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2歳児シリーズ

暴君ディオニュシオが認めた2歳児〜赤子に転生しました~

作者: 二角ゆう

前作「誘拐されたのは王子ではなく影武者の2歳の男の子ですが、とんでもないことになりました」のカルロスとモーリーが出てきます。


良かったらゆるっと読んでください!

 ディオニュシオはしがないの小領主だった。この男、このままひっそりと人生を終える気はない。内なる計画を実行するために着々と準備を進めていたのだ。


 やせ細った土地には実りも少なく領民は疲れ切っていく。


 男は準備が出来ると王都へと赴いた。自分の納める小領地の隣に位置するカタルト領は急速に発展している領地だった。


 そのカタルト領主が自分の領を攻めて領民を奪っていく計略を知り、なんとか領地を守りたいと嘘をつき、懇願した。


 すると王都から支援された1000名の兵士と共に5日でカタルトを陥落。


 そのまま、隣の領地へ攻め込んだ。


 そのディオニュシオのやり方は残酷極まりなく、他の領主が戦略を立てる前に数日のうちに兵士だけではなく領民もなぶり屠っていく。


 ある保守的な領地には石造りで頑丈な城を持っていた。


 ぼろぼろの衣服を着たディオニュシオが自分一人だけで良いので、城へと泊めて欲しいとやって来た。


 そこの領主もディオニュシオの噂を聞いていたので、警戒した。


 だが、どう見ても単身であるし、鎧も剣も持っていない。


 一晩だけなら護衛を10人ほどつければ、身の安全も確保できると算段し了承し城の中へと引き入れた。


 それがその領主にとって最大の失敗だとは知らずに⋯⋯。


 食事の際に顔を合わせた領主の娘。


 ディオニュシオは太い眉毛に高い鼻。あごはがっしりとしていて服から盛り上がる筋肉には男臭さを感じる。


 領主の娘は敵だと知りながらも、食事中にディオニュシオへ少し熱い視線を向けた。赤い口紅を塗り、胸元が大きく開いた服を着ている。嫌でもその豊満な胸元は視界に入る。


 娘で機嫌を取ろうなど、気分が悪い。


 食事が終わる直前にディオニュシオは周りのものに皿を頭から叩きつけて攻撃すると、領主の娘を攫う。


 そこへ呪いの儀式を始めた。


 黒紫色の光を放つ大きな魔法陣。


 そこへ寝かせられた領主の娘。


 ディオニュシオは領主に命じる。


「この娘は10日後に呪いで死ぬ。止めたくば、外にいる俺の兵と共に王都を陥落しろ。俺についてこい」


 その領主は娘の命を大事に思い、震えながら周りの兵士と共に城を出た。


 この頃には周りから血の将軍だの、赤い悪魔、残酷な死神⋯⋯こっそりと裏では俺をそう呼ぶようになった。


 俺は気にしていなかった。ただ自分の目的のために前へと進む。


 俺の手に入らないものなど無い。


 王の胸元に剣を突き刺した。血しぶきを上げながら地面へと崩れ落ちる王。


 俺は返り血を浴びながら、それを光のない眼で見ていた。


 そのままそれを見ながらワインを一口。血のように深い赤色をしたその液体には何の味も感じない。


 その夜、俺はベッドの上で激しい苦しみを味わったのだった。


 城でかけた娘の呪い返し。

 誰かがあの娘の呪いを解いたのか⋯⋯。


 それに1番近くにいたはずの主治医からの毒。

 俺のそばには誰もいなかった⋯⋯。


 君主に降臨して数時間後、ディオニュシオは呪い返しと毒に侵されて苦しみながら月も出ない暗闇の中で意識が遠のいた――。


 ■


 苦しみに意識を失ったはずだったが、目を瞑っていても辺りに明るさを感じる。


 なんだ⋯⋯眩しい⋯⋯俺は死んでいなかったのか?


 俺はゆっくりと目を開ける。すると不躾に侍女のようなメイド服の女が俺の顔を覗き込んでいた。


「あっ起きた」


 お前、俺を誰だと思っているんだ。斬り殺してやる!


 そう騒いでいるが、近くであぶあぶと赤子の声がする。


 すると視界が開けた。


「ディオ様、起きましたか?」


 その女は親しげに俺に声をかけてくる。


「⋯⋯あ⋯⋯ぶぅ⋯ぶぅ」

(女、気安く俺の名を呼ぶな)


 ん? 赤子の声が俺からするぞ。


 と言うか俺、この女に抱き上げられている?


 俺は80キロは優に超えるはずだ。それを軽々と持ち上げるなんてどんな怪力女なんだ。俺と勝負しろ。寝技で絞め落としてやる。


 俺は手足を動かしてその女の手から離れようとする。


「あらあらディオ様、元気でしゅね」

「あぶぅ⋯⋯あーぅーぶぅぶー」

(お前なんて喋り方をしているんだ。すぐに絞め落としてやるからな)


 あれ、俺もなんて喋り方をしているんだ?

