Ep6:唯一無二
この『エデンズ』と言うゲームには数多のクエストが存在し、その中には発生条件が特殊なものや、サービス開始から半年以上2000万人にも及ぶプレイヤーがいるのにも関わらず、未だその存在が明らかになっていないクエストが存在する…
そんな特殊なクエストの中でもさらに特殊なクエストが存在し、それらのクエストは“クエスト”と言う分類にありながらも表記は“ストーリー”となっており、このエデンズ全体を巻き込んだストーリーの進行に大きく関与していると噂され、直近で発生したストーリーといえば、とある3つのクラン間で巻き起こった“戦争クエスト”『抗争叙事詩:兵共が夢の後』が記憶に新しいだろう。
だがそれらは往々にして、規律を持った集団が特定の条件を満たしたときに発生すると言うのが定石で、個人でストーリークエストを発生させたなどという前例は存在しなかった……
―――――――――
「初めてってことは……」
「うん、そのままの意味だよ。私の領域である、この『聖域』から多くの外界人が新天地へ旅立ったが、その際ここに立ち寄るものは一人いなかったんだ」
自分で用意した茶菓子を頬張りながら、アトラは微笑む。
「この近くまで辿りついたやつは至っちゃいたんだけどね。どいつもこいつも足元ばっかり見ながら歩くものだから空いる“アイツ”に気づきもしない」
「アイツというと、あのでっかい鳥のことか?」
「ピンポン大正解、その点君は優秀だね。君はまるで何度も何度もアイツに襲われたことがあるみたいにアイツを恐れて、空が見えるような場所には全く近づこうとしなかった」
それを言われて「ああ、そういえばそうだったな」と自分の行動を省みて、何度も苔に躓きそうになった理由に合点がいった。
完全な無意識下での行動選択だったが、今になってその無意識にありがたみを感じる。
なぜそんなことを無意識におこなっていたのか? それは以前プレイした鬼畜ゲーによってついたクセのせいだと言える。
『ワールド・ザ・コロシアム』と言うゲームは広大なジャングルの中で、銃火器で武装した“サバイバー”たちが殺し合いをし、半日にもわたる長期戦の末ただ一人の生き残りを決めるといったサバイバル×バトルロワイヤルといったジャンルのゲームだった。
クソ運営のクソ調整と相次ぐコラボによるクソ環境のせいで、今ではとっくにサ終してしまったのだが、発売当時の人気はすごいもので、毎実朝から晩まで血みどろの争いが繰り広げられていた。
俺もそんなゲームのサバイバーの一人であり、休日は毎回そのゲームに心血注ぎ取り組んでいたものだ。
あの頃の『ワドコロ』は思い出すだけで胸が躍るとともに胃がキリキリしてくる。
ワドコロはジャングルが舞台というだけあって敵は人間だけではなかった。ワニや虎などといったさまざまな敵対野生生物の中で、一番害悪と名高い野生生物が空の覇者『狂える肉食鳥』。
空が見える場所で迂闊に行動していると即退場するハメになりかねないという正真正銘のクソモンスターだ。
「森では空の警戒を怠ってはならぬ」というのが、『ワドコロ』を上位ランク帯までやりこんだプレイヤーたちに共通して植え付けられた、絶対原則である。
「まさか、それがこんなとこで役に立ってくるとは…… 人生ってわかんないもんだな」
「何はともあれ、君はこうしてここに辿り着き、外界人で初めて私と接触を果たした君を見込んで一つ提案をしたい。まず、君にこれをあげよう」
そう言われ、手渡されたのは顔の上半分をすっぽり覆うような未来技術が詰まっていそうなメカメカしいバイザー。全体が金属のような黒いプレートで作られていて、視界を確保できるような透き通った構造はどこにも見られない。
「これは?」
「それは『真を視る鉄鋼仮面』正式名称は『アナライズアイ』というインプラントデバイスだ。動体視力向上や認識速度向上で戦闘を補助してくれる他に、旧文明の遺跡の装置の解読やパスキーの複製やアイテムや装備品の効果の解析などにも使える。ついでに私との連絡手段にもなる便利な装置だよ」
そんな説明を片手間に聞きながら、とりあえずそれを装備してみる。
装備してみると、いかにも高性能デバイスって感じの駆動音とともに俺のアバターにフィットした。
視界は良好。強制目隠しプレイを強制してくるなんて機能はなく、何なら少し視力が良くなったように感じるほどだ。
「あ、これ頭装備じゃなくてアクセサリー枠なんだ。便利だな、これなら頭装備と併用できる」
「説明中に付けてしまうとは…… まあいい、説得の手間が省けた」
「へ?」
呆けた声をあげる俺を尻目に、彼女は猛獣の飛ぶ空を見上げながら話を続けた。
「そのインプラントはこの世界に1つしか存在しない特注品、当然それを欲しがる者は大勢いるだろう。人の欲とは際限がなく、どんな猛獣、どんな龍よりも恐ろしい。それを手に入れてしまった以上、君にはさまざまな試練が立ちはだかり、困難が待ち受けるだろう。もし、越えられない障壁に当たり行き詰まったり、目まぐるしく移り変わる時代の波に飲まれ、少し休みたくなったら、またここを訪れるといい。そのための機能なら、インプラントにインストールしておいた。部屋ならたくさんあるし、君が私の研究に朝から晩まで付き合いたいと言うのなら君をここに住まわせることもできる。だが君は外界人で、きっとまだ見ぬ世界を開拓することを望むのだろうから、私は君をここに留めはしない」
そこでアトラは一旦話をやめ、何かに思いを巡らせるようにその金色の目を閉じた。
しばらく微風と木々の小波に耳をすませていると、目を閉じたままアトラは、また先ほどのような捉えどころの無いような表情に戻る。
「まあ、要するに『いつでも会いに来い』ということだ。じゃあ、幸運を祈る」
そう言うと、アトラは最後の茶菓子を口に頬張りながら、会いている方の片手で指をパチンと鳴らし、気づけば俺は明るい紅葉樹美しいの森の中にいた。
「あれ? ここは……」
見たことがある。そう直感したのは、ここがゲームのパッケージにもなっている、とある場所のすぐ近くだったからで……
「最初の街のすぐ近くだ!!」
半日以上の紆余曲折を経て、俺はついにこのゲームを始めることができたのだった。
俺たちの冒険はこれからだ!!(終わらないよ)




