視線
高橋美穂は、自分がそんなに分かりやすいとは思っていない。
教室の斜め前、窓際二列目。
私の想い人の田中圭介がそこに座っている以上、視線がそっちに向くのは当然だろう。
人間として。常識として。
圭介が笑う。
それだけで胸の奥が、きゅっとする。
(はい可愛い。今日も元気で何よりです)
そんなことを考えていた、その瞬間。
舞香「また鈴木くん見てる」
美穂「見てない!」
反射で否定したが、声が大き過ぎた。
周囲の視線が一斉に集まる。
(あ、これ完全に“図星突かれた人”の反応だ)
美穂はゆっくりと視線を下げる。
……そこにいたのは、鈴木和也だった。
(違う! 違うけど! なんで今そこにいるの!)
鈴木和也。
クラス一番のイケメン。圭介の友人。
圭介の近くにいる率が異常に高いせいで、視界に入る確率も高いだけの男。
舞香「ほらー。無意識じゃん」
美穂「だから違うってば!」
(私の視線の“ターゲット”は田中圭介です! 射線上に鈴木くんが居ただけです!)
しかし、その心の叫びが届くはずもなく、
教室には「なるほどね」という空気が広がっていく。
(誰も聞いてないし!)
誤解は、説明される前に完成する。
それがこのクラスの仕様らしい。
昼休み。
舞香はおにぎりをかじりながら、妙に真剣な顔で言った。
舞香「美穂さ、忠告しとくけど」
美穂「やな予感しかしないんだけど」
舞香「鈴木くん、彼女いるって噂あるよ」
(……はい?)
舞香「別の学校の、美人らしい」
(待って待って待って)
美穂「……それ、私に関係ある?」
舞香「あるでしょ」
舞香は即答した。
その迷いのなさが、逆に怖い。
舞香「だからさ。どうせ無理なんだし、諦めなって」
(だから違うって言ってるでしょ私は!!)
叫びたい。
今すぐ訂正したい。
(好きなのは田中圭介です! そっちじゃありません!)
けれど声に出す勇気はなくて、
美穂は黙って視線を机に落とした。
その先で、圭介と和也が並んで笑っている。
(……なんで“誤解されてる方”が一番楽しそうなの)
今日もまた、
高橋美穂の恋は、誰にも正しく認識されないまま進行中だった。