 あぶあぶで伝わるわけないじゃないか。⋯⋯ってあぶあぶ?


「あっ⋯⋯ぶぅーぅーあー」

(あれっ俺赤ちゃん語喋ってないか)


 俺、2ヶ国語も話せたっけな?

 じゃなかった。俺、赤ちゃん?


「今日はお喋りが上手ですね。ディオ様、本日はカルロス坊ちゃまが来ますから楽しみなのかしら」

「ぶっぶぅー⋯⋯あぶ⋯⋯あぶぶぅ?」

(そこの侍女、カルロスとやらは俺と話せるのか?)


 ■


 俺はしばらく女と遊んでいると寝てしまったらしい。


 誰かが走ってくる音が聞こえる。開いていた扉の向こうからひょっこり顔を出してくる赤ちゃん。


 さらさらで艶のある黒髪の上の部分にはエンジェルリングが浮かぶ。瞳は明るい蜂蜜色。


 俺の姿を見たのか走って俺に寄ってきた。


 俺は女の腕を独占している。


「赤ちゃん!」


 黒髪の赤ちゃんは隣に歩いてきたタキシードを着た側近に話しかけている。


「モーイー? 赤ちゃん!」


 おいおい、自分も赤ちゃんだろう。


 モーイーは黒髪の赤ちゃんに顔を近づける。


「カルロス坊ちゃま、モーリーです。モー! リー!」

「カリオー。⋯⋯モーイー! ⋯⋯モーモー、うし!」

「坊ちゃま、牛ではありません」


 モーイー改め側近のモーリーと赤ちゃんはカルロスか。


 カルロスは俺をじっと見上げている。すると侍女はベビーベッドへ俺を寝かせた。


 モーリーとカルロスが俺を覗き込んでくる。


「ダフネさん、ディオ様は可愛いですね」

「ふふっそうですね」


 女はダフネと言うのか。

 良い名だな。


「あーぶぅ⋯⋯あーぶう」

(ダフネ⋯⋯ダ・フ・ネ)


 ダフネはカルロスに俺を紹介する。


「カルロス坊ちゃま、ディオ様です。ディ・オ・様」

「ジオぁま! ジゥぁま! ジ⋯⋯ゥま?」


 カルロス、ちゃんと呼んでくれ。

 だんだん俺の名前が退化しているじゃないか。


「ジーま! ジゥま!」


 カルロスは何度も俺の名前を呼んでいる。

 ちょっとうっとおしいな。


 そう思ったら、カルロスはどこかへ走っていってしまった。


 俺そっちのけでどこに行ったんだ?

 おい、カルロス。

 声を上げているのは何だ?


「あー⋯⋯ぶぅ!」

(戻ってこい!)


 俺は手足をジタバタしてアピールする。何としてでもカルロスにぎゃふんと言わせるんだ。そして俺の舎弟にしてやる。


 俺は意気込んでいた。その意欲が伝わったのかダフネは俺を地面へと下ろした。


 俺は本気を出した。全身に力を入れる。


 びしゃ⋯⋯


「ふぇ⋯⋯」


 失禁した。

 俺の骨盤底筋、仕事しろ。

 なんて軟弱な骨盤底筋なんだ。


 俺は情けなさに嘆く。


「うぇぇぇん」


 ダフネにまたおむつを変えてもらって、またリベンジをする。


 今度こそ⋯⋯。


 俺のはんぺんみたいな足も手も力を入れても立たない事が分かった。そして俺は諦めて地面に転がった。


 するとカルロスが俺を覗き込んできた。


「ジーま⋯⋯まー」


 カルロスよ、俺の名を呼んでくれるのか。


「まーまー⋯⋯ばーしゃー!」


 仰向けになった俺の目の前でカルロスの手から光のようなものが溢れてくる。その光はカルロスの手の平を遥かに超えた大きさになり手から放出される。


 爆風とともに俺の右横に大きな衝撃が来る。何かが砕ける音なのか凄まじい破壊音がする。


 なんだ今のは⋯⋯?


 慌てて走ってくるダフネとモーリー。

 ダフネは俺を、モーリーはカルロスを抱きかかえるとお互い離れた。


 ダフネに抱かれた俺は状況が分からず、周りを見る。すると床に大きな穴が開いていて、下の階から見上げている侍女と目が合った。


 下の階の侍女は驚きのあまり固まっている。ものすごく目をひんむいている。


 俺はダフネの胸元に顔を埋めた。ぷるぷると震え始める。その様子を見たダフネは慌てて俺の背中を撫で始めた。


「ディオ様、大丈夫ですよー。ちょっとびっくりしましたね」


 すっすごい⋯⋯なんだあのカルロスとやらは。笑顔で魔法爆弾みたいなものをぶっ放してきた。俺を超える所業だ。


 俺は興奮気味に暴れている。


「ぅあっぅあっ!」

(すごい、すごい!)

