Ep4:万人受けとは此れ如何に
さらに森を彷徨い続け30分。
蜜雀蜂の軍隊雀蜂を倒したことによりドロップしたアイテム『抗毒薬;ハニーワスプの神経毒』を使用することによって何とか一旦死の危機は回避することができたが、それはそれとして、俺は依然と深い森を彷徨い続けている。
「これ本当に大衆向けゲームかよ」
俺がこのゲームを今までプレイして最初に抱いた感想がまさにこの言葉に詰まっている。
的確に不意をついてくるモンスター、いつまでたっても影すら見えぬ人里、使えないマップに、足りないリソース。
万人受けとはこれ如何に。こんなゲーム俺みたいなある程度ゲーム慣れした人種でなければ森に入った瞬間に瞬殺されて、そのまま即リスポーンするのでは?
俺はそんな疑問を抱えながらなおも森を彷徨う。
「初期武器の大太刀も壊れて、今や手元の武器はそこら変で拾った『いいかんじの木の棒』……どうするんだよこれ」
回復手段がないのでHPもそこを着きかけ、今モンスターに遭遇すれば確実に死ぬ。
それに、このゲームはさすが現実的と言った感じで、森に入ってからは凸凹とした地形が広がり、歩いていれば川や崖が頻繁に現れる。
段差や高低差も結構あるため、転けたり転落したりでリスポーンになりかねないのが洒落になってない。
「おっとっと……危ねえ、危うく苔で滑るところだった」
一歩一歩を警戒しないと前にもろくに進めない本格サバイバル。
そこらへんに実っている木の身を少しずつ食べて、少しずつ体力を回復しているものの、下手すれば一撃で死ぬ。
「っと? なんか開けてる?」
不意に森が開け、広がる平らな石畳。
一瞬町かとも思ったがそんなことはなく、森を開いて儲けられたその空間には家らしき物は見当たらず、構造物といえば中央にポツンと生えている謎の石柱が五本。
そしてその石柱群の中央に佇む影が一つ。
ゲームを開始して初めて出会った人工物。
そしてその人工物を見た瞬間、俺の『鬼畜ゲー脳』に根付く本能が最大級の警告信号を発する。
それは数多のゲーム(鬼畜ゲー)に必ず存在していると行ってもいいテンプレ。
一度や二度この手のゲームをやったことがある者ならばわかるだろう、その既視感の正体は……
「これボス戦じゃね?」
『平らで開けた場所があったら、そこにはボスがいると思え』とは誰の言葉だったか……
ボス戦という大きな戦いの場には、必ずそれなりのフィールドがいるというものだ。
凸凹とした自然的な自然の中に存在する圧倒的違和感。それは意図的に外部の手、言い換えてみればゲームを創った者の作為の表れである。
通常の俺であれば、まだ見ぬ敵を求め勇猛果敢に特攻していただろうが、今の状況ではそうはいかない。
何せHPは半分を切っている上に、物資も枯渇している、加えて武器全損、低レベル、それにチュートリアルすら始まっていないと来たものだ。
今ボスに挑戦するなんて蛮勇超えて狂気の領域。
正直突撃してボスのツラを一目見てみたいとも思ったが、ここで死んで初期地点にリスポーンするなんて冗談抜きでゲーム引退案件なので、触らぬ神に祟りなしってやつだ。
「ここは一時退散って、うわぁ!?」
急いで撤退しようとしたところ、突如として何もない場所ですっ転ぶ俺。
今何かにぶつかったか?
デコにヒリヒリと言う痛みを感じた俺は、石畳と土の地面との間の空間に手を伸ばす。
すると確かにそこに『見えない壁』が確かにあった。
「はへゑ? もしかして……閉じ込められた?」
最悪の状況、最悪のタイミング。
さまざまな思考を巡らせ、逡巡の末、俺は最悪の事態に備え腹を括る。
こうなれば……よし、ボスをボコすしか道はない!!
覚悟を決めた俺は、水底ボスであると思われる人影の方向に立ち返る。
「こうなりゃヤケだ!! かかってこいよ!!!」
未だ動かぬ影を見据えて、俺は最大限の警戒体制を敷き、インベントリからなけなしの武器『いい感じの木の棒』となけなしの装備『木に枝をくっつけて作った盾』を装備する。
改めてひっどい装備だなあ……
まあ現実を見るのはこれくらいにしておいて、ここからは夢を見る時間だ。
ボコボコに殴り倒してやるよ、この木の枝でなあ!!
と、そんなことを考えていると、遠くで佇んでいた影が少し動きを見せ、何かを呟いた。
『来て』
刹那、俺の体はその影の主の目の前にあった。
「なっ!?」
腰まで伸びる雪のような白髪、黄金の輝きを放つ瞳、そして最も特徴的な背に生えた純白の翼に頭上に浮いた天使の光輪。
推定ボスモンスターであると判断したそれは、美しい女性の姿をしていた。
「へえ? 小柄なのに血気盛んだねえ…… 君は“外界人”かい?」




