Ep3:一触即発は文字通り
昨日サボったから連続投稿で中和
星海に話をしようと言われ、俺が連れてこられたのは街の外にある簡素なログハウス。
残念なことにこれから何か悪いことが起こる予感しかしないので、道中アイテム店に寄って、十分な量のアイテムを購入してから、ここまでついてきたわけなのだが、道中誰かに正体を悟られてはならないと、頭装備に麻袋を装備させられ、おまけに逃走防止用の投げ縄までくくりつけられた俺の姿は、まさに奴隷としか形容する術がないものだった。
「いやー、愉快爽快!! あのアーサー君が今や私のペットだなんて」
「そろそろ覚悟しとけよ? 本当に」
「え〜? PK好きのサディストと鬼畜ゲー好きのマゾヒストのコンビなんだから、これが正しい形じゃない?」
「よーし、殺す!! 今日という今日はお前のスカしたそのツラ真っ二つにしてやる!!」
「ごめんって、今拘束解くから大人しくしてて」
そう言いつつ拘束を解いた星海は、素早くウィンドウを操作して、俺にフレンド申請を送りつけてきた。
「フレンド申請? なんのつもりだ?」
「だから、守ってあげるって言ってるでしょー?」
わざとらしく頬をプくーと膨らませる星海。
もちろん俺はそんなものに惑わされることはない。
「いや、お前がそんなに親切なはずがない。何か裏があるんだろ」
「……バレた?」
「バレバレだ」
何か企みがある、そんなことコイツが俺をキルしなかった時点からわかっていたことだが、肝心の「何を企んでいるのか」と言うことがわからない以上、どれだけフレンドリーに接してきても警戒を解くことはできない。
自らが友好的であるということを相手に信じさせ、自身の意のままに操るというのはコイツの常套手段であるということは忘れてはいけない。
俺も現時点では“ノーデス”である手前、『プレイヤーキラー星海きららを信じる』などという自殺行為にも等しい真似は行えない。
「だけどまあ、フレンド申請くらいは受けてやってもいいだろう」
ぽち、彼女からのフレンド申請を受け入れた次の瞬間、彼女の顔は狂気に歪み、いつの間にかインベントリから取り出した異物な形の赤い剣の鋒を俺に向けて、嗤った。
「連絡手段もできたことだし、久しぶりに殺し合いをしよう!!」
「はぁ!?」
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ああ、楽しい。
この感覚いつぶりだろうか?
私が、いつか『波紋』をプレイしていた時のような高揚感。
狭苦しいログハウスから外に出てきた私たちは、茂森の中でいつかのような殺し合いをしていた。
「あはははははっ!! 楽しいねぇアーサーくん!!」
「まあこうなる事は薄々気づいてたよっ!! やっぱり相変わらずだなぁ!!」
「対して君は殺し合いが上手くなったんじゃない!!」
「そりゃあ、一撃食らったら即死の世界を何周も回ってりゃあゲームも上達するわな!!」
彼…… もしくは彼女はその短い細腕で翠色の大太刀を軽々と扱い、まるで腕のように操ってみせる。
その太刀捌きには、こちらがいかなる攻撃を加えようと、その尽くが受け流されてしまい、まるでダメージが通らない。
彼はここ数日で始めた新規プレイヤーなので、相当高く見積もってもLv30には到達しているはずがない。
そんな低レベルで、どれだけステータスをSTRに振っていようが、あの大きさの大太刀を使うのは相当難しいはず。それに加えてあのアバターの身長だとどう考えても取り回しづらいはずなのだが、それを意図も易々と扱ってみせるのは、彼の並外れたゲームセンスあってこそなせる技だ。
「そういえば君、例の『スロフィス』の真エンドクリアしたんだって」
「そりゃあもちろんって、うわぁ!? 話で気を逸らしたとこに攻撃入れてくるな」
彼は、約半年間『スローターズフィスト』なるゲームに入り浸り、その間全く連絡の取れない状況にあったのだが、彼が別のゲームを始めたということは、すなわちそのゲームをクリアしたということだろう。
彼が半年も苦戦したということから、そのゲームの難易度の高さは推察できるが、そんなに難しいゲームをクリアしたということはその分確実に彼自身、ゲーマーとして相当成長したことだろう。
「だけどねぇ!! このゲームはプレイヤースキルが高いだけじゃあ強いとはいえないんだよ!!」
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そう言い放った彼女がインベントリから取り出したのは、淡く光る巻物のようなアイテム×三つ。
「使い切り魔法巻子本『上位魔法障壁』『指向性重力』『跳躍力強化』」
何か魔法が発動し、その三つの巻物が光の粒子になって消えるや否や、攻撃を全無視して突撃してくるプレイヤーキラー。
「どぅあぃえ!?!?!?!?」
予想外の行動に思わず奇声を発してしまった俺だが、なんとかギリギリ寸前で攻撃を避けることができた。
「これを初見で避けるなんてやるね!! でも、まだまだ行くよ!!」
突撃したままその勢いで、すっ飛んで行ったと思えば、木を足場代わりにして再度こちらに突撃してくる。
いつの間にか、その手に握られた武器は禍々しい赤色の剣から、神々しい水色の槍に代わっていて、完全に突撃特化の、殺人砲弾と化している。
それをなんとか受け流したり、避けたりしつつ攻撃を加えてはいるものの、全くダメージが通っている気配がない。
このままだと本当にまずい。
今の俺のステータスとスキルではコイツに勝つことができない。そう悟った俺は、この状況をなんとか打開すべく、脳をフル回転させ、その極限状況の中、一つの一時的な打開案を思いつく。
そういえば、このインプラントの性能説明の一文に『特殊マップ『聖域』のランドマーク『アトラスの園』へと転移できる』との記載があったはず。
俺は研ぎ澄まされた集中の中、猛攻の一瞬の隙をつくようにUIを操作し、そのUIの中から『起動』の一文を見つけ出す。
「ええい!! なんとかなれぇ!!!」
渾身の叫び。
俺はそのUIを強く押し込み、一時戦線離脱をしたのだった。
星海が使った魔法の説明
『上位魔法障壁』
高い防御力上昇効果を付与するとともに、一定以下のダ物理メージを無効にする。
『指向性重力』
特殊なダンジョンや構造物の内部以外で発動可能。発動すると一定時間対象者の重力が視線の向いている方向になる。つまり、上を向いてれば上に落ちていくし、地平線を見つめたら地平線の先まで落ちていく。
『跳躍力強化』
その、基本字面のまんまの効果だが、跳躍動作に“踏ん張り”の効果が付与されるので、跳躍するまでの間、足が地面に吸い付くように固定されるという副次効果がある。
これらの魔法を組み合わせた悪質コンボは、星海のオリジナルコンボで、PvPを行うときには必ずと言っていいほど多用してくる。このコンボを使われ殺された配信者や、一部始終を見ていた視聴者からは『殺人スーパーボール』なんて呼ばれていたりする。




