少年と少女
皆様お疲れ様です。
今回は出会いをテーマに書いてみました。
まあまだ序盤なんで当然なんですけどね笑。
心璃にとっては始まりの舞台というつもりで書いたので是非最後まで読んでいただけると嬉しいです!
森に入った俺は言われたとおりただひたすら真っ直ぐ進んでいた。が、1時間ほど歩いたが未だに森が開ける様子はない。
「この森どれくらいの広さがあるんだ? ってかそもそも道が合ってる保証ないか」
森を無事抜けられるか一人悩んでいたその時。
きゃーー!!
「!?」
突然悲鳴のようなものが聞こえてくる、声からして動物ではなく人のようだ。いきなりのことで少し驚いたがすぐに冷静に戻る。
「……とりあえず様子だけ見に行ってみるか」
何はともあれ、誰かが助けを求めているであろうことは大体想像がつくためひとまず何が起こっているか様子だけ見に行くことに。
「グゥオオ!」
「来るなー!! そ、それ以上近づけば斬るぞ!!」
俺のいた場所から東に少し行くと、そこにはおそらく恐怖で腰を抜かしたであろう女の子とその子を庇うようにして敵に剣を向ける男の子の姿があった。しかし、その男の子も肝心の剣は震え、その顔には明らかに恐怖によるものとされる怯えた表情が浮かんでいた。それもそのはず、敵はなんと人ではなくとてつもなく大きな熊のような見た目をした魔物だったからだ。
「!? あれは熊、なのか? それにしてはデカ過ぎなしないか?4、5メートル、いや間違いなくそれ以上はあるな……。子供はおろか、大人でも手におえる相手じゃないぞ!」
状況は最悪といっていいものだった。見たところ周囲に彼らの親や仲間といった姿はどこにもない、このままではあの子たちは助からない、それは明白だった。誰かが助けなければ、そう思った時それができるのは今俺しかいないということに気づいた。だが、あの熊に対する恐怖に怯えているのは何もあの子たちだけじゃない、俺も同じだった。俺が動かなければあの子たちは助からない、それはわかってる。だけど……。
「グゥオオ!!!」
と次の瞬間、熊はその強靭な爪を子供たちに対して容赦なく振り下ろした。
「「…っ!!」」
ガキィン!
だが、熊の強靭な爪は彼らには届かなかった。なぜなら彼らの代わりに俺が剣でその攻撃を受けていたからだ。
「グゥ…!」
「…え?」
「あ、あなたは?」
「くっ…! はあーー!!!」
キィィン!
俺は何とか熊の攻撃を押し返すことに成功するが、熊はすぐさまもう一度俺目掛けてその強靭な爪を振り下ろす。
「グゥオオ…!!」
「…ここだー!!」
次の瞬間、「ヒュンッ!」という軽快な音が辺りに響くと共に俺の手には剣を通じて敵の肉が裂けていく感触が伝わってくる。そして胴を真っ二つに切り離された熊は「ドサッ!! 」という、重量感のある音を出してその場に倒れた。
「はぁ…はぁ…。か、勝てた、のか?」
いろんな要因により心臓がいつもの何倍もの速度で脈打っている、苦しい。
「あ、あの大丈夫ですか?」
その様子を見た男の子が話しかけてくる。
「うん、だ、大丈夫。…はぁ、ふぅ」
俺はゆっくり息を整え、鼓動を鎮める。
「ふう。君たちこそ怪我はない?」
「は、はい!大丈夫です。僕もこの子もどこも怪我はありません!助けていただいてありがとうございます」
「うん。どういたしまして」
「君たちはこんな所で何してたの?お母さんとお父さんは一緒じゃないの?」
「あ、はい。僕たちは『万能草』と呼ばれる薬草を探しにこの森に来たんですけどたまたま通りかかった『フィアースベア』に見つかってしまって」
「フィアースベア……さっきの熊みたいなやつのこと?」
「はい、そうです」
「ごめんなさい、おにいちゃん。私が動けなくなっちゃったからおにいちゃんまで危険な目に合わせて」
