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強くなる方法

みなさんお疲れ様です!たいくつです!

今回はリーフたちの新たな一面が見られるので楽しみにしていてくださいね!

それでは、いってらっしゃい!

 グラシーズ王国。

 総人口は300万を超え、広大かつ豊かな土地を有しており、四大国の中で最も食物の生産量が多いことで有名な国だ。

 このグラシーズの王都「メイルヘム」には総人口のおよそ3分の1が集中しており、割合的には半数が貴族、もう半数は平民が占めており綺麗に半分に分かれている。

 そして貴族、平民問わず学問や武術、歴史など様々な分野を学ぶことができる施設、「レジリエント」。この学び舎は年齢制限こそないが、所属している者は皆10代〜20代がほとんどだ。

 入学を希望する者たちの意図は様々だが、おおよそは親の教育の一環による影響で無理矢理入学させられる者がほとんどと聞く。この平和な時代に自ら率先して入学を希望する者はそうそういないのだろう。中には自ら入学を希望するものもいるようだが、毎年100人に1人か2人いるかどうかと言われているらしい。

 教師陣は俺を含め30代〜40代が主である。俺はあくまで剣術指南役という一般の教師より少し特殊な立ち位置ではあるため教師陣の中に含まれるのかは定かではないが。

 ちなみにここレジリエントは国が直々に管理、運営をしているため給料はかなり高額に設定されている。その分入学するのにも莫大な費用がかかると言われているが……。


「アジス先生、今日も鍛錬ですか?」


「……ああ、リント先生お疲れ様です。はい、剣術士は1日に最低でも100回は剣を振るわないと腕が鈍ると言われているので」


「はは、さすがは我が校が誇る剣術指南役。剣に対する想いの強さは随一、ってことですね」


 下級Cクラス担任「リント=ラハル」先生。彼は王国貴族の一角を担うラハル家の出で、代々伝わる弓を用いた戦闘を得意としている。担当教科も弓術を主に教えているらしい。

 穏やかな雰囲気と柔和な口調で生徒達からの人気も高い。そして更には、史上最年少でレジリエントの教師に抜擢された逸材でもある。そのため生徒以外にも教師陣やさらにその上の国の重要人物達からも目を掛けられているとの噂もあるとか。そして俺はそんな人物になぜかよく声をかけられる。


「想いだけでなく、技も随一のつもりでいますが」


「これは失敬……っと、そうだった。今日は先生に相談があって来たんですよ」


「相談?」


「はい。それも重要な、ね」


 少々おどけた様子とは裏腹にその目はたしかに真剣だった。


「……私でよければ」


「ありがとうございます。実は、来年度本校に入学する新入生のことなんですが……」



 ◇◇◇



 あれから数日が過ぎていた。

 俺はアジスさんの帰りを待つ間、剣術と魔術の訓練に明け暮れていた。ある日は、午前中はレナさんが所有してある剣術の参考書を元に剣術の知識を身に付け、午後はそれらを活かして実際に剣を振るってみる。そしてそれをリーフが見て俺の良い点と悪い点を探してもらい今後の反省に活かすというシンプルなやり方だ。

 また別の日は剣術の日と同じやり方で魔術の訓練を行う日々の繰り返しだ。剣術魔術共に基礎知識はある程度身についてきているように感じるが、まだそれを実行に移せていない状況だ。

 特に魔術は魔力の調整が難しく、上手くかたを作ることができないでいる。初級魔法の火球ファイアーボールでさえいまだに作り出すのに時間がかかり過ぎるし不安定だ。剣術の方は、ある程度形にはなりつつあるが全体的に動きに無駄が多いように思う。


「まだ少し大振り気味ですね。初めのうちは空気を斬るのを目的にするのではなく力を抜いて空気を撫でるように振ってみてください」


「力を抜いて撫でるように、か」


 ヒュン!


「そうですそうです! 今の感覚を覚えておいてください。じゃあ次は今の感覚で何回か連続で振ってみましょう!」


 今日は剣術の日でいつも通りリーフに指導してもらっている。

 初めて会った時はファアースベア相手に剣を震わせていたリーフだったが、実際は剣の知識、技術共に俺よりも遥かに上だった。俺の戦う姿を見てすごく評価してくれていたようだが、あくまでそれは「シーディアの力を借りた俺」に向けられた評価であり、本当の俺に対する評価は大したことないのかもしれない。

 現に今こうして指導してもらっているおかげで俺はほんの数日のうちにかなり強くなっているように感じるからな。……いや、まだ俺の勘違いという可能性もあるが。


 数時間後。


「ああ、今日も疲れた……」


「はは、溶けてますね〜シンリさん」


 訓練を終えた俺とリーフは、今日もいつもどおり二人で風呂に入っていた。


「そりゃ溶けるでしょ。まさかあの後素振り1000回を10セットするとは思わないだろ…」


 リーフは疲弊しきっている俺を見てニヤニヤしている。こいつ、もしかして「エスの者」なのか?


