田中圭介
田中圭介は、今日も可愛かった。
笑うと少し目が垂れて、
驚くと素直に声が出る。
クラスメイトからも後輩からも、無自覚に好かれるタイプ。
(今日も平和に可愛いな)
高橋美穂は、いつもの席から圭介を見ていた。
(見てるだけ。
声はかけない。
迷惑もかけない)
それが、長年培ってきた距離感だ。
圭介が消しゴムを落とす。
拾おうとして、机の脚にぶつかる。
圭介「あ、いて」
(可愛い)
反射で立ち上がりかけて、美穂は自分を止めた。
(だめ。
今の私が行くと“鈴木くんの友達”が行くことになる)
代わりに、前の席の男子が消しゴムを拾う。
圭介「ありがとう」
にこっと笑う。
(……その笑顔、本当は私が受け取る予定だったんだけどな)
そんな予定は、もちろん圭介は知らない。
昼休み。
圭介が和也の席に寄ってくる。
圭介「なあ和也、今日の昼飯さ」
和也「ん?」
その流れで、視線が美穂に向く。
圭介「高橋さん達と一緒に食べてたよね」
(“高橋さん”呼び)
和也「最近な、少し話すようになった」
(最近って言うな)
圭介は特に深く考えた様子もなく、うなずいた。
圭介「そっか。仲いいんだ」
(……確定)
圭介の声は軽い。
そこに疑いも、探りもない。
(ああ、この人)
(私のこと、
完全に“鈴木和也の友達枠”に入れたな)
圭介はそれ以上何も言わず、話題を部活の話に変えた。
美穂は、視線を落とした。
(違うんだけどな)
(私は、
あなたを見るためにここにいる)
でも、それは伝わらない。
放課後。
廊下ですれ違ったとき。
圭介「あ、高橋さん」
(呼ばれた)
美穂「なに?」
(声、平常心。よし)
圭介「鈴木と仲いいよね」
(追撃)
圭介は笑っている。
本当に、ただの世間話だ。
美穂「……まあ」
(否定も肯定も、もう遅い)
圭介「いいなあ」
(え?)
圭介「和也、良い奴だよな」
(そっちの評価か)
美穂は、少しだけ安心して、
同時に、少しだけ苦しくなった。
(圭介の中で私は、
“和也経由の知り合い”)
圭介「じゃ、また」
軽く手を振って、去っていく。
美穂はその背中を見送った。
(今日も見つめただけ)
(今日も、何も変わらなかった)
――いや。
(変わったか)
(“見つめている理由”が、
本人に一番遠い形で伝わってる)
美穂は、小さく息を吐いた。
(このままじゃ、
本当に“友達の友達”で終わる)
そう思いながらも、
視線は自然と、また圭介を追ってしまう。
(……ほんと、学ばないな私)




