信頼
みなさんお疲れ様です、たいくつです。
今回からリーフとセナの両親が登場します。家族の形をどう表現するか、今後も試行錯誤を続けて参ります。何卒最後までお付き合いください!
リーフとセナと出会った俺は、命を救ってもらったお礼をしたいということで二人の住む村へ招待されることになった。
「シンリさんってお強いんですね!僕も一応剣術を学んでいる身なんですけど、どうやったらあんな動きできるようになるんですか?」
「え、えーっと……。 実は剣を握ったのは今日が初めてでさっきのもほぼ勢いでどうにかなったってだけなんだけど……」
「今日が初めて!?それほんとですか!?だとしたらすごい才能じゃないですか!」
「あはは……。そ、そうなのかな?」
一般的な剣術初心者がどんな動きをするのか知らないため俺は自分の動きが普通ではないことに気づかなかった。でも、たしかにあの大きさの猛獣を撃退できたってのは我ながら大したものだとは思う。
「僕は普段お父さんに稽古をつけてもらっているんですけど、シンリさんの今の話を聞いたらきっと驚きますよー?」
「リーフのお父さんも剣をつかうの?」
「はい! お父さんはものすごく強くて、かっこよくて……僕の目標でもあるんです!」
「そうなんだ、それはとても立派な方なんだね」
「はい! だからシンリさんにも是非会ってもらいたいんです」
リーフの要望以前に村に招かれる以上二人の家族には顔を合わせることになるだろう。……それにしても村、か。ゲームやアニメに登場する村はよそ者を快く思わない者が多い、という印象が強いが大丈夫だろうか?感謝の言葉の代わりに冷たい視線を浴びることになったりしないだろうか。
「お兄ちゃん、シンリさん、見えてきましたよ」
「……ああ、すごく綺麗なところだね」
そうこうしているうちに俺たちは目的地の二人の住む村へと到着した。大きく透き通った湖に反射した夕陽が煌びやかに俺たちを出迎えてくれるその光景に俺は思わず感嘆を溢す。
「気に入っていただけて良かったです。晴れた日のこの時間はよくこの景色を見ることができるんですよ。私のお気に入りです!さあ、村の入り口はこっちです、いきましょう」
俺は2人に連れられ、村の入り口に向かうが「少しここで待っていてください」とリーフに言われ俺とセナは村の入り口から少し離れた所で待つことに。見たところ入り口には警備の者がおり、一足先に入り口に向かったリーフは何やらその警備の者と話をしている。おそらくよそ者を入れていいかの許可を取っているのだろう。
数分後、俺たちの元に足早にリーフが戻ってくる。
「お待たせしました。 入っても大丈夫だそうです、それじゃ家の方に案内しますね」
そしてそのまま俺は2人の住む家へと案内されることおよそ3分。
「着きました、ここが僕たちの家です」
着いたのは木製の柵で囲われた木造の建物だった。庭には畑のような物も見え、数種類の野菜が顔を出している。建物自体は特別大きくはないが、敷地の広さを含めれば俺のよく知る一軒家より少し広め、ほどの規模だった。
「あ、いい匂いがする! 今日の晩ご飯はなんだろう?」
そういうと、リーフは己の自宅の扉を開ける。
「お父さん、お母さん、ただいまー!」
「おかえりなさい、リーフ、セナ」
「おかえり。どうだ? 万能草は見つかったか?」
「…ううん。今日もだめだった」
「そっか……。残念だったな。ん、そちらの方は?」
「あ、うん、紹介するね! こちらシンリさん、って言って危ないところを助けてもらったんだ!」
「そうだったんですか、子供たちがご迷惑をおかけしたようで申し訳ない」
「いえ、大したことはしてないのでお気になさらず」
この人が2人の父親か。見た感じ、やや大柄ではあるものの温厚で優しそうな雰囲気を纏っている。
「申し遅れました、私はアジス。この子たちの父です。そしてこっちが妻の」
「レナです。 よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ。真宮 真璃です、よろしくお願いします」
「マミヤ シンリさんですか、珍しいお名前ですね。おまけに家名まであるとは。他国の貴族の方なのですか?」
「あーいや、そうじゃなくて」
俺はリーフとセナに伝えた事と同じ事をアジスさんとレナさんにもそのまま話し、ついでに今日あった出来事も伝えることにした。
