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第4話:進展しない関係と、募る焦り

花咲さんの不意打ちの優しさに触れてから、僕の心は確実に変化していた。彼女の「好きだよ」という言葉が、もう以前のようにただのからかいには聞こえなくなっていたのだ。それは、まるで透明だった水に、少しずつ色がつき始めたような感覚だった。


「ねぇ、悠太くん。今日の告白は、特別バージョンだよ」


いつもの朝、隣の席で花咲さんがニヤリと笑った。


「いつもと何が違うんだよ」


僕が呆れて返すと、彼女は胸を張った。


「今日はね、愛を込めて、世界中の言語で『好き』を言う日!」


「……は?」


「ほら、『アイ・ラヴ・ユー』、『ジェテーム』、『アイ・シーエル・ディッヒ・リーベ』……」


花咲さんは流暢に色々な言語で「好き」を並べ立てた。その発音は完璧で、まるでネイティブスピーカーのようだった。学年トップの優等生は、こんなところでもその実力を発揮するのかと、僕は感心した。


「すごいな、花咲さん。でも、何の意味があるんだよ」


「意味、あるでしょ? 君への愛の深さの表現だよ!」


彼女はウィンクしてみせた。周囲のクラスメイトが、僕たちのやり取りに、少しだけひそひそと笑い始めるのが聞こえた。


「相川と花咲さんって、結局どういう関係なんだろ?」

「毎日告白されてるんでしょ? 羨ましいー!」


そんな声が聞こえてくる。僕は、今まで気にしていなかった周囲の視線が、急に重く感じられるようになった。彼女の告白は、もう僕だけの日常ではなく、クラス公認の「からかい」になっているのだ。


昼休み、購買でパンを選んでいると、花咲さんが隣に並んだ。


「ねぇ、今日のランチデートは、どこにする? やっぱり、購買のパンを二人で分け合う、青春スタイルかな?」


「デートじゃないだろ」


僕は思わずツッコむ。周りの生徒たちが、またくすくす笑っているのが分かった。僕の顔は、きっと真っ赤になっていたに違いない。


「あ、花咲さん、相川くんと付き合ってるの?」


突然、クラスの女子が僕たちに話しかけてきた。花咲さんは、とびきりの笑顔で答えた。


「うん! 私が一方的に告白しまくってるだけだけどね!」


女子生徒は「えー! マジでー?」と驚きの声を上げた。花咲さんは、僕の反応を伺うように、チラリと視線を送ってくる。その瞳には、いつものいたずらっぽさの中に、何かを試すような光が宿っているように見えた。


僕は、咄嗟に言葉に詰まった。彼女の言葉を否定すれば、彼女の「からかい」に加担することになる。肯定すれば、僕自身の気持ちが暴かれる。どちらの選択もできなかった。


「……からかってばっかりだよ」


僕は、曖牲な言葉でごまかすことしかできなかった。女子生徒は「なんだー」と残念そうに言って去っていった。


「なーんだ。否定しちゃった」


花咲さんが、少しだけ不満そうに口を尖らせた。その表情は、僕の心をざわつかせる。本当にからかっているだけなら、こんな表情はしないはずだ。


放課後、僕は図書室で、今日の出来事を思い出していた。花咲さんの「告白」は、もう周囲の注目の的だ。そして、僕自身の心も、その告白に真剣に向き合わざるを得なくなっていた。


彼女が、なぜ毎日僕に告白してくるのか。そして、その告白の裏に、本当に彼女の気持ちが隠されているのなら、僕はどうすればいいのか。


今まで「鈍感」だった僕の頭は、考えれば考えるほど混乱していく。だけど、このまま彼女の「からかい」に付き合い続けるのは、もう無理だと感じていた。


僕は、椅子に深く腰掛け、大きく息を吐き出した。

このままでは、僕たちの関係は何も進展しない。

いや、むしろ、僕だけが取り残されて、彼女の「嘘みたいな告白」に振り回され続けることになるだろう。


僕は、花咲さんの「嘘みたいな告白」の裏に隠された真意を、何としてでも確かめたくなった。そして、もしそれが「本気」だったとしたら、僕はどうするべきなのか。


僕の心の中に、焦りが募り始めていた。

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