最後に召喚されたのは…
ちょっとダークなファンタジーに挑戦。
召喚って、他力本願の極致だと思う作者の考えから生まれました。
明るい話ではありません、ご了承ください。
いまから勇者を召喚をするとある異世界は、他力本願病というとにかく自分ではなにもしたくない、という厄介な病気に世界全体が羅漢している。食べるものも少なくなりこのままでは餓死するということで、勇者を召喚することにした。
◎ケースその1 :Aさん(50歳主婦)の場合。
『我らの希望に応える勇者よ、我らを救い給え…<召喚>!』
魔法陣のまわりで召喚師たちが叫ぶ。
それなりに眩しい光とともに現れたのは…
「それでね、奥さん! あの人ったら自分の旦那さんをほったらして、韓流スターの追っかけして…とうとう韓国にって…あれ?」
彼らは崩壊する世界を救う勇者を召喚したはずだった。
だがしかし、召喚の魔法陣の中にいるのは…どうみても買い物帰りの小太りなおばさんだった。
手に下げてる袋らしきモノから、食べ物が見えている。
『…なんということだ! 失敗ではないか、勇者を呼んでなぜこんなおばさんが…くそっ、やり直しだ!』
『ではあの方はどうします?』
『送り返せ!』
…というわけで、買い物帰りに突然拉致召喚されたAさん(50歳)はすぐさま元の世界に戻された。
時間にしてほんの数分だった。だが元の世界では、半月は経過していた。家族が突然行方不明になったAさんを必死に探していたが、ある日ひょっこり帰宅した。
「ただいまー、今日はすき焼きよ。それとね、さっき面白いとこに行ったのよ! 変な頭巾被った怪しい外人に囲まれてね…」と消えていたときのことをぺらぺらと話しだし、家族は呆気に取られた。
それでも、彼女の携帯の時間の表示・買い物の日付は行方不明当時のままであったため、不思議な神隠しとして一躍時の人となった。
◎ケースその2 :Bさん(59歳教師)の場合。
Aさんを送り返したあと、力を使い果たした術者を全員入れ替え、懲りもせずまた召喚を行った。
そんなことをする暇があるなら、世界を救う方に力を使えばいいのに…とは誰も思わない。
他力本願病にかかっている異世界人の世界、勇者召喚は当然の行為と思っている。
『我らの世界を救う力ある勇者を…<召喚>!』
頼む、今度こそ勇者よ来てくれ!という祈りとともに現れたのは…
ものすご-く薄暗い光とともに現れたのは…
「はい、ここでこの場合どうすればいいと思いますか? では川島くん、…ん?」
魔法陣の中には、やつれた風貌の初老のBさん(59歳)が立っていた、手にはチョーク。
彼はもうすぐ定年退職する。彼が担任をしている最後の授業の真っ最中だった、当然生徒の前で突然消えてしまったことになる。
『…なんだこいつは…また失敗か?! こんな年寄りを召喚してどうする?』
魔法陣の中にいたBさん、言葉はわかりませんが、自分を指差し失礼なことを言っているのに気が付いた。
そこで、手にしていたチョークを思い切り一番偉そうにしているおっさんに投げた。
それはおっさんには当たらず、ぽとりと床に落ちましたが…床に触れた瞬間大爆発がおきた。
その爆風にまぎれ、召喚されたBさんは偶然にも元の世界に戻れたのである。
やはり数分しかいなかったはずなのに、元の世界では半月以上が経っていた。
突然、生徒の目の前から消えニュースにもなった。
そして、消えた時と同じようにひょっこり戻ってきた先生に、生徒たちも先生たちも驚いた。
先生は、無表情で自分に起きたことを淡々と警察に話したのである。
つい最近も行方不明だった主婦が、半月後戻ってきたばかり。
なにか関係があるのではないか?と警察を始め、テレビや雑誌などあちこちで議論されていた。
ケース その3:Cさん(29歳研究員)の場合。
相次ぐ召喚の失敗にヨレヨレの異世界人たち。しかし、彼らには他力本願しか頭にない。
もう失敗は許されない。 次が文字通り最後の勇者召喚となるのは間違いない。
『滅び行く我らを助けたまえ! 勇者を…<召喚>』
最後の力を振り絞り、召喚は成功した。
今までにない激しい光とともにそこに現れたのは…
髪はボサボサで顔は見えず幽鬼のような、性別の判断のしにくい人がゆらゆらと立っていた。
手にはシュウ~シュウ~と煙りを出すフラスコを持っている。
怪しげな風貌に怪しげな何かを持つ勇者に、さすがにざわつく。
『仕方ない。もはやこの勇者様に頼むしか…我らに救いの道はないのだ!』
彼らは、幽鬼のような勇者に膝まずきこう切り出した。
『異界より喚ばれし勇者様、滅亡に向かう我が国をお救いください。』