「なるほど、フィアースベアに襲われそうになったところを助けていただいた、と。しかも聞くところによると剣を握ったのは今日が初めてと?」
「ええ、まあ」
「ふむ……にわかには信じ難いですが、二人が言うなら間違いないのでしょう。生まれながらにして余程の剣の才をお待ちなのでしょうね、シンリさんは」
「さあ、どうなんですかね……」
「それでねお父さん、助けてもらったお礼をしたいんだけど私たちじゃ何もできなくて……」
「ああ、そういうことか。 それなら親である私が代わりにご用意致しましょう、何かお望みの物はおありですか?」
「えーっと……」
「異世界での過ごし方」なんて聞いたら怪しまれそうだし、やはりここは無難に戦闘の知識を身につけるため指導を請うのがいいだろう。リーフの話によればアジスさんも剣術士でリーフの師でもあるらしいし、適任だろう。
「はいはい、話はご飯を食べた後にしましょう?」
と、ここでレナさんがキッチンから料理を持ってこちらへやってくる。
「うわー! 美味しそう!」
「私、お皿並べるね」
「ふっ。そうだな、先に夕飯にしようか。シンリさんもどうぞ、妻の料理はとても美味しいので驚くと思いますよ?」
「あ、ありがとうございます。 それではご相伴にあずかります」
テーブルの上には、レナさんが調理したであろうシチューが置かれる。中には鶏肉、人参、じゃがいも、玉ねぎなどの具材が入っており、俺のよく知るシチューそのものだった。さらにはそこから漂う匂いが俺の鼻をくすぐり、食欲を増進させる。
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
「いただきます」
レナさんの作ったシチューは、見た目はもちろん味も予想以上だった。どの具材も顎の力をほとんど加えずとも口の中でほろほろと崩れ落ち、芯までしっかり味が染み込んでいて文句の付けようがない出来だった。俺も含め皆、次々と鍋に入ったシチューを空になった己の皿へと移していく。
「シンリさんどうでしょう、お口に合いますか?」
「はい、 とても美味しいです! こんなに美味しいシチューは久しぶりです」
「まあ!それは良かったです。どんどん食べてくださいね」
「ありがとうございます」
俺は結果として、レナさんのシチューを3杯ほどおかわりした。普段はおかわりしてもせいぜい1杯が限度なのだが、あまりにも美味しかったので気づいた時には既に3杯目を皿によそった後だった。
「さて、シンリさん。先ほどの話の続きをしましょうか」
「あ、そうですね」
お腹が満たされて忘れかけていたが、俺はアジスさんと、リーフとセナを助けたお礼について話している最中だった。
「改めて、何か望むものはありますか? あなたは子供たちの恩人、すなわち私の恩人にも等しい。多少の無理を仰られても出来得る限り努力させていただきます」
「ありがとうございます。……では、一つだけアジスさんにお願いしたいことがあります」
「はい、ご遠慮なさらずどうぞ」
「私に、戦う術を教えていただけないでしょうか?」
「戦う術、ですか?」
俺の要求が予想と外れたのかアジスさんは首を傾げる。そんな彼を見て俺は続ける。
「更に詳しく言うと、戦いの基礎知識や技術、心得などを一通りでいいので教えてほしいのです。リーフから聞いたのですが、アジスさんは普段リーフに剣を教えているとか。先ほど説明したとおり、私は剣初心者、というか戦いについては何も知らないんです。ですが、とある事情で俺は強くなる必要ができてしまい、その方法を模索している最中でした」
「なるほど、そんな時偶然にもフィアースベアに襲われていたこの子等に出会った、と」
「その通りです。元々、ルーリアと呼ばれる村を目指していてそこで戦いについて学ぶつもりだったのですが、俺としてはとりあえず目的を達成できればいいので、どの村で学んでも何の問題もないと思い、今こうしてアジスさんにご指導をお願い致しました」
俺の考えを聞き、口元に手を当て何やら考える素振りを見せるアジスさん。それは数秒間続いた後、彼の口は開かれる。
「……わかりました。その申し出、お引き受け致しましょう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「と、言いたいところですが、その前にあなたにお聞きしておきたいことがあります」