「ふふ、あれぐらい余裕でできないと剣術士にはなれないですからね。ちなみに僕は1日2000回を10セット。父さんは4000回を10セットしてます」


「うげ、まじかよ……」


 絶望する俺を見てさらにニヤニヤを増すリーフ。うん間違いない、こいつはエスの者だ。


 コンコン


「二人とも、ご飯ができましたよ」


「わかった、すぐに行くよ」


「はーい」


 もう何回も経験してるからかこうして毎日呼びに来てくれるセナも最初に比べて全く緊張しなくなっていた。成長だなー、それに比べて俺はまだまだだ。子供の成長スピードおそるべし。


 ◇◇◇


「……出力をできる限り抑えて型を整える、それもなるべく早くっ……!」


 翌日。いつものように魔術の訓練をしていると、魔術の師であるレナさんが突拍子もない言葉を俺に投げかける。


「シンリさんは恋人はいないのかしら?」


「……はい?」


 あまりの衝撃で魔力を放出するのを止めてしまったせいで生成途中の火球ファイアーボールは、「ボッ」っと小さな音を出し消失してしまった……。


「お、お母さんいきなりどうしたの?」


 どうやら驚いたのは俺だけではなかったらしい。

 一緒に訓練していたセナが少し顔を赤くしながらレナさんに問いかける。


「ふふ。ごめんなさい、いきなりこんなこと聞かれたらびっくりしちゃうわね。……昔あの人が言ってたことを思い出したの」


「あの人ってのは、アジスさんのことですか?」


 その問いにレナさんは「コクッ」と顔を縦に振る。


「『――人には限界がある。どんなに努力を重ねても成し遂げられないものもあるし、どれだけ踏みとどまっても最終的に打ち負けてしまうことだってある。だが。ただ唯一人が限界を超えて力を発揮する瞬間がある。それは、『自分にとって失いたくないもの』を守ろうとする時だ――』って」


「失いたくないもの……」


 その時、俺の頭には『何も』浮かばなかった。

『大切なもの』や『好きなもの』ならたくさん浮かんだが、『失いたくないもの』と言われるとやはり何も浮かばなかった。


「僕は失いたくないもの、あるよ! お父さんとお母さんとセナ!それに村のみんなとシンリさん!」


「え、俺も?」


 予想外の答えに俺は一緒戸惑う。


「はい! だってシンリさんは僕らの命の恩人ですし!それに、最近一緒に過ごすようになってますますシンリさんのこと知りたい、一緒にいたい!って思うようになりましたから」


「わ、私も! お兄ちゃんと同じ、です……!」


 リーフは笑顔で元気いっぱいに。セナは恥ずかしがりながらも力強く言う。


「二人とも……」


 その言葉に俺は温かさを覚えた。胸の辺りにゆっくりと溶け込むような優しくて心地よい温もりを。


「あらまぁ。二人ともシンリさんのことが大好きなのね。お母さん少し妬いちゃうわ」


 微笑みながら少し揶揄うように言うレナさんの言葉を真に受けたリーフとセナは少し慌てた口調で取り繕う。


「大丈夫だよ! 僕はお母さんもシンリさんに負けないくらい大好きだよ!」


「わ、私も! お母さん大好き……!」


「ふふ。ありがとう二人とも」


「ふっ」


 その光景に俺は思わず吹き出してしまう。

 何もおかしかったわけじゃない。ただ、こんなにも眩しいものを見たのは久しぶりでどこか懐かしくも感じて、見てて飽きないなと思っただけだ。


「実はこの話には続きがあってね、あの後お父さんがこう言ったの。『俺にとって失いたくないもの、それをやっと見つけることができた。俺はこれからもそれを守り続けたい、だから……ずっと俺の側で守られてくれないか?』ってね」


「お、お母さんそれって……」


「うん、お父さんのプロポーズの言葉」


「ぷ、ぷろ……!?」


「わっ!! セナ大丈夫!?」


 レナさんの惚気話の刺激が強すぎたのか、セナは頭から湯気が出そうになる勢いで顔を真っ赤にしている。その拍子に思わず後ろに倒れそうになるところをかろうじてリーフが受け止めることに成功する。


「あらあら。セナには少し早かったかな?」


 またも揶揄うように言うレナさん。……まだ断定はできないがもしかして、この前感じたリーフのエスっ気ってこの人から受け継いだんじゃ?


「……とにかく、シンリさんも何か失いたくないものができれば今まで以上に強くなれるかもしれないわね」


 優しく微笑みかけるレナさんの姿を見て一瞬でもドSなのではないかと疑ってしまって少し申し訳なさを覚えた。


「でもまずは、それ相応の努力をしないとね!」


「はい、そうですね!」


「うん、いい返事! それじゃあ『火、水、風、雷、この四つの属性の初級魔法を今日中にマスターしてみましょう!」


「え!? そんな……いきなり課題のレベル上げすぎではないですか?」


「大丈夫! シンリさんならできますよ! あ、そうそう、もし今日中にこの課題をクリアできなかったらその時はリーフに木剣でお尻を100回叩いてもらうことになるので頑張ってください! あと、魔法を一回失敗する度にお尻叩きも一回追加になるのでその点お気をつけて〜」


「シンリさん! 一緒にがんばりましょうね!!」


 満面の笑みで木剣をスイングするリーフに一切の迷いは見られない。……そんなに楽しそうにするんじゃない。


「は、はは。……がんばります」


 前言撤回。この親子は間違いなくエスの者だ。

 さっきの自己反省を返してほしい……。


 その後、俺は死に物狂いでレナさんの課題に取り組んだが、結局尻を赤くするのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

シンリにとって失いたくないものって本当にないんでしょうか? 何か一つぐらいありそうですけど…まあいずれわかるでしょう! 皆さんは失いたくないものありますか? よければ感想で教えてください! それではまたお会いしましょう!

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