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Ep3:メガネザルは猿、猿眼鏡は眼鏡。では仮想現実は?

 眼前に広がる雄大な光景。

 広大な高原の空気は澄み渡り、暖かな日差しに包まれた草原を時折心地の良いそよ風が優しくなで、その大地の向こうに聳える尖った山々が、雄々しい自然を強調している。

 空は底の見えないほどに深い青色に包まれ、綿菓子のようにふわふわとした真っ白な雲がゆっくりと流れる。


「これがエデンズの世界か」


 思った以上の完成度。

 ここまでくると現実世界と仮想現実の見分けがつかなくなってくるな。

 早速だがをミングアップだ、少し走ってみよう。


「すごい、動くぞ!!」


 何の違和感もなく動く身体、高い身体能力。

 つい先日までプレイしていた『スローターズフィスト』は動きがどこかぎこちなく、もっさりとしていたので、ひさびさな快適なゲーム体験に少し感動してしまった。


「まあ、それはいい。チュートリアルとかオープニングイベントとかはまだかな?」


 俺が今までプレイしてきたゲームはかなりの高頻度でチュートリアルがない鬼畜仕様だったが、これはあくまで『大衆向けゲーム』。本格的にゲームが始まるまでに何らかしらのチュートリアルのようなものがあると思うのだが……


「……ないな、この感じは」


 かれこれ2分間ほど景色を眺めたり、体を動かしたり、土遊びをしたり、メーニュー画面をいじり回したりしているのだが、一向にそれらしいイベントが始まる気配がない。

 それを察して、俺は最初の街『モノロード』へ向かうため、地図を開いた。

 

「……? 街は?」


 この手のゲームでは大体の場合、初期スポーン地点は必ず街の近くになると思うのだが、地図をどれだけ拡大縮小しても、それらしいものは全くと表記されていない。

 まさかとは思うが、地図を入手しないと街とか表示されないタイプのマップか?


「……」


 突如俺の背に走る悪寒と、脳裏によぎる最悪な想定。

 始まらないチュートリアル、使い物にならないマップ、広大で目印になりそうなものが山くらいしかないリアリティー重視のフィールド……

 鬼畜ゲーに侵食されきった脳が訴えかけてくる、強烈な既視感……


「まさかこれ、鬼畜ゲーか?」


———————————————


 ゲーム開始からかれこれ二時間経過。

 俺は人里を求め、深い森の中を彷徨っていた。

 それも、蜂型のモンスターの軍勢に追われながら……


「うおおお!!!! 死んでたまるかあああ!!」


 すでに何度か蜂型のモンスター『ハニーワスプ』に刺され、状態異常『神経毒Lv .Ⅲ』の効果で体力が10を切っている。

 こんなことになるなら回復スキルを分解するんじゃなかったと後悔したりもしたが、過ぎたことはどうしようもない。

 今早急に行わなければならないのは、このクソスズメバチを叩き潰すか、ターゲットを切って早く街に辿り着くこと。

 

「よっしゃあ!! クールタイムが明けた!! ブーストダッシュ!!!!」


 『ブーストダッシュ(20秒間移動動作にプラス10%補正が入る)』を使い、何とかハニーワスプから距離を置く。

 これ以上刺されて、神経毒状態が悪化したりでもすればリスポーン待ったなし。

 リスポーン地点を固定していない以上、死んだ時にどこにリスポーンするかわからないため、また初期スポーン地点に戻ってしまうことを恐れた俺は、全力で走って逃げていた。


「クッソッ!! このままじゃ埒があかねえ。 これでも食いやがれ!!」


 ずっと追いかけられるのがとうとう頭にきた俺は、スキルの効果が切れたタイミングでスキル『跳躍(ハイジャンプ)』を発動し、体質(パッシブ)『滑空』で加速。その際にこれまでのLvアップで得たスキル『黒曜鉱鱗』で一時的なダメージカットを付与し蜂の軍勢に突撃する。


「死なば諸共!! 37564(皆殺し)じゃあああ!!!!」


 蜂の軍勢と交わる直前にスキル『大太刀旋風』を発動。

 耐久力ゲージが髪の毛ほどしか残っていないほぼ全壊状態の大太刀をグルグルと高速で振り回し、蜂の軍勢を斬撃で一気に撃破していく。

 蜂の軍勢の総数は20体ほどで、そのスキル一撃で残りの蜂は一体。

 その蜂は他の蜂より若干大きく、特殊個体と見てまず間違い無いだろう。


「そんなあなたにはこの技をプレゼント!!」


 これまでの二時間でこのゲームについて分かったことがいくつかある。

 一つは、このゲームの世界では現実世界の物理法則の常識が“ほとんど”そのまま通用するということ。

 オブジェクトとオブジェクトをぶつければすり抜けず衝突するし、もっと強くぶつければ壊れる。

 その破片一つ一つに判定があり、それは木の葉一枚や水飛沫一粒にだって適応される。

 そこら変に生えている木を削って弓矢や剣をこさえて敵を攻撃できるし、ましてやそこら辺に落ちてる石だって、投げれば立派な武器になるのだ。

 そんな完璧と言っていいほどに再現された物理法則にも、ゲームをゲームとして成立させるために、ねじ曲げられた法則がある。

 それがプレーヤーの『ステータス』という概念。

 例えば、プレイヤーのアバターがどれだけ大きな体と筋肉を持っていたとしても、STRの値が足りていなければ大剣を振り回すことはできない。

 そしてその逆もまた然り。

 武器を投擲し、俺の小さな体から離れた大太刀は、多めに振られたSTRのためか現実的にはあり得ないほどの速度で飛翔し、蜂の胴体を貫通する。

 ブーストダッシュを起動し、一気に距離を詰め、その大太刀の取手を握ったのちに、そのまま蜂を地面へと叩きつける。

 剣と一体化した蜂を振り回すとき、与えるダメージ量の計算に使われるのはこのナマクラの攻撃力ではなく、STR(腕力)から繰り出される単純な物理法則。

 

「はっはー!! どうだクソスズメバチ!! 剣と一体かしたお前なんぞ、STRに極振りしていると言っても過言ではない今の俺のステータスならば押さえ込むのも造作のないこと!! 剣に突き刺さったまま、岩に叩きつけられて死ねぃ!!」


 ちょうどクールタイムの明けたスキル『打撃(スマッシュ)』を使って気に鉢を叩きつける。

 その瞬間蜂の体はクリティカルパーティクルの光と共に、カラフルなポリゴン状の光が蜂の体を包み込み、その体が弾ける。

 

討伐懸賞(バウンティー):アーミーワスプの討伐を完了しました』

『アチーブメント:“挑戦者(チャレンジャー)”を獲得しました』

『アチーブメント:“新人懸賞狩り”を獲得しました』

『コモンクエスト:“変異種狩り”が発生しました』

『コモンクエスト:“変異種狩り”を達成しました』

『チュートリアルクエスト:“冒険者の序章”が発生しました』

『チュートリアルクエスト:“冒険者の序章”の目標が更新されました』

『イベントアイテム:アクセサリ“蜂のお守り”を獲得しました』

『職業:“大太刀使い”のカテゴリーが変更可能になりました』

『Lvアップ:Lv17→Lv20』

『スキル:新たなスキルが習得可能になりました』

『SP:SPを30獲得しました』

そりゃあ、運営の想定外の遊び方してるんだから、モンスターも理不尽に強いですよ。

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