「あれっディオ様、もしかして喜んでいる?」


 カルロスを抱えたモーリーは俺の方をちらちら見てくる。モーリーは俺の無事を確認したのかカルロスを下へと下ろした。


「坊ちゃま、魔法を人に向けてはいけません」

「まほー⋯いけま⋯⋯しぇん!!」


 それを聞いたモーリーはたたみかけてくる。


「昨日みたいに俺の腕を吹っ飛ばしてくるのは駄目ですよ。箱買いしたポーションがそろそろ無くなりそうなんですから。坊ちゃま、お返事は?」

「おへんじは!」


 カルロスはオウム返しをしている。あまり分かって無さそうだ。モーリーはそれを見てため息をついている。


「そんなことを言っていたら、夜のいちごは無しですよ。お返事は?」

「いちご⋯⋯食べる! あい!」


 俺は下の階の侍女と同じくらい目をひんむいてカルロスを見ていた。


 これは⋯⋯これは⋯⋯すべてを欲する俺を超えていく存在⋯⋯?


「ぶぅあ⋯⋯ぁうあ⋯⋯あぶ!」

(ブラザー、俺はついていくぜ)


 俺ははんぺんみたいな手足を動かしてカルロスに近づく。それでもやっぱりはんぺんは立たない。


 するとカルロスの方から近づいてきた。そして俺をじっと見ると縮めた身体の手足を思いっ切り広げた。


「おのー⋯⋯け! らえと、ばせ」

(炎よーゆけ♪ 空へと飛ばせ)


 カルロスは何かを言い出した。よく聞いてみると音階のようなものに聞こえる。


 これは呪文か何かか?


「ファイアーボール!」


 カルロスの手から吹き出た炎は瞬く間に部屋中を覆い始める。右手から出た炎は窓に当たるとガラスは高い亀裂音の後、派手に割れる音がした。


 その開いた窓から炎が噴き出る。そして左手から出ているのは部屋の中へとうねりながら俺の方にも近づいてくる。


 そこへ全速力のモーリーが来て、俺を抱くとそのままダフネの隣に立った。すぐさま俺たちの周りにシールドを張る。


「カルロス坊ちゃま、お歌はおやめ下さい! それはお外でしか歌えません」


 俺は何を見ているのだろうか⋯⋯。


 俺は胸がわくわくし始めるのを止められない。


 カルロスはまだ口を動かしてもごもごと言っているように見える。それを見たモーリーは軽く舌打ちをするとカルロスの方へと駆け出した。


 そしてモーリーはカルロスのお腹を抱くとそのまま窓から飛び出る。モーリーは魔法を使って空を飛び始めた。


「い⋯⋯つくしいを⋯⋯けてれーせーち⋯⋯ちゃぅ!」

(凍てつく視線を向けて冷静沈着♪)


「アイシークラッシャー」


 すると空から巨大な氷の塊が出現した。部屋の奥でダフネに抱かれた俺からも見えるほど大きい。


 その塊は重力に従って下へと落ちる。


 ドオオォォォン!


 ダフネは俺を抱いたまま窓の方に近づくと落ちた先が池だったようで噴水のような水しぶきが宙に上がる。


 魚が空に打ち上げられている。

 おい魚、そんな目で俺を見るんじゃない。

 お前は死んだ魚のような目をまだする必要はないんだ。


 それは一瞬の出来事だった。

 そして無情にも魚は下へと落ちていった。


 その後カルロスはモーリーに叱られていた。半べそをかきながらカルロスはモーリーに抱かれたまま戻ってきた。


 そのまま焼けた部屋の中に座り込むと「お歌⋯⋯」と呟いている。


「あぶぅ⋯⋯ぶぅぶぅ⋯⋯ぁああぶ⋯⋯ぅーぁー⋯⋯あぶぁあぃ⋯⋯ぃぅ⋯⋯」

(カルロス、そなたが素晴らしいのは非常に伝わった。これからは兄弟のように固い契りを交わしたい)


 カルロスは首を傾げて俺に聞く。


「おうた⋯⋯うたう?」


 それを聞いたモーリーと俺は声を揃えた。


「駄目です!」

「ぶぅぅぅうう!」


 ■


 この後俺は歩けるようになるとカルロスに会いに行っては、後ろをついて歩くようになる。


 前世では自分のためにすべての行動を起こしていたが、誰かのために動くって言うのもなかなか良いな。


 俺はブラザーを呼ぶ。


「カリオ⋯⋯にいちゃ!」

オチもないほのぼのストーリーになりました。


姉妹作品「無償の愛だの、真実の愛だの、そんなものファンタジーにでも食わせておけ〜暴君は公爵家の赤ちゃんに転生しました〜」では、

元暴君ディオニュシオとダフネの恋愛物語になります。

(冒頭の部分はほとんど同じになります。)

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