鈴木和也
その異変は、突然だった。
放課後の教室。
美穂が鞄を閉めた、その横に――影が差す。
(……はい?)
見上げる前から分かる。
この圧のある身長差は一人しかいない。
和也「高橋さん」
(うわ来た)
鈴木和也が、爽やかな顔で立っていた。
爽やかすぎて、逆に警戒心が湧くタイプの笑顔だ。
美穂「……なに?」
(なんで私に話しかける。用件を言え。簡潔に)
和也は一瞬だけ視線を泳がせ、それから軽く頭をかいた。
和也「前から思ってたんだけどさ」
(やめて。“前から”とか言うのやめて)
和也「俺たち、ちゃんと話したことないよね」
(ないし、今後もなくていいです)
美穂は黙って次の言葉を待つ。
嫌な予感は、だいたい当たる。
和也「だからさ。友達にならない?」
(は?)
理解が追いつかない。
(なんで? どうして? 私?)
美穂「……は?」
思考と同じ言葉が、そのまま口から出た。
和也「クラス同じだし。 圭介とも仲良いし」
その一言で、美穂の思考回路が一気に切り替わる。
(圭介と……仲いい……)
鈴木和也。
田中圭介の親友。
圭介の隣に自然に立てる男。
(……え、これ、使えるのでは?)
心の中で、電卓が高速回転を始める。
ウザさとメリットを天秤にかける。
(ウザい:高
メリット:圭介との接点 特大)
和也「嫌なら全然いいんだけど」
そう言いながらも、和也は距離を詰めない。
押してこない。引きもしない。
(あ、これ断りづらいやつ)
美穂は一度、視線を逸らす。
その先で、圭介が友人と話しているのが見えた。
(……近づくチャンス、ではある)
ウザい。
正直、かなりウザい。
(でも今断ったら、このルート二度と繋がらない気がする)
美穂は深く息を吸って、覚悟を決めた。
美穂「……友達、ね」
和也「うん」
(あーもう)
美穂「いいよ。別に」
和也の顔が、ぱっと明るくなる。
和也「ほんと? やった」
(軽っ)
美穂は内心で盛大にため息をついた。
(これはあくまで“作戦”だから。
目的は田中圭介。
鈴木和也は――踏み台)
自分に言い聞かせて無理矢理納得する。




