第一話 少年と少女
皆様お疲れ様です。
今回は出会いをテーマに書いてみました。
まあまだ序盤なんで当然なんですけどね笑。
心璃にとっては始まりの舞台というつもりで書いたので是非最後まで読んでいただけると嬉しいです!
ガサガサ
森に入ってもうかれこれ1時間以上になるが、果物どころか動物一匹すら見かけない。見たところいたって普通の森なのだが、もしかしてこの世界の森には動物や果物は生息していないのだろうか。
すると、その時
きゃーー!!
突然悲鳴のようなものが聞こえてくる。どうやら声の主はこの先にいるみたいだ。
「…とりあえず様子だけ見に行ってみるか」
俺は声の聞こえた方へ走りだした。
「グゥオオ!」
「来るなー!! そ、それ以上近づけば斬るぞ!!」
森の奥を目指して走りだし、5分ほど経過したとき子供が何やら声を荒げて誰かに抵抗しているようだ。
俺は木の陰に身を潜め、ゆっくりと気付かれないように様子を伺う。
「!? あれは熊、なのか? それにしてはデカい。4、5メートル、いやそれ以上か!? どっちにしろ子供の手におえる相手じゃないぞ!」
見たところ周囲に彼らの親や仲間といった存在らしき気配はどこにもない。彼らのうち、女の子の方は恐怖で腰を抜かしているようで逃げることもままならない状態のようだ。もう一人の男の子の方は、女の子を庇うようにして熊に対し剣を向けている。が、その男の子も手が震えていてまともに剣を振れそうにはない。
「グゥオオ!!!」
だがそんなことは構わず、熊はその強靭な爪を子供たちに対し容赦なく振り下ろした。
「「…っ!!」」
子供たちは死を覚悟したかのように目をぎゅっと瞑った。
ガキィン!
だが、熊の強靭な爪は彼らには届かなかった。なぜなら彼らの代わりに俺が剣でその攻撃を受けていたからだ。
「グゥ…!」
「…え?」
「くっ…! はあーー!!!」
キィィン!
俺は何とか熊の攻撃を押し返すと、次の攻撃に備え剣を構え直す。
「グゥオオ…!!」
「…! 来る!!」
今度は彼らではなく俺に向かって攻撃を仕掛けてくる熊だったが『今の』俺の相手ではなかった。
次の瞬間、「ヒュンッ」という軽快な音と共に、熊の上半身と下半身が真っ二つに切り離された。そう、俺の放った一撃が『この(い)瞬間』の熊の姿を作ったのだ。
ドサッ!!
切り離された熊の体は物凄く重量感のある音を立ててその場に倒れ込んだ。
「はっ!はっ! …ふう、なんとか勝てたみたいだな」
いくら俺が成人しているとはいえあの巨体の一撃を受け止められるはずがないのだが、そのことに気づけるほどの余力が今の俺には残ってはいなかった。
「あ、あの」
ふと振り返るとそこには先ほど熊に襲われていた二人が俺の方を見て何か言いたそうにしている。
「…あー、えーっと怪我はない?」
小さい子との接し方がイマイチよくわからないため、俺は彼らを怖がらせないように優しく慎重に話しかけた。
「は、はい!大丈夫です。僕もこの子もどこも怪我はありません!助けていただいてありがとうございます」
「う、うん。どういたしまして」
どうすんだこの状況。黙って去るのは違うし、かと言って何を話せば良いのやら。
「えーっと、君たちはここで何してたの?」
「あ、はい!僕たちは『万能草』と呼ばれる薬草を探しにこの森に来たんですけどたまたま通りかかった『フィアースベア』に見つかってしまって」
「『フィアースベア』というのはさっきの熊のこと?」
「はい、そうです」
と、そこで今まで一言も喋らなかった女の子が口を開いた。
「ごめんなさい、おにいちゃん。私が動けなくなっちゃったからおにいちゃんまで危険な目に合わせて」
そう言うと再び泣き出しそうになる女の子。
「大丈夫だよ、セナ。僕はこうして生きているから!
それよりもまずはセナもこの人にきちんと助けて貰ったお礼を言わないと!」
「あ、うん。そうだね。…た、助けてくれてありがとうございました」
「うん、どういたしまして」
どうやらこの二人は兄妹らしい。女の子の名前は『セナ』、男の子の方は。
「あ、申し遅れました。僕の名前は『リーフ』です。で、こっちが妹の」
「『セナ』…です」
「あの、良ければお兄さんの名前を聞いてもいいですか?」
「あーごめんね、俺の方こそ自己紹介がまだだったね。俺は真宮 心璃、よろしくね」
「!?お兄さんってもしかして家の名前をお持ちなんですか!?すごいです!僕、家の名前を持つお方と会うのは生まれて初めてです!」
「わ、私も初めてです!こんな所で出会えるだなんてとても嬉しいです。それに命まで助けていただけるなんて」
苗字があるのがそんなに珍しい事なのだろうか?元いた世界では苗字があるのが普通だったが、こっちの世界ではそうではないらしい。
「えーっと苗字、じゃなくて家の名前があるのはそんなに凄いことなの?」
「当然です!だって家の名をお持ちってことはどこかの貴族の家の方か、あるいは国王に認められるような功績を残した方なのでしょう?」
「き、貴族?功績?」
どうやらこの世界では貴族と呼ばれる人たちと国王に認められた一部の人しか苗字いや『家名』を持っていないらしい。
「あー、期待を裏切るようで申し訳ないんだけど俺は貴族でもなければ凄い功績を残して国王に認められたわけでもないよ」
「え?じゃあ僕たちと同じ平民なんですか?」
「うん、…たぶん」
「でもそれじゃあ何で家の名前を持っているんですか?」
「えーっと、それは、なんて説明したらいいか…」
正直に異世界とは違う別の世界から来て、その世界では家の名前を持ってるのは当たり前だと伝えても信じてもらえるとは思えない、一体どうしたものか。
「…わかりました!お兄さんにも他人には言えない事情の一つや二つあるでしょうしもうこれ以上は何も聞きません。命の恩人に失礼があってはいけないですし」
しっかりした子だな、タチの悪い大人なんかよりもよっぽど立派だ。これは将来、優秀な人物になるだろう。それこそ国王に功績を讃えられ家名を持つかもしれない。
「あの、おにいちゃん、そろそろ帰らないと村に着く頃には真っ暗になっちゃうよ?」
「ああ、たしかにそうだね。あ!そうだ、シンリさんも良かったら一緒に僕たちの村に来ませんか?」
「え、俺も?」
「はい、助けてもらったお礼をしたいんですけど見ての通り僕たちはまだ子どもなのでろくなお礼もできそうにないんです。でも!村には僕たちの両親も含めてたくさん大人がいるのでシンリさんの満足のいくお礼ができるかもしれません」
「そ、そうですね!私もシンリさんのこと、村のみんなに知ってもらいたいですし是非いらして下さい!」
「うーん、えーっと…」
見知らぬ地で一人も怖いが、あって間もない人たちと一晩共にするのもそれはそれで怖い。
「「だめですか?」」
声を揃えて同時に俺の方を見てくる二人、それもどこか悲しげに。なぜだろう、心が痛む。
「…わ、わかったよ。じゃあお言葉に甘えて」
「やった!じゃあ決まりですね!そうと決まれば早速村に戻りましょう」
と、いうわけで半ば強引に二人の住む村へ行くことになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
リーフとセナと出会った心璃ですが今後どのような関係となるのか楽しみですね!
さて、今回から次回のテーマを発表して終わりにしたいと思います。次回のテーマは『力』です!
次回もお楽しみに!