それを聞いた勇者はゆらりゆらりと歩きだし、一番偉そうなおっさんの前に立った。
そして手に持つ怪しげな液体を飲め!とばかりに差し出した。
ざわつく周囲の人々。
『これを飲めと…? …わかりました。』
一番偉そうなおっさんは覚悟を決めた。 グビッと一口飲んだその瞬間、彼は…急にやる気がでてきた、そう…この世界にはびこる他力本願病が完治したのだった。
急にはしゃぎ出したおっさんに、どう反応してよいか分からない部下たち。
『勇者様、その素晴らしい薬をもっとたくさん作れませんか?』
言葉が通じないであろう勇者に頼んでみた。だが…、あろうことか勇者はそれを自分の口に含みどこかのプロレスラーのように、霧状にふりまき始めた。
『うわあああ』
部下に霧状の液体が当たるとバタバタと倒れてしまった。
その薬は口から飲めば薬だが、そうでない状態では毒となるのだった。
ぴくぴくしいるので死んではいないようだ。
そうして、元気なのはおっさん一人になってしまった。
『…人に頼らず、他人を当てにする国民病がここまで世界を崩壊に導くとは思わなかった。私だけ元気になっても…もはやだれも救えない。』
せっかく他力本願病が治ったのに、自分一人だけ元気でいても仕方がない。
どうしたらいいのか途方にくれていたら、勇者がおっさんの手を掴み召喚の魔法陣の中に入り…そして二人はどこかに消えてしまった。
実はCさんは、意外に美丈夫なおっさん(の健康そうな体)に一目惚れしまったのである。
言葉は通じなくてもなんとかなるだろう、と自分の世界に連れて帰った…何気にすごい勇者である。
さて、突然知らない世界に連れて来られた異世界のおっさんは、非常にうろたえた。
『ここはどこなんだ? 汚いし、なにより臭い!』
鼻をつまんで彼は叫ぶ。
彼女の研究室兼自宅はどんなゴミ屋敷も真っ青であり、何を研究していたのかは不明だが、ろくでもないのはおっさんでもわかったのだった。
「お・じ・さ・ん、急に連れてきてごめんね? 実はあなた(の健康そうな体)にひとめぼれしちゃいました。私といっしょにいてくれるよね?まあ、私を勝手に召喚したんだしNOとは言わせないけど。ふふふ…」
にっこり笑顔であるが、肌はガサガサで吹き出物だらけ…とても正視できる女性ではなかった。
おっさんは言葉はわからないが、その女から危険な香りがしてくる。
というか、どうして彼女は私の腕を掴んで…
ガチャン!
おっさんは手錠をかけられ、そして研究所に監禁されてしまったのだった。
ここにはこの女性以外誰も近寄らない、彼女が怪しげな薬の開発をしていると近所の人は知っているからだ。
『何をする? これを外せ! 私を誰だと思って…る…』
急に薄れゆく意識の中で彼はこう思った。
(自分の世界をすくう勇者の召喚をすることばかりに気を取られ、自分たちでどうにかしようとすることを考えなかった報いなのか?)
実は、最初の召喚のAさんは見た目は普通のおばさんですが、料理が非常に上手でそのまま勇者として迎えて優遇していたら、この世界の食事は改善され他力本願病も治るはずだった。
次に召喚したBさんは、見た目は初老のおじさんだったが、先生を長年していただけあって知識は豊富でで同じように優遇していれば、彼の知識でこの世界は発展し他力本願病も治るはずだった。
そして…最後に召喚したCさんは、いろんな薬を開発・研究している人だった。
彼女が手にしていた薬はある病の特効薬として開発していたものである。
しかし、実験体になる「人」がいないのでどうしようかと思っていた時に召喚された。
ある意味、お互いの利害が一致した召喚だったともいえる。
しかし、彼女は助けるのはおっさんだけにした。
というのも、他の人間はガリガリにやつれていて自分の薬の実験に使えないと判断したから。
一番ぴんぴんしてタフそうなおっさんの体に一目ぼれした…というわけである。
その後、彼女の研究所からは夜な夜な悲鳴が響き渡り、いよいよ誰も近づかなくなった。
そして、彼女の開発するいろんな薬は副作用も少なく、非常に効き目が高いとして世界から注目されるのである。
おしまい。
最後に召喚したのは、マッドサイエンティストでした。
異世界に救いももたらすけれど、破壊ももたらす存在。どちらになるかは勇者の気分次第という話。
召喚って、呼ばれた方はいい迷惑だなーと思ったことから考えたダークなお話でした。
召喚の条件に合った人しか来ないのだから、見た目で判断してはいけないよーというお話でもあります。
おっさんはどうなったか…ご想像にお任せします。
文体がバラバラでしたので、統一しました。2月17日。