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パラレル番外.公爵夫人の憂鬱

こちらは11話から派生したパラレル話になります。本編とはまた別の話としてお楽しみ下さい。


(公爵夫人視点です)


最近私には、ある悩みがある。


「ふふっ、意地悪ね。エリックってば」

娘のはしゃぐ声に目を向けると、庭で娘と護衛のエリックが楽しげに散歩をしていた。

「お2人とも楽しそうですね。ここのところ良くない出来事ばかりだったので、お2人の婚約で少しでも、お屋敷の暗い雰囲気が払拭できると良いですね」

「………えぇ、そうね」

数か月前、王太子殿下と次女のアンヌマリーが、前婚約者にして姉のローズマリーを陥れて殺害した事が明らかになったものの、王家と公爵家に他に後継ぎがいない為、事実を隠ぺいしたまま軟禁し、それぞれ子供を作って跡を継がせる筈だった―――その晩の内に夫が首吊り自殺をしなければ。

当主不在にする訳にもいかず、娘が後を継ぐ事になり、娘が処罰されないのに王太子や他の者だけ罰するわけにもいかず、結果として処罰はうやむやになった。


娘は喪が明けると同時に当主の継承と、護衛騎士のエリックとの婚約を宣言した。

平民のエリックとの婚約は反発が強かったが「どうせ殿下との婚約も破棄されて、傷物になった身だから」と言い切り、エリックを没落した下級貴族の養子とする事で、押し切った。

だが私には、ある疑問があった…夫は本当に、自殺だったのだろうか。


「本当に仲睦まじいですね、これなら公爵家も安泰ですね」

メイドの言葉に庭に目を向けると、娘が甘えるようにエリックにもたれかかり、エリックが娘に微笑みながら額にキスをしていた。

「えぇ…本当にね。睦まじすぎるくらいに…」

「え?」

不思議そうな顔をするメイドを無視して、2人から目を離す。

(あの我の強い夫が、娘が罪人になったくらいで、悲観して自殺などするだろうか?ほとんど接触のなかったエリックとアンヌマリーが、婚約破棄からたった数か月で、これほど親しくなるのだろうか?いや、そもそも死んだのは、本当にローズマリーなのだろうか…)

夫が亡くなって以来、疑問が頭から離れない。

ローズマリーとアンヌマリーは双子ではないが、年子で容姿もそっくりで、髪型さえ変えれば見分けがつかなかった…棺に入った状態で見分けるのは不可能なくらいに。

「いい加減、はっきりしないと…」

ため息をつくと、メイドに伝言を言いつけた。


「お母様お待たせしました。お母様とのお茶会も久しぶりですね」

「えぇそうね。今日は久しぶりに、親子水入らずで過ごすのも良いかと思ったのよ。さぁ、貴方の好きな物を用意したわ、どうぞ召し上がれ」

「ありがとうございます、いただきます」

そう言って嬉しそうに『娘』が、席に着く。

疑問を解消するため、『娘』と、2人きりのお茶会をひらいてみた。

今回のお茶会には、アンヌマリーの好きなお茶と、ローズマリーの好きな菓子を用意した。

(もしも目の前にいるのがローズマリーならお茶を飲まず、アンヌマリーなら菓子を食べないだろう…)

『娘』のカップには、あらかじめアンヌマリーの好きなお茶を入れておいた。

本来なら本人が来てからメイドに給仕させるが、今回は場合によっては、知られたくない展開になるかもしれないので、準備だけさせてすぐ人払いした。

固唾をのんで見守っていると『娘』は顔を顰める事すらせず、かなり甘めのミルクティーを「美味しいです」と言って、飲んでいた。

その様子を見て、ホッとする。

(杞憂だったようね)

ローズマリーは、甘党のアンヌマリーが好む甘さのミルクティーは苦手だった。逆にアンヌマリーはローズマリーの好むすっきりした甘さの、フルーツティーを嫌がっていた。片方の好みしか出さないと喧嘩になっていたので、いつも2人分用意するのが面倒だった。

昔の思い出が甦り、微笑ましい気分になって笑うとアンヌマリーも笑った。

その後も昔の思い出で話が弾み、憂鬱な気分も吹き飛んでいた。

だからお互い油断していた。

「あっつ!」

2杯目のお茶を飲もうとして、アンヌマリーが舌を火傷したのだ。

1杯目はあらかじめ入れておいたから、ある程度冷めていたのだろうが、2杯目は入れたてで熱かったのだろう。

「まぁ大丈夫?」

「すみません。昔から入れたては苦手で…もう少し冷ましてから飲みますわ」

アンヌマリーが、困ったようにカップをソーサーに戻す。

「まぁまぁ、気を付けてね。貴方は私に似て猫舌だから……」

そこまで言って、言葉が途切れる。

一気に血の気が引くのを感じた。

(違う、私に似て猫舌だったのは…)

「………お母様?どうなさったの、そんなに真っ青な顔をして」

目の前にいる『娘』が、愉快そうに首を傾げる…私の考えてる事に気づいたのだろう。

「あ、貴方は…まさか」

体の震えが止まらない。

それ以上は恐ろしくて、言葉にならなかった。

反対に『娘』は、無言で微笑んでいた。もう取り繕う気もないのだろう。

「…ねぇ、お母様。ずっと『私』を疑っていたでしょう?私が本当はお姉様なんじゃないか、って」

「………」

「でもそれって、そんなに気にする事?」

「………え?」

何を言われているのか、わからなかった。

「例えば私がローズマリーで、前からエリックと恋仲だとして、アンヌマリーを唆して私のフリをさせて、王太子に殺されるように仕向けて、婚約が破棄されてクズな王太子から解放されて、目障りで大嫌いなお父様も殺して、晴れて自由の身になって、公爵家を手に入れてエリックと結ばれる…なんて事になったとしても、お母様にとっては娘の1人が王太子に殺されて、生き残った方が後を継ぐ、という事に変わらないでしょう?」

「………」

「不満があるなら周りに言ってみれば?でもお母様が何を言っても証拠はないし、『お姉様』は土の下だし、『私』が公爵家を継ぐしかない。そうでしょう?」

「………」

「あくまで例えば、の話です。私は貴方の可愛い『娘』よ、何も変わらないわ」

笑顔で小首を傾げて、聞いてくる。

(私の答えに気づいている…いや、どちらでも良いのだろう)

意に沿わない答えなら、夫の後を追う事になるのだろう。

「…そうね、気にする事じゃないわね。貴方は私の可愛い『娘』よ」

強張った顔で、どうにか笑顔を取り繕って言う。



同意すると『娘』が嬉しそうに笑った。






ここまでお読み下さりありがとうございました。

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