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プロローグ:三つのクランと二人の変態

 エデンズには膨大な武器や防具などのアイテム類、発生条件もわからないさまざまなクエスト、初期の職業から派生したり、はたまたクエスト攻略で手に入る職業など、一冊の本にすら収まりきらないほどの要素がある。

 それらの情報を収集し、ゲーム内の要素を全プレイヤーに分け隔てなく提供する一つの巨大クランがあった。

 その名も『アトラス』

 アトラスとはこのゲームにおける知恵の神のことを指し、彼らは自らが信仰する神の名をクラン名とした。

 彼らの使命はただ一つ。

 自らが居を構える王都の図書館に一つでも多くの情報を蓄えること。


 そんなクランがある日、エデンズの世界に一つの情報を公開した。


『日本時間の7月24日18時20分ごろ、推定ではあるが、このエデンズで初期スポーンエリア、もとい“聖域”を生きて脱出したプレイヤーの存在を確認したとの情報。例のプレイヤーは頭部に近未来的な装備、もしくはアクセサリーを装備しており、アバターは幼女体型の大太刀使い。プレイヤーネームは“アサ”』


————————————



 アトラスの情報公開から30分後——クラン『聖剣の鞘』本部第一会議室


「各自、アトラスの情報は確認したか」


「見ました」


「うっす」


「問題ないです」


「では各自、他のクランに先を越されぬよう当人の捜索、及び確保に動け。モノロード支部への連絡も忘れるように」



————————————



 アトラスの情報公開から20分後——クラン『軌道列車団』


「SF装備かっこいい、欲しい、もらう、以上解散!!」


「「「「了解!!」」」」



————————————



 アトラスの情報公開直後——クラン『アトラス』


「本当に情報を公開してもよかったのでしょうか?」


「ああ、構わないさ。逆にこの情報を公開したことによって幾つかのクランが、彼女、もしくは彼の捜索にあたるだろう。そうなれば各地に配属したアトラスのメンバーが騒動の発生源を特定し、自ずと渦中のプレーヤーがいる場所が特定できる。探す手間が省けると言うものだよ」


 そう、邪悪な目論みを嬉々として語らい、嗤うのはクラン『アトラス』のリーダー。

 彼女もまた、アサを狙う猛獣の一人である。



————————————



「このアサってプレイヤーネームに幼女体型の大剣使い…… まさかだけど“アイツ”なのか?」


 ゲーム内でアトラスが発行しているニュース記事を読みながら、その名前とプレイスタイルに既視感を覚えた男は、自身の既視感の成否を確かめるべく、とあるフレンドに連絡を取る。


『夕べアトラスが公開したこの記事にあるアサってアイツだよな』


『十中八九あってると思う。“あの”理詰めで幼女体系にする変態鬼畜ゲー中毒プレイヤーでしかないでしょこんなの』


『そうだよな、こいつやっぱり……』


『『不死身の虚王“アーサー”』』




 数多ある鬼畜ゲーの中でもさらに鬼畜、伝説の鬼畜ゲーとまで言われた『刃紋』というゲームがあった。

 運営会社のメインコンピューターがハッキングされたことにより、今では会社ごと消えてなくなってしまったゲームだが、かつてはその高いゲーム性と自由度で世界一の神ゲーとも評された伝説の鬼畜ゲー。

 波紋の広大な剣と魔法のダークな世界では、日々プレイヤーたちによる血みどろな戦闘が繰り広げられていた。

 そのゲームで最も価値のあるものは『生存時間』。逆に言えば、キル数も攻撃力も、団結力もその世界では何の意味も持たなかった。

 そんな『より長く生き残ったものが強い』という世界に彗星の如く現れ、圧倒的な『最長生存記録』を伸ばし続けたプレイヤーがいた。

 その名も「アーサー」人呼んで『不死身の虚王アーサー』である。

 小柄な幼女の体型に、体格に見合わぬ巨大剣を携えたアーサーは、その世界が終わるその日まで生存時間を伸ばし続け、ついには誰にも倒されることなく“ノーデス”でそのゲームを完遂した伝説のプレイヤーである。



『いやー、笑っちゃうよね。二つ名の考案者が誰なのかは知らないけど、ゲームがサ終した後にそんな厨二病臭い名前つけられちゃうんだから同情しちゃうよ』


『なあ、俺アーサー、もといアサを俺たちのパーティーに誘おうと思うんだけどどう思う?』 


『いいんじゃない? 波紋の“トップランカー”同士で語らいたい思い出もあるしね』


『オッケー決まり!! じゃあ、アサを見つけ次第フレンド申請送って、そのまま勧誘って流れでよろ』



————————————



 そんな策略が繰り広げられる一方、当の本人といえば。


「いただきまーす」


「高っいカニなんだからよく味わって食べなさいよ? ああそれと、カニは蟹味噌につけて食べるのがおすすめ」


「わかってるって…… うお、これうっま!!」


 家族とカニを食っていた。

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