そう言うと同時に開かれた彼の目からは先ほどのような『歓迎』は一切感じず、代わりに『疑心』を宿しているように感じた。申し出を承諾されたことにより、一瞬だけ緩んだ俺の顔が瞬時に強張った。
「はい、何でしょうか?」
「あなたが腰に提げているその剣、どこで手に入れられたのですか?」
「あー、これは、その、えっと……」
言い淀んでいると続け様にアジスさんが言う。
「その剣から感じる力、ただの鋼の剣ではないのでしょう? しかもあなたは先程、今日初めて剣を握ったと言いました。そんな者がなぜそのような大それた剣をお持ちなのか、不思議でならないのです」
彼の疑問はもっともだ。しかし、なんて説明すればいい? 俺の元いた世界の事も、フェイルの事も話したところで信じてもらえるとは思えない。だが、誤魔化そうにも良い考えが浮かばない、いったいどうしたら……。
「ぐ、偶然拾いまして……」
「ほう、偶然ですか。私は長いことここで暮らしていますが、この辺りにそんなすごいものが眠っているという話は一度も耳にしたことがありませんが?」
「だ、誰かが落としたのかな〜? なんて……」
「他人の拾得物を拝借し、あたかも自分の物のように振舞う、それがあなたのやり方なのですか?」
「ぐっ……」
どう頑張っても誤魔化せそうにないか。やはり、ここは全てを話したうえで、信じてもらうほか無いか。
「……わかりました。正直に全てお話しします」
俺は剣を手に入れた経緯の他、何の目的で力を求め、何を成そうとしているのか全てをここにいる皆に打ち明けた。
「……にわかには信じ難い話です」
「はい、俺もそう思い打ち明けるのを躊躇ってしまいました。ごめんなさい」
「……いえ、こちらこそ言いにくいことを無理やり聞き出すような真似をして申し訳ない。 仮にあなたの話が本当なのだとしたら、この世界は遠くない未来に絶望と混沌に包まれるでしょう。そしてそうなった時、それを打破しようとしているあなたの成長の妨げとなった私たちは世界にとっての敵とも言えるでしょう。そうなるのは私達にとっても本意ではありません」
「では、俺の言うことを信じてくれるのですか?」
「……信じてあげたいのは山々ですが、やはりあなたの申し上げることは信憑性が乏しすぎる。私たちを謀る意思がないと確証が得られなければ、協力は致しかねます」
「そう、ですか……」
アジスさんの話はごもっともだ。俺も彼の立場なら同じ対応を取っても何も不思議はない。信憑性を上げようにも俺には彼らを信じさせるための材料がない。正直、手詰まりというほかない状況だ。
「なので、私から一つ提案があります」
「提案?」
「はい。 シンリさん明日、私と手合わせをしていただけませんか?」
「手合わせ、ですか? 何でまた急に?」
「古くからこの国では、『意見の対立や見解の相違などがあった場合、模擬戦にて勝敗を決し、敗者は勝者の意に従う』というしきたりがあります。 今回の件もそれに習うことで双方にとって最も公平かつ納得のいく結果をもたらすのではないかと」
「そんなものが……。 ですが、たしかにそれなら俺にもまだ希望はあるということになります。どのみち他に方法はなさそうですし、その申し出お受けさせてください」
「決まりですね。それでは明日、朝一で試合を行います。試合は村から少し離れた草原で行おうと思いますが、あなたは場所がわからないでしょうし、行きは皆で行くことにしましょう」
「わかりました。明日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。ひとまず今日のところはこの家の空き部屋をお貸ししますのでもうお休みください。あまり夜更かしをしてはお互い本来の実力を発揮できませんからな」
「そうですね。それではお言葉に甘えて今日のところはお世話になります」
こうして、俺は彼らの信頼を得るため、この家の主であるアジスさんと模擬戦をすることになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
果たして心璃は無事にアジスたちの信頼を得ることができるのでしょうか?
次話も何卒よろしくおねがい致します!




