Ep11:レベリングPart4
全身がキラキラ輝く宝石のような鱗で覆われたその大蛇の戦闘スタイルを、一言で言い表すならば『殺人バウンド攻撃』。つまるところプレイヤーキラー“星海きらら”と似通った戦闘スタイルをとっているわけだ。
優に五十を超える巣穴と思しき空洞から、まるで砲弾のように飛び出てきては、攻撃したのち別の穴に潜ってゆく。それに、この蛇はどうやら“風属性”の魔法を使うことができるようで、時々蛇の通過した経路で空気が爆ぜることがあるので、それも注意しなければならない。
星海のそれとは違い、次の攻撃までに数秒の猶予があるものの、全方向からランダムに飛んでくる攻撃は一撃一撃が致命傷になり得る凶悪なもので、おまけに時折油断しているところを図ったように魔法攻撃を仕掛けてくる。
どちらも厄介極まりない点だが、それらを差し置いて一番厄介なのはその『硬さ』。
さすが鉱物系モンスターといったところで、斬撃系のダメージが全く通らない。
先ほどから栄花刃術『紫陽花』はクールタイムが明け次第即時発動でフル回転しているし、『紫陽花』が発動していない時間は、反射術でなんとか凌いでいるが、やはり反射術は信頼性が低く、タイミングを間違うとバカにならないダメージを負ってしまう。
大太刀『翠柳』の耐久値は度重なる戦闘での消耗で五分の一を切り、武器の耐久値を大きく削る『受け流し』は武器を失うリスクを負った切り札となっている。
撤退。
その二文字が何度の脳裏をよぎったことか。
武器の損耗、足りないリソース、明らかに不足しているレベルとスキル、環境の悪さ、情報不足。
圧倒的に不利な条件。このゲームは何度俺に理不尽を叩きつけてくるんだ。
ダメージが足りない、回復が足りない、アイテムが足りない、スキルが足りない、レベルが足りない、。
何もかもが不足して、それを得られないとなればどうするか?
あるもので戦う、それしかないだろう。今までだってそうしてきた。
数多の理不尽を乗り越えてきた俺にはそれができるはずだ!!
宝石蛇の攻撃をパリィしつつ、周囲の地形を把握。
音で、どのように宝石蛇が動いているのかも把握。
パターン、攻撃手段、相手の硬度、弱点部位の仮説を立て検証、それの繰り返し。
数多の鬼畜ゲーで培ってきた基本を忘れるな。
死ななけりゃいつか勝てる、それが俺の基本戦術だ。
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浅倉翔太というプレイヤーの最大の強みは何か?
数多の鬼畜ゲーをクリアした経験? 敵の攻撃に対する常軌を逸した反応速度?
否、彼の最大の強みは『状況分析能力』と、それをもととした正確無比な『判断能力』だ。
人間、動物、プログラム、どんなものであっても必ずそれらはある一定の『法則』を持っている。
例えば人であれば、決まった戦法や行動パターンが存在し、動物であれば獲物を狩るための『習性』が存在する。
浅倉が基本とするのは、それらの『パターン』の分析。
彼がゲーム内の戦闘において『攻撃』よりも『防御』を優先するのは、分析を済ませるための時間を稼ぐため。
その間に彼は相手の『パターン』に対応する『テンプレート』を構築する。
一見、彼の戦術は地味で、はっきりいってしまえば、かっこよくない。
俊足で敵を翻弄し、訳もわからぬまま高火力の一撃を叩き込み瞬殺。
有り余る体力と防御で敵の攻撃を受けつつ、超火力の一撃で粉砕。
超高等なプレイヤースキルで相手を圧倒し勝利。
奇想天外な行動で相手に一瞬の隙も与えず圧勝。
そんな手を持たぬ一般プレイヤーの生存戦略を極めた彼の戦術は、一見決め手にかけるようにも感じるが、それゆえに隙がなく万能。
他のゲームで彼と戦ったことのあるプレイヤーは皆口を揃えてこう言う。
『あいつはしぶとすぎる』と。
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このモンスターとの戦闘が始まって、ずっと疑問に思っていた「コーン」と響く謎の鉄琴のような音の正体。
最初は、宝石蛇がどこから攻撃を仕掛けてくるのかプレイヤーに教えるためのギミックのようなものかと思っていたが、このゲームはそのようなご都合主義的なプレイヤーのための設計をするはずがない、ということを失念していた。
理由があり、結果がある。それがこのゲームの鉄則。
宝石蛇が飛び出してくる穴をよく観察してみると、内部は蛇の鱗と同質と思しき結晶でコーティングされていることに気がついた。
そこから俺は、音が鳴るのは“宝石蛇が穴の中に潜っている間だけ”であることから、おそらくあの音の正体は穴の内部の結晶と蛇の結晶状の鱗がぶつかり合ったときに発生する音であると言う仮説を立てた。
その仮説に基づいて考えると、今度は“なぜ蛇は穴を結晶でコーティングしているのか?” という問いが生まれるわけだ。
そこで、次に俺が立てた仮説は、“加速するための摩擦抵抗を減らすため”というもの。
そもそも、宝石蛇はどうやってあんなに加速しているんだ? と考えたときに、ここはファンタジーの世界であるからして、なんらかの“魔法”用いていると考えるのが自然だ。
そして、奴が使う魔法といえば“空気を爆発させる魔法”。
「つまり、お前は空洞内で空気を爆発させその爆風と、抵抗のない“砲身”の相乗効果で圧倒的な加速を得ているとみた!!」
ということは、だ。
その抵抗のない砲身に“抵抗を加える”ことができたなら、奴の機動力は大幅に弱体化することができるのではないか?
「さあ、検証の時間だっ!!」
俺は、インベントリから俺を散々苦しめた、とあるモンスターがドロップしたアイテムを取り出し、突撃してくる宝石蛇に投げつけた。
「くっそ、いつか舐めるために取っといたのに!!」
俺が投げつけたのは蜜雀蜂の蜂蜜の瓶。言わずもがな、あの蜜雀蜂からドロップしたアイテムで、蜂蜜であるからして“非常に高い粘性”を持っている。
そしてそれは、宝石蛇の加速に対する十分な“抵抗”になり得ると俺は踏んだ。
蜂蜜攻撃を食らった宝石蛇はあからさまに嫌そうな顔をして、再び穴に潜る。
すると、なんということでしょう!! 蛇がなかなか穴から飛び出してこないじゃないですか!!
数秒後、再び蛇が穴から飛び出してきたが、明らかに先ほどより勢いが落ちていて、そのまま失速した宝石蛇は、穴に飛び込めずに地面へ落ちてきた。
どうやら、俺の仮説は間違っていなかったらしい。
シャーーー!!
「めっちゃキレてるよ、この蛇」
宝石蛇の明らかな威嚇。
全身蜂蜜でベトベトになって、甘い匂いを漂わせる蛇は、もう砲弾攻撃が通用しなくなってしまったのを悟ったのか、どうやら正々堂々肉弾戦を挑んでくるようだ。
「これでやっとまともに戦える!!」
さあ、第二フェーズと行こうか!!




