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4.僕は途方に暮れた(レオンハルト)

食堂を飛び出したその足で、アンヌマリーの部屋に向かう。

ノックもそこそこに部屋に飛び込むと、アンヌマリーが暢気にベッドに寝そべっていた。

噓がバレたと知らないアンヌマリーは僕を見て驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。

「ビックリしたぁ、レオンハルト様じゃない。私に会いに来てくれたのね、嬉しい!」

そう言って僕に飛びつくと、矢継ぎ早に愚痴をこぼしてきた。

「聞いてレオンハルト様ぁ、今日も大変だったのよぉ。ダンスの練習だったんだけど、王妃様ったら何回もやり直しを命じてぇ。もう足が痛くなっちゃったぁ。おかげで晩餐も食べれなかったわぁ。レオンハルト様から王妃様に『私は完璧だから、王太子妃教育は必要ない』って、言ってくれない?」

小首を傾げて可愛らしさをアピールしているつもりのようだが、余計腹立たしくなるだけだった。

怒りのままに、アンヌマリーを張り飛ばす。

アンヌマリーは床に倒れた。

「ちょっと、何するのよ!」

すぐに立ち上がって、僕を睨みつける。

「それはこっちの台詞だ、よくも騙してくれたな!」

怒りをこめて睨みつけると、アンヌマリーは一瞬きょとんとした後、爆笑した。

「あぁなんだ、バレちゃったのね。というか今頃気づいたの?可笑しい!」

ベッドに転がり腹を抱えて笑う様に、いっそう怒りが増した。そのまま殴りつけると、ベッドの上から起き上がって、こちらを睨みつけてくる。

「何すんのよ、レディに暴力振るうなんて最低!」

「最低なのはお前だろう!姉に虐められたなんて、よくも言えたものだな!?おかげで僕は…!」

怒りの余り言葉にならなかったが、アンヌマリーがその先を読み取って言った。

「私と婚約する羽目になった、って?確かに私が嘘をついたのがきっかけだけど、お姉様を信じず騙されるのを選んだのは、そっちでしょう?お姉様を信じてさえいれば、他愛ない嘘で済んだのに」

「………」

言い返せなかった。

悔しいがその通りだった。

ローズマリーは何度も「虐めてなどいない」と、否定してきた。ローズマリーといつも一緒にいた護衛のエリックも「ローズマリー様は、虐めなどしておりません」と、言っていた。

それを信じなかったのは、僕達だ。

無言で俯く僕を見て、アンヌマリーは勝ち誇って言った。

「一生を共にする相手を信じられなくて、上手くやっていける筈ないじゃない。私がいなくても、どのみちお姉様とは破局してたわよ。私のせいにしないでほしいわ」

「……お前と一生を共にするなんて御免だ、婚約破棄を…」

「二度も婚約がダメになるなんて、国王や王妃が許すはずないわ。貴方はもう私と婚約するしかないのよ」

「………お前の本性をバラして…」

「やれるものならやってみれば?バラしたところで、『見え透いた嘘をうのみにして婚約者を冷遇し、その妹と浮気するマヌケな上に最低のクズ男』と、世間に公表するだけよ」

クスクスと嘲笑するアンヌマリーを見て、絶望した。

(こんな女の為に、僕は自分の手を汚したのか?こんな女と一生寄り添って、生きていかなければならないなんて…!)

「騙されたのは私の方よ!王太子妃教育がこんなに厳しいなんて、聞いてなかったわ、何が『大した仕事じゃない』『性悪女でも勤まってるんだから、簡単なものだ』よ。お父様に頼んでも婚約解消して貰えなかった!もうこのままアンタと結婚するしかなくなって、私の人生最悪よ!早く出てって!」

最後にはヒステリーを起こして、手当たり次第に物を投げつけてくるアンヌマリーに、たまらず自室に逃げ帰った。



「お呼びですか、王子」

「どうしたんだ?凄い顔色だぞ」

耐え切れなくて僕はマークとハンスを呼んで、一気にアンヌマリーの嘘と本性をぶちまけた。

同じ罪を共有した2人なら、僕の気持ちを理解してくれると。

すべて吐き出すと、2人は真っ青になっていた。

「そんな…それじゃあ俺達は、何の罪もない令嬢をよってたかって殺したのか?」

真っ青になったハンスが呟く。

マークは口元を抑えて、言葉も出ないようだった。

「どうすればいい?もう取り返しがつかない、どうすれば…」

事実を公表して、裁かれるのは恐ろしい。

だが隠して、あんな女と結婚するのも耐えられない。

「どうすれば…」

僕の呟きに、それまで黙っていたマークが口を開いた。

「どうもこうも仕方ないでしょう…このまま隠し通すしかありません」

「な…」

「お前…!ふざけるな!!」

マークの提案に僕は絶句し、ハンスは激高して胸倉をつかんだ。

相変わらず顔色は悪いものの、マークはそんな僕達を冷ややかな目で見た。

「他にどうしろというんです?事実を公表すれば、僕達が裁かれるだけじゃ済まない。家族にまで類が及ぶんですよ?身分が上の公爵令嬢を殺害したとなれば、家の取り潰しは確実。最悪家族まで処刑されます。僕達だけの問題じゃ済まないんですよ」

「「………」」

マークの言葉に、僕達は何も言えなかった。ハンスは呆然とした様子で、マークから手を離した。

(そうだ…ハンスとマークは侯爵家と伯爵家。格上の公爵令嬢、それも王太子の婚約者を殺害したとあれば、本人の処刑だけでは済まない)

3人共しばらく何も言えず無言で立ちすくんでいたが、やがてハンスがのろのろと部屋を出て行こうとした。

「いいですかハンス。何があっても家族の為、絶対に漏らさないで下さい。誰かに気づかれるのもダメですよ」

ハンスは背を向けたまま無言で頷くと、静かに部屋を出て行った。

「では殿下、僕も失礼します」

「あぁ…」

マークもハンスに続いて、一礼して出て行った。


僕はベッドに横たわると途方に暮れたまま、両手を顔で覆って泣いた。

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