ガァァァァァァッ!」
次の瞬間、ジェームズの身体を業火が包み込む。
『炎の桜吹雪に包まれな』
セイガーは煙草を取り出すと飛んできた火の粉で火をつける。
「ぐっ!」
しかし、ジェームズは身体の周りに吹雪を起こし業火を掻き消した。
『ほう』
「はーはーっ。……流石だなセイガー。それでこそ嘗ての我が宿敵。最強のハンターと呼ばれた男!」
肩で息をしながら笑うジェームズと煙草を吸い紫煙を吐き出しながら笑うセイガー。
「……今宵はお前達の愛とやらの力に免じて退くとしよう。さらばだ宿敵よ!!」
ジェームズは笑いながらそう言うと暗闇の中へと姿を消した。
『じゃあなジェームズ。決着は何れ地獄で着けようぜ?宿敵よ』
セイガーもまた笑いながらジェームズを見送るのだった。
「セイ!」
『おっと!』
ジェームズを見送ったセイガーが振り向くと結華が笑顔で飛び込んできた。
セイガーは難なく片手で結華を抱き締めるとそっと口付けを交わした。
「ん……。はぁ」
『はぁ。熱烈歓迎だな結華?』
セイガーはスウェンガナルを地面に突き刺すと久しぶりの結華の温もりを堪能するように両手で抱き締める。
「セイ。例え一夜限りでもあんたに会えて嬉しいよ」
『オレもだ。結華とこうして抱き合えるのが堪らなく嬉しい』
セイガーは片手で結華を抱き上げると残った手でスウェンガナルを引き抜きゆっくりと歩き出す。
「ちょっ///」
『さっき言ったろ?残った時間でたっぷりと愛し合おうぜ結華』
セイガーは結華を抱き上げたまま結華の泊まる宿へと向かい、そして時間の許す限り結華との逢瀬を楽しむのであった。
因みにセイガーが使った術は『陽身体の術』と言います。
この術、霊力で実体を作ると言うとんでもない術です。
故に結華さんとも愛し合う事が出来るのです♪
因みにネタ元は某週刊誌で連載されていた霊能力教師の漫画です。
次回は龍星の新武器の登場です。