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朝日が山々の間から顔を覗かせ、アルノとシアが歩く森に明るい光が差し込んだ。霧が立ち込める中、二人の足音が静かに響いている。


「アルノ、もう少しで町に着くわね。」


シアがふと口を開き、アルノの方を見た。その目は、相変わらずどこか遠くを見つめるように曇っていた。彼女の表情からは、どこか重い決意が感じ取れた。


「町には行かないつもりだ。俺たちの目的は、もっと先にある。」


アルノは答えた。彼は、シアが言う町に寄るつもりなどなかった。町には、彼の家族が関わっていた事件の手がかりがあると言われているが、それが本当に正しいのか確かめることが先決だと考えていた。


シアは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。彼女の表情からは、もはや疑問の色は消えていた。


「分かったわ。でも、私たちが進んでいる場所には、もっと大きな危険が待っているかもしれない。」


シアは風の精霊のように、軽やかに歩きながら続けた。


「私の力、あまり使わない方がいいわよ。魔法は、今、少しだけしか使っていないけれど…無理をすれば、また倒れるかもしれない。」


アルノはその言葉に答えず、黙って前を見つめた。シアがどんな力を持っていても、彼にとって一番重要なのは彼女の命だった。それだけは守りたかった。


彼の心の中には、家族を失った悔しさと、シアに対する責任感が入り混じっていた。それは、まるで風のように複雑で、どうしていいか分からない感情だった。


「でも、どうしてあんなに苦しんでまで魔法を使うんだ?君の力は、それほど強いものなのか?」


アルノが問いかけると、シアは少し立ち止まり、目を閉じて風を感じるように深呼吸をした。


「私の力は、ただ強いだけじゃない。でも、それを使うことで得られるものがあると思っている。それが、私の家族のために…だから、私は何度でも使う。」


その答えにアルノは、少し驚いたような表情を浮かべた。シアの家族がどんな人物だったのか、アルノはまだ詳しく知らなかった。しかし、彼女の言葉からは、彼女自身がその力に対してどうしようもないほどの決意を持っていることが伝わってきた。


その時、シアが突然、足を止めた。


「…何か、聞こえない?」


シアの目が鋭くなり、アルノも足を止めた。周囲の静けさが、次第に不安に変わっていった。


アルノは耳を澄ませた。風の音、葉のざわめき、遠くの鳥の鳴き声。それらはいつも通りだったが、どこか不自然な静けさも感じられた。


「来る…」


シアがそう言った瞬間、アルノは冷や汗をかいた。直感的に、何かが迫っていることを感じ取ったのだ。


「準備をしろ。」


アルノは剣の鞘に手をかけ、即座に構えた。その時、森の奥から不意に声が聞こえてきた。


「おい、そこにいるのは誰だ?」


その声は、ひどく低い、しかし冷徹な響きがあった。数人の人影が森の向こうから現れ、彼らはアルノとシアに向かって歩み寄ってきた。


「お前たち、何者だ?」


アルノはその声に鋭く答えることなく、ただその人々を睨みつけた。シアもまた、微かに魔法の力を手に感じ取っているのか、警戒を強めた。


「私たちのことは関係ない。立ち去ってもらおう。」


一人がそう言うと、その後ろから魔法を使う者たちが現れた。その力は風の魔法とは異なり、冷たい氷のような力が漂っている。


「貴族の血を引く者か…」


その一人がアルノを見つめ、冷ややかな笑みを浮かべた。


「お前も、魔法の力を求めてきたのだろう。だが、ここで終わりだ。」


その言葉に、アルノは無言で剣を抜き、構えを取った。彼の心は揺るがなかった。ここで引くつもりはない。家族の名誉を、そしてシアを守るために、彼は戦う覚悟を決めた。


シアもまた、風を呼び寄せるように腕を振るい、彼女の周囲には微かな風の力が渦巻き始めた。


「覚悟しなさい。」


シアの目は鋭く、そして決意に満ちていた。彼女がどれだけ力を使い、どれだけ反動が強くても、彼女はこの瞬間にかける覚悟を決めていた。



二人は互いに視線を交わし、無言でその時を待った。彼らの前に立ちはだかる者たちは、ただの通りすがりではなかった。アルノの家族に関わる謎が、再び動き始めたのだ。

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