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闇と光

初投稿です。誤字脱字などあるとは思いますが、どうか大目にみてやってください。

 Side―unknown 



彼は何年も、何十年も、何百年もその空間にいた。何も存在しない、ただ闇が広がるだけのその空間に。この空間に囚われる前には、彼に×××と名付けた人がいた。彼を××と呼ぶ人もいた。その記憶は彼にとって宝物だった。もう二度と見ることのできない宝物。もし自分が狂ってしまったときに壊してしまわないように、箱に入れて鍵を閉めて幾重にも鎖を掛ける。そうして心の奥深くにそっと仕舞う。それからどれ程の時間が経っただろうか。

 痛みに悶絶し、苦しみを抱えて、辛苦を舐め、孤独に絶望し、闇に恐怖し、彼は泣き叫ぶ。何も見えない、何も存在していないはずなのに自分はそこにいる。どうして俺が、なんて疑問を闇に吐きだしても返ってくるものなどなにもない。狂えれば楽だった。狂ってしまえば良かった。でも。彼は。

 彼は、瞼を閉じる。そんなものは存在していないが、まあ、気分のようなものだ。彼には肉体はなかった。精神――言うなれば魂のようなものだけしか持っていなかった。だから。どれだけ叫びたくても叫べない。どれだけ暴れたくても暴れられない。どれだけ逃げ出したくても逃げ出せない。彼は永遠にここに囚われ続ける。

 閉じた瞼に映るのはどこかの風景。幸せそうに笑う人々に嫉妬し、苦しむ人を嘲り、死んだ人を嗤い、神頼みする人を蔑み、全ての人を憎む。そうでもしないと、強い感情を持たないと、意識を保つことなど不可能だった。ピアノ線よりも細い脆弱な意識の糸は、今すぐにでも切れてしまいそうで。彼は何としてでも繋ぎとめなければならなかった。絶望して絶望して絶望した、その中に僅かに残る、いつかここから出ることができるのではないかという希望の為に。その時まで、彼は、狂う訳にはいかない。

 映る風景と共に激痛、などという生易しい表現では足りないほどの痛みが彼を襲う。彼は目を開けた。あの風景は、彼の世界。彼がここにいるから存在している世界。彼が耐えているから廻っている世界。ゆえに、彼がそこからいなくなれば、世界は消える。

正直言って、そんなことどうでも良かった。彼は何一つ見通すことのできない闇の奥を睨む。ここから出ることができれば、あんな糞みたいな世界、滅ぼうが崩壊しようが消滅しようが蹂躙されようがどうだっていい。むしろ、滅んでしまえばいい。彼が苦しんでいることも知らない能天気な屑共の住む世界なんて。

憎い羨ましい妬ましい殺したい踏みつぶしたい奴らの能天気な顔を見るたびに虫唾が走る。反吐がでる。私は僕は貴様はお前は貴方は――俺は。全てを壊してやる。泥水を啜ってでも生き延びてやる。絶対に、世界なんかに屈しはしない。

 口を開ければ入り込んでくる濃厚な闇を飲み下し、彼は待つ。その日が来るのを。



 Side―とある世界の少年 


 いつからだろう? 

物心ついたころには既にそうだったような気がする。世界が苦しんでいる。そう感じるようになったのは。

 雨は世界の涙。風は世界の叫び。照りつける太陽は世界の怒り。地震は世界の憎しみ。雷は世界の痛み。

 別に詩的な表現をした訳ではない。実際にそうなんだ。世界は僕たちを憎んでいる。僕たちを、殺そうとしている。その圧倒的な負の感情に少年は震える。世界をなんとかしないと、少年が殺されてしまう。そう思って、世界のことをよく知ろうとして、世界が少年を憎まないようにしようとして。最初は恐かったからだった。

でも、いつからだろう?

本気で世界を救いたいと思い始めたのは。世界のことを知れば知るほど、世界の感情に触れれば触れるほど、救いたい、救わなくては、と思っていった。だって。悲しすぎる。自然の全てに負の感情を込めて。どこででも世界は苦しんでいて。それなのに、世界はどこにもいなかった。どこにでもいるのにどこにもいない。謎かけみたいだ。

世界を救いたい。

 バカみたいな、荒唐無稽な夢。子どもなら一度は夢見て、そして諦めるような夢。だが少年はそこらの子どものように、思いつきで言ったのではない。本気で、救いたいと思った。周りの子どもに指をさされて嗤われても、大人たちに諭されても、変人のレッテルを貼られても、少年は諦めなかった。諦めなかっただけで、何かをしたとか、達成した訳でもないけど、と少年は自嘲の笑いを浮かべた。

今日の天気は雪。他の子どもたちは喜んで遊んでいるけれど、少年はその気にはならなかった。雪――それは一番悲しい感情。孤独。世界が孤独に震えて降らすのが雪。世界がそんな感情で降らす雪を喜ぶことができなかった。

他の子どもたちは無邪気に遊ぶ。それを見て少年は溜息を吐いた。どうして分からないんだ。僕たちは何かを間違えている。そう言いたかった。言ったところでどうせバカにされるだけで。もし、受け入れてもらえたところで、小さな子どもの力で何ができる? 世界を救う? どうやって? 少年は不毛な自問を繰り返す。

答えはでない。それでも少年は世界を救いたかった。キミは独りで今日も苦しんでいるのか。少年は手の平にのった雪に語りかける。

空を仰げば白い花がひらひらと舞い降りてくる。一陣の風が吹いて花を攫っていった。

『助けて……!』

 何だろう? 少年は首を傾げた。声が聞こえたような気がした。周りを見ても、先ほどと変わりはない景色が続いているだけだ。疲れているのかな。最近はよく眠れていなかったから。でも、大丈夫。僕よりも世界の方が辛いんだ。少年はそう自分に言い聞かせて、家に帰るという選択肢を潰した。世界が孤独に震えているのなら、僕はせめて雪に寄り添っていないと。

 少年はその場に座って、落ちていた木の枝を手に取った。積もった雪の上に絵を描く。完成したその絵をみて少年は笑みを零す。満足のいく出来だ。そこに描かれていたのは少年と、もう一人、同い年の少年。気の強そうな瞳をしたその少年は笑ってこそいなかったものの、幸せそうだった。絵の中の少年は、その少年の隣で笑っている。

 夢に見た景色。

 キミを救いだすから、そしたら、一緒に遊ぼう。

 そう、約束をした。といっても、僕の夢の中で、一方的に約束しただけなんだけどね。少年は苦笑して、空を仰ぐ。ねえ、世界。キミはどんな名前なの?

 その時、強い風が吹いた。少年は毛糸の帽子が飛ばされないように、両手で頭を押さえる。

『もうここは嫌だ。ここから出たい……!』

 今の声は……! 少年は辺りを見渡す。少年以外に今の声を聞いた者はいないようだった。今の声は、世界、キミなの? 少年の問いは、風に紛れて誰にも届くことはなかった。



こんな駄文を読んでいただいてありがとうございます。

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