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第三話 傀儡兵

 ザナに導かれるまま、俺たちは東側のスラム街へと一気に駆け込んだ。

 昨夜とは違い、今度ははっきりと周囲の様子が見える。


 道は狭く、家屋は傾き、昼間だというのに薄暗い。

 だが、その陰鬱な景色とは裏腹に、ここに暮らす人々の眼差しは異様なほど鋭かった。

 ――生き延びるために鍛え上げられた強靭さが、はっきりと刻まれている。


「こっちよ」


 ザナが古びた木製の扉を軽く叩くと、内側から刺すような視線がいくつも向けられた。

 昨夜顔を合わせたばかりだというのに、警戒心は依然として解けていない。


「お帰りなさい、ザナ様」


「ええ……机を少し空けてちょうだい」


 昨夜は周囲を観察する余裕などなかったが、今改めて見ると――

 酒場の内部は完全に拠点へと作り替えられていた。

 武器や書類が無造作に積まれ、ここが反王朝勢力の“基地”であることは一目で分かる。


「まず聞かせてくれ。

 ――『あなた』は何者なんだ?」


 俺は遠慮なく、本題に切り込んだ。


 ザナは短く息を吐き、静かに口を開く。


「改めて名乗るわ。

 私はシャイ・ザナ。シャイ家の末裔であり、この国の国王――シャイ・タヴァナの妹よ」


 彼女は、自身の両脇に立つ屈強な男たちを示した。


「この二人は、かつて王国の近衛兵だった。

 ルタクと、マレヌよ」


 簡単な紹介を終えると、二人は無言でこちらに会釈した。


「二つ目の質問だ。

 神殿で襲ってきた、あの兵士たちは何なんだ?」


「……分からないわ。あんな状況を見るのは、私も初めて

まるで操られているみたいに、自我がなかった……」


 声が次第に小さくなる。

 王女という立場が、命を落とした兵士たちへの痛みを強めているのだろう。


「反王朝が結成されて、どれくらい経つ?」


「長くはないわ。せいぜい三年ほど」


 三年。

 現実世界なら、決して短くない年月だ。

 準備は相当進んでいると考えるべきだろう。


 ……いや、それなら尚更、考えるべきことが増える。


「あの兵士の件、国王の仕業だと思うか?」


「そんなはずない!!」


 机を叩く音が響き、周囲の視線が集まる。

 護衛たちも、この反応は初めてのようだった。


「落ち着いてくれ。仮定の話だ。

 王国の兵士なら、まず国王を疑うのは自然だろ?」


「……ごめんなさい。

 ただ、姉がそんなことをするとは思えなくて」


「なら、直接会って確かめればいい」


 反王朝と王国の確執は、想像していたほど単純ではないらしい。


 だが、ザナの表情は微妙に歪んだ。


 ――反逆者として、しかも血縁の相手と会う。

 気まずさどころの話じゃない。


「た、大変です!!」


 外からの叫び声に、酒場の空気が一変した。

 真っ先にルタクとマレヌが扉へ向かう。


「何があった!」


「お、王国軍が……こっちへ向かってきています!」


「何だと!!」


 動揺が広がり、外を確認しに行く者も出た。


「人数は?」


「わ、分かりません……少なくとも十人以上は……」


 部隊規模だ。


「王国軍……兄ちゃん……」


「ああ、嫌な予感がする」


 あまりにも出来すぎている。

 神殿での一件の直後に、また王国軍――偶然とは思えなかった。


「た、助けてくれ!! 王国軍が!!」


 外へ出た者が逃げ戻り、その背後から異様な動きの兵士たちが迫ってくる。

 ――操られたような、不自然な走り方。


「あれは……何だ……」


 ルタクが愕然と呟く。


「やっぱり……追ってきたか」


 神殿での“それ”と、まったく同じだ。


「皆、落ち着いて!

彼らは本物の王国軍じゃない。実力も違う。恐れる必要はないわ!」


 ザナが前に出る。

 その姿に、逃げかけていた者たちも踏みとどまった。


「兄ちゃん!お願い! 祈願障壁!」


「了解! 影刃鎌!」


 斬れば倒れる。

 だが、倒れ方が――不気味すぎる。


「第二波が来るぞ!!」


 次の瞬間、ルタクとマレヌが斧と剣で迎撃する。


「強いな、あの二人」


 ザナが隣で微笑む。


「昔は、何もできなかったのに……」


 まるで我が子を見るような目だった。


 だが、問題は数だ。

 倒しても、倒しても――


 光が、ふと地面を見つめている。


「……光?」


 俺も気づいた。

 倒れている“はず”の傀儡兵が――


 もし、あれが……。


 地面が震えた。


「……やっぱりか!!」


 倒した兵士たちが、歪んだ動きで立ち上がる。


 状況は一気に悪化した。


 その時――


「――炎環斬!!」


 巨大な炎の輪が飛来し、傀儡兵だけを焼き尽くす。


 煙の中から、一人の女が現れた。


「情けないわね。こんな傀儡も始末できないなんて」


「……姉さん……」


 タヴァナ。

 そして、その隣には――


「久しぶりだな。

 俺は王国禁衛軍上将、剣術指南役――グロ・カルデラだ」


 場が凍りついた。


 ――どうやら、もっと厄介な局面に踏み込んだらしい。

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