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神殿の扉が重く閉まる音が、森の静けさに響き渡った。アルノはシアを支えながら、ゆっくりと神殿の中に足を踏み入れた。アゼリウスも続いて、周囲を警戒しながら進んでいった。神殿内は薄暗く、細い道が無数に交差している。石造りの壁は苔と藻に覆われ、時折、不気味にひび割れた音が響く。
「気をつけろ。この神殿はただの遺跡じゃない。無数の魔法の結界と試練が封印されている。」
アゼリウスの声が響き、アルノは改めてその警戒心を強くした。シアは肩で息をしながら、彼の背中にしがみつくようにしている。その顔は青白く、目の奥に苦痛が走っているのが見て取れた。
「シア、もう少しだけ頑張ってくれ。」
アルノは懸命に励ましながら、シアを支え続ける。だが、彼の心の中には不安が渦巻いていた。アゼリウスが言った通り、この神殿には「試練」が待ち受けている。それがどんなものなのか、彼にはわからない。ただ、シアを救うためには、進むしかないのだ。
突然、彼の足元が揺れ、地面が震えた。アルノは一瞬、足を止める。
「気をつけろ!」
アゼリウスの声が響き、同時に地面が崩れ落ち、深い穴が開いた。そこから、何か巨大なものが現れた。
「なんだ、あれは…?」
その巨大な影は、漠然とした形のまま現れ、すぐに姿を固めた。アルノは目を凝らすと、それが魔法の結界によって形成された巨大な石像であることに気づいた。その石像は、まるで生きているかのように目を光らせ、手に握った大きな剣を構えた。
「来るぞ!」
アゼリウスが叫ぶと同時に、石像の腕が振り上げられ、巨大な剣がアルノに向かって振り下ろされた。その力はまるで大地を裂くような迫力を持ち、アルノは瞬時に剣を構えて防ごうとするが、その力に押し戻されてしまう。
「くっ!」
アルノは身体をひねりながら、シアをしっかりと抱え直し、必死に避けた。だが、次々と石像の剣が振り下ろされ、その動きは非常に速く、止めることができない。
「シア、離れていられないぞ!俺が守る!」
アルノはそのまま前に立ち、石像の攻撃を何度もかわしながら進んでいく。何度も何度も剣が降り注ぎ、その度に彼の身を危険にさらしていった。
「シア、あの像をどうにかしないと…!」
アゼリウスは冷静に周囲を見渡し、そして一瞬の隙をついて呪文を唱えた。すると、石像の目が一瞬だけ輝き、その姿勢を少しだけ崩した。
「今だ、アルノ!」
その隙をついて、アルノは全力で石像に向かって駆け出す。石像の剣が再び振り下ろされる瞬間、アルノはその間を突っ切り、一気に石像の胸部へと飛び込んだ。
「来い!」
アルノは剣を高く掲げ、石像の胸に向かって斬り込んだ。鋭い刃が石を切り裂く音と共に、石像の体内から何かが崩れ落ちるような音が響いた。その瞬間、石像は力を失い、崩れ落ちた。
「やったか……?」
アルノが息を整えながら周囲を見回すと、石像が崩れ、力を失ったことが確認できた。だが、まだ油断はできない。試練はこれだけでは終わらないはずだ。
「どうだ、アゼリウス?」
「次の試練はすぐに来る。だが、今のうちにシアの様子を見ろ。」
アゼリウスの声に振り返ると、シアが顔を青くしながらも、アルノの腕の中で小さくうなずいた。
「大丈夫、アルノ。私は……まだ、少しだけ元気よ。」
その言葉に、アルノは安堵の息をついた。しかし、次に迫る試練がどれほど厳しいものになるのか、それを考えると心が重くなるのを感じた。
その後、アルノとシア、そしてアゼリウスは神殿の奥へと進み続けた。次々と立ちはだかる障害や魔法の結界を乗り越えながら、彼らは進んだ。しかし、シアの体調は次第に悪化していき、アルノはますます焦りを感じていた。
やがて、神殿の最深部にたどり着いた。そこには、巨大な石の扉があった。扉には古代の文字が彫られており、何かの呪文のようにも見える。アゼリウスはその文字を一瞥した後、静かに言った。
「ここから先は、真の試練だ。お前たちの絆と、過去に対する覚悟が試される。」
「過去に対する覚悟?」
「そうだ。シア、貴様の記憶と力には、何か大きな秘密が隠されている。」
アゼリウスは、シアの顔を見つめる。その眼差しには、ただの魔法使いとしての冷徹さだけでなく、何か深い知識を持った者のような雰囲気があった。
「この先に進めば、シアが忘れていた何かが明らかになる。それを受け入れる覚悟が、お前にはあるか?」
アルノは迷いながらも、シアの手を強く握りしめた。
「俺は、シアと一緒に進む。どんな試練でも、どんな秘密でも、二人で乗り越える。」
その言葉に、シアは小さく微笑んだ。
「アルノ……ありがとう。」
その時、神殿の扉が重々しく開かれ、暗闇の中から眩い光が漏れ始めた。
試練は続く。アルノとシアは、再びその道を歩み始めた。神殿の最深部に待ち受けるものとは、一体何なのか。過去の秘密、そしてその真実に迫る時が、いよいよ訪れようとしていた。




