10
アゼリウスの言葉が静かな空間に響く。その声は、まるで二人に告げられる最終的な選択のように重く感じられた。
「これが最後の試練だ。」
アゼリウスはその言葉を告げると、二人に向かって冷徹な目を向けた。
「だが、試練の内容は、お前たちがこれまで受けたものとは比べ物にならない。」
「最後の試練…?」
アルノは疑念を抱きながらも、その場に立ち続けた。シアも、やや緊張しながら彼を見つめていた。
「試練がどんなものでも、俺たちは乗り越える。」
アルノは強く言った。シアが少し躊躇う様子を見て、さらに力強く言い添えた。
「お前がいれば、何でも乗り越えられる。」
シアはその言葉を胸に刻み込み、再び深く息を吸って前を見据えた。
「アルノ…ありがとう。」
彼女の目には、もう恐れはなかった。アゼリウスは二人を見守りながら、ゆっくりと歩を進めた。
「覚悟を決めろ。」
その言葉とともに、アゼリウスの周囲の空間が急速に歪み始める。暗闇と光が入り混じり、視界が一瞬で遮られる。その瞬間、二人はそれぞれの体に強い引力を感じ、周囲の景色が完全に変わった。
「これは…どこだ?」
アルノは辺りを見渡した。そこに広がっていたのは、まるで世界の終わりのような、荒れ果てた景色だった。黒く煙を上げる山々と、ひび割れた大地。空には赤黒い雲が広がり、不安定な空気が漂っていた。
「ここは、試練の場所だ。お前たちが戦うべきものは、心の中にある。」
アゼリウスの声が、異常なまでに冷たく響いた。その言葉に、シアは気づいた。これは物理的な試練ではない。二人の心、絆、そして彼らの内に潜む恐れと向き合わせられる試練だと。
「アルノ、どうしよう…これ、私には…」
シアは目を伏せた。彼女の心の中に過去の恐れが再び顔を出し、アルノとの絆が試されることを恐れた。もし、自分が再びその力に引き寄せられ、アルノを傷つけてしまったらどうしようという不安が彼女を支配していった。
アルノは彼女の手を強く握りしめ、静かに言った。
「お前はもう、過去に囚われることはない。俺がいる限り、何も怖くない。」
その言葉に、シアは再び強い決意を固めた。
「私は、もう逃げない。」
彼女は声を出して言い、その目に力を宿らせた。
その瞬間、大地が震え、前方に一つの影が現れた。それは、シアの心の中に潜んでいた恐れの具現化だった。暗い鎧をまとった巨大な影が、シアに向かって迫ってくる。その目は、まるで彼女の弱さを見透かすように光っていた。
「これは、私の…恐れ?」
シアはその影を見つめながら、恐れを感じた。しかし、すぐにアルノがその手を強く握りしめてくれる。
「お前の力を、俺が信じるから。だから、恐れるな。」
アルノの声は、シアの心に温かく響いた。
その瞬間、シアは自分の中にある恐れを感じ取った。それは、力を使いこなせないことへの恐れ、過去の傷に再び引き戻されることへの恐れ、そして何よりもアルノを傷つけることへの恐れだった。しかし、それを乗り越えなければならない。彼女は心の中で強く誓った。
「私の力は、私が使うもの。もう、誰にも支配されない。」
シアはそう呟き、その目に強い決意を宿らせた。彼女は手を広げ、風を呼び起こした。風は次第に暴れ、黒い影とぶつかり合う。
「お前は、私の恐れじゃない。私は、もうお前に支配されることはない!」
シアの叫びとともに、影が爆発的に消え去り、風が静かに収まった。
「シア…!」
アルノは驚きと共にその光景を見つめた。そして、シアが再び彼の側に立っているのを確認した。
「私は、乗り越えた。」
シアはアルノに微笑んだ。その顔には、これまでの不安や恐れがすべて消え去り、彼女自身が強くなった証が現れていた。
その瞬間、アゼリウスが静かに近づいてきた。
「お前たちは、最後の試練を乗り越えた。」
アゼリウスは一瞬の沈黙の後、言った。
「だが、この試練は、ほんの始まりに過ぎない。お前たちの道は、これからも続く。しかし、今はお前たちの絆が何よりも強い。」
その言葉に、アルノとシアは互いに目を見合わせ、そして深く頷いた。
「どんな試練が来ても、俺たちは一緒だ。」
アルノは力強く言った。
「私も、どんなことがあっても一緒に進む。」
シアはしっかりと答えた。
そして、二人は新たな未来へと歩みを進めていく。
試練を乗り越えたシアとアルノは、絆をさらに深め、これからの冒険に挑む覚悟を固めた。




