第三話〜森〜
俺は一人、布団の中で生徒手帳のメッセージをみていた。
好きです…付き合ってください…
誰が書いたんだ…って、あいつしかいないか…
いや、でももしかしたらあいつじゃないかも…
今日は学校を抜け出してからこの繰り返しだった。
あいつとはもちろん白井 美沙だ。
俺は興味のあるわからない事は徹底的に調べないと気が済まなかった。
もちろん恋には興味なかった俺だが、恋じゃなく、誰が俺の生徒手帳にこれを書いたのかという事だけにが気になった。
どう調べる…
直接あいつに聞く…って、そんな事できるわけがない。
そんな事をずっと考えても全然いい案が浮かばない。
気が付くともう昼の1時だった。
いつのまに…学校なら飯食い終ってる時間じゃんと思ったら急に腹が減ってきた。
「飯食べよ」
俺はゆっくり布団から抜け出した。
そして、ある事を思い出した。
鞄を投げた
それは俺にとって、とても重大な事だったのだ。
何故かというと、あの中には弁当が入ってる。
俺はすぐさま下に降り鞄をあさり弁当を取り出した。
中は少しぐちゃぐちゃになっていたが、食べれる事にはちがいない。
そして、至福の時を過ごした。
食べ終り、俺は気分転換にどこかへ行く事にした。
制服を脱ぎ、ジーパンに白い半袖、俺はそんな服装で家を出た。
気分転換と行っても行く所はいつも同じ場所。
近くの森だった。
この森は誰かの物らしく、いつも森の周りには柵があり立ち入り禁止の札が張られていた。
初めて入ったのは五年前。
まだ俺が12歳の時の春、原因は忘れたが泣きながら家出をして森にきた事があった。
この森は小さかったが、木がびっしりとはえていて、真ん中辺りは少し木がない空間がある。
そこからだと空以外の外の景色はまったく見えなくなる。
時々鳥が鳴いたり、朝や昼は太陽の光がやさしく入り込む自然な世界に、夜は月の光がやさしく入り込み、さらに空に星が浮かぶ幻想的な世界に。
その空間はまるで別の世界にいるみたいになるのだ。
夜に家出した12歳の時の俺は泣くのを忘れて、その幻想的な世界に感動していた。
その5分後、俺の母親がきたない服にエプロンをしたまま俺の名を呼んでいた。
俺は何故か自分のしてる事が急に恥ずかしくなって、母の元に帰った。
母は
「ごめんね、ごめんね」と俺の頭を撫でながら泣いていたのを覚えてる。
俺には父親がいない。
だから母親が仕事している。
母の仕事はキャバクラ。
だから家にいる時以外、見た目にはとても気を使っていた。
隣の家に回覧番を渡しに行く時だけでも、わざわざ服を着替えて化粧していたほどだ。
そんな母が、きたない服にエプロンまでしてすっぴんの顔で俺を大声で探してたと思うと、今でも自分に腹が立つ。
その日から、俺は母に迷惑もかけていない。
森にも時々行くようになった。
俺は森に入り、真ん中で目を瞑り寝転がった。
自然に囲まれて、うとうとと寝そうになっていたら、足音が聞こえた。
俺は無視した。
「天海くん…」
俺に近付き声をかけたのは美沙だった。
美沙は俺の横にゆっくりと座った。
俺は無視し続けていたら、いつのまにか寝てしまった。
「ん…」
俺は少し肌寒くなって目を覚ました。
辺りは少し暗くなりはじめていた。
そろそろ帰ろうと思い、体を起こすと何かが腹の上に被せるように置いててあるので拾いあげた。
「制服…?」
腹に被せられていたのは俺の高校の女子の制服の上着だった。
そして、拾いあげたさいに紙が一枚その制服から落ちた。
紙には
「明日返してね。みさ」と書かれていた。
俺は辺りを見回した。
美沙がいるかと思ったからだ。
だが、いない。
俺は紙をジーパンのポケットに入れて、制服を持った。
そして、家へ帰った。
家のドアを開けると、何やら騒がしかった。
どうやら母が暴れてるみたいだ。
俺は恐る恐る台所の戸を開けた。
「聖!!どこ行ってたの!?ごはんはそこにあるから!!あぁー遅刻するー!!」
母はあたふたあたふたしながら、仕事へ行く準備をする。
俺は飯なら自分で作れるからいいのにといつもながら思う。
母は仕事上、夕方に出勤して朝早くに帰ってきて寝る。
そのため、自分の朝飯、弁当、母の昼飯を俺が作る。
他の家事、洗濯、掃除も俺がやる。
晩飯と買い物も俺がやると言ったら母は
「それだけは私がやる!!」と言って母がやってる。
俺が椅子に座って晩飯をさっさと食べ終っていたら、母がいってきまーすと言って家を出ていった。
そして俺は、家に一人になる。
俺は立ち上がり、玄関に持っていた美沙の制服を適当に投げて、自分の部屋へ行った。
自分の部屋に入り、生徒手帳とポケットに入ってる紙を取り出した。
「好きです。付き合ってください。」
「明日返してね。みさ」
二つのメッセージを見比べて、同じ奴かどうか見分けようと思ったのだ。
だが、そんな事しても俺にはわからなかった。
俺はちっと舌打ちして生徒手帳に紙をはさんで部屋にある机に置いた。
あいつに直接聞いて
「好きです。付き合ってください。」がもしあいつじゃなかったらかなり恥ずかしい。
けど気になる。
そして俺は決心した。
直接聞く。
もしちがうんだったら逃げよう。
そう決めた。