そう言うと女の子は今にも泣き出しそうになる。
「大丈夫だよセナ、僕は見てのとおり無事だし。それよりもまずはセナもこの人にきちんと助けて貰ったお礼を言わないと」
「あ、うん、そうだね。…た、助けてくれて、ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」
話しの内容からしてどうやらこの二人は兄妹らしい。女の子の名前は『セナ』、男の子の方は……。
「あ、申し遅れました。僕の名前は『リーフ』です。で、こっちが妹の」
「『セナ』…です」
「あの、良ければお兄さんの名前を聞いてもいいですか?」
「あーごめんね、俺の方こそ自己紹介がまだだったね。俺は『真宮』 心璃、よろしくね」
「!? お兄さんってもしかして家の名前をお持ちなんですか!?すごいです!僕、家の名前を持つお方と会うのは初めてで!」
「わ、私も初めてです!こんな所で出会えるだなんてとても嬉しいです。それに命まで助けていただけるなんて」
苗字があるのがよほど珍しいのか二人は興奮気味に俺に詰め寄る。元いた世界では苗字があるのが普通だったが、こっちの世界ではそうではないらしい。
「えーっと苗字、じゃなくて家の名前があるのはそんなに凄いことなの?」
「当然です!だって家の名をお持ちってことはどこかの貴族の家の方か、あるいは国王様に認められるような功績を残した方なのでしょう?」
「え、えーっとどうだったかなー……」
どうやらこの世界では貴族と呼ばれる人たちと国王に認められた一部の人しか苗字いや『家名』を持っていないらしい。
「あー、期待を裏切るようで申し訳ないんだけど俺は貴族でもなければ凄い功績を残して国王に認められたわけでもないよ」
「え?じゃあ僕たちと同じ平民なんですか?」
「平民、か……。うん、そうだねたぶん」
「でもそれじゃあ何で家の名前を持っているんですか?」
「えーっと、それは、なんて説明したらいいか…」
正直に異世界とは違う別の世界から来て、その世界では家の名前を持ってるのは当たり前だと伝えても信じてもらえるとは思えない、一体どうしたものか。
「…まあ、いいです!お兄さんにも他人には言えない事情の一つや二つあるでしょうし、これ以上は何も聞きません。命の恩人に失礼があってはいけないですからね」
しっかりした子だな、タチの悪い大人なんかよりもよっぽど立派だ。これは将来、優秀な人物になるだろう。それこそ国王に功績を讃えられ家名を持つかもしれない。
「ねえ、おにいちゃん、そろそろ帰らないと村に着く頃には真っ暗になっちゃうよ?」
「ああ、たしかにそうだね。そうだ、シンリさんも良かったら一緒に僕たちの村に来ませんか?」
「え、俺も?」
「はい、助けてもらったお礼をしたいんですけど見ての通り僕たちはまだ子どもなのでろくなお礼もできそうにないんです。でも、村には僕たちの両親も含めてたくさん大人がいるのでシンリさんの満足のいくお礼ができるかもしれません」
「そ、そうですね!私もシンリさんのこと、村のみんなに知ってもらいたいですし是非いらして下さい!」
「うーん、そうだな……。うん、わかったそれじゃあお言葉に甘えて」
「よし、じゃあ決まりですね!」
当初の予定とは少し違うが、村に行ってこっちでの生活の過ごし方や戦い方を学ぶっていう目的はなんとか達成できそうなので大した問題ではないだろう。
「そうと決まれば早速村に戻りましょう。もうじき日も暮れるので」
こうして、俺は「リーフ」と「セナ」に連れられて彼らの住む村へと向かうことになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
リーフとセナと出会った心璃ですが今後どのような関係を築いていくのか楽しみですね!
次話もお楽しみに!




