第3話:盾の力と選択
翌朝、ガードはまだ少しぼんやりとした頭で目を覚ました。焚き火はすでに消え、森の静寂が彼を包み込んでいた。イリスはすでに起きており、何かを混ぜ合わせている音が聞こえる。彼女はガードが目を覚ましたのを察し、微笑んで近づいてきた。
「もう少し休んでもいいけど、体調はどう?」
ガードはゆっくりと体を起こし、手で額を触った。昨日よりは体が軽くなっている。だが、まだ何かしらの不快感が体の奥に残っているようだった。
「大丈夫…少しだるいけど、もう平気だよ。それより、あの盾のことをもっと知りたいんだ。どうしてあんな力が…?」
イリスは静かに頷き、彼の隣に座った。彼女は懐から古びた巻物を取り出し、慎重に広げた。巻物には古代文字が並び、絵柄もいくつか描かれていた。
「これは私が錬金術師として旅をする中で見つけたもの。これによると、あの盾は古代の神が作り出した ‘命を刈り取る盾’ だとされている。その役割は単なる防具ではなく、攻撃者の命を奪い、その力を持つ者に還元するというもの」
ガードは息を呑んだ。自分が手にしている盾が、そんな神話的な力を持っていたなんて信じられなかった。
「でも、なぜそんな恐ろしい力が…? 村の伝承では、村を守るための神具だって聞いてたのに…」
「確かに、伝承は間違いではないわ。盾は確かに ‘守る’ ためのもの。ただ、その方法が想像とは違っていたというだけ。刈り取る力で相手を倒すことが ‘守る’ ということになっているのよ」
イリスの言葉に、ガードは少し混乱した。命を奪って守る…その矛盾した考えが彼の心を重くした。
「でも…命を奪うなんて、そんなことが本当に ‘守る’ ことになるのか?」
ガードの問いに、イリスは一瞬だけ黙り込んだ。彼の純粋な疑問に対して、簡単に答えることはできないと感じていた。
「命を奪うことは確かに恐ろしいわ。でも、この盾の力をどう使うかは、あなた次第よ。力そのものが善か悪かを決めるのは、持つ者の意志にかかっている」
イリスはそう言って、彼に柔らかな微笑みを向けた。
「でも、刈り取った命はそのまま消えるわけじゃない。そのエネルギーは盾に蓄えられる。そして、あなたはそのエネルギーを他の生き物に分け与えることができる。たとえば、枯れた木を蘇らせたり、病気の動物を癒やしたりすることもね」
ガードは驚いてイリスを見つめた。盾はただの武器ではなく、奪った命を再び与えることもできるのだと知り、その力の可能性に少し希望を見いだした。
「それじゃあ、奪った命を良いことにも使えるってことか…」
「そう。でも、忘れないで。命のエネルギーは強力だけど、使い方を誤れば自分の体を壊してしまう。あなたはまだその力に慣れていないから、慎重に使うべきよ」
イリスの忠告にガードは真剣に頷いた。盾の力を誤って使えば、命を奪うだけでなく、自分自身も危険にさらされるということだ。ガードはその重い責任を感じ始めた。
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その後、イリスはガードに盾の使い方についてさらに詳しく説明した。盾に蓄えられた命のエネルギーは、集中すれば周囲の植物や生き物に少しずつ分け与えることができる。しかし、一度に大量の命を移すと、盾を持つ者に大きな負担がかかる。
「これを試してみましょう」
イリスは小さな枯れかけた花を摘み、ガードに差し出した。
「この花にエネルギーを与えてみて。大きくではなく、少しだけ意識を集中してみて」
ガードは戸惑いながらも、盾に手を当て、心を集中させた。何かがゆっくりと彼の体から花へと流れていく感覚があった。すると、花がわずかに輝き、再び元気を取り戻していった。
「すごい…本当にできた!」
ガードは驚きと喜びの表情を浮かべた。奪うだけではない、与えることもできる盾の力に少しだけ希望が湧いてきた。
「よくできたわ。でも、これを何度も繰り返すと、あなた自身にも影響が出るかもしれない。無理はしないように」
イリスの言葉に、ガードはしっかりと頷いた。力をどう使うか、それを決めるのは自分次第。盾に振り回されるのではなく、自分の意志でその力を使いこなさなければならない。
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夕方になる頃、イリスは再びガードに声をかけた。
「さあ、これからどうするの? あなたの村は…?」
ガードは一瞬考え込んだが、決意した表情で立ち上がった。
「僕は村を守りたい。そして、この盾の力が必要になるなら、使う。でも、奪った命を無駄にしないように、その力で誰かを救うこともしたいんだ」
イリスは彼の言葉に満足そうに微笑んだ。
「いい覚悟ね。それじゃあ、私も一緒に手伝うわ。この旅はまだまだ続くはずよ」
ガードとイリスは共に、村を救うための新たな旅路へと足を踏み出した。その先には、さらなる試練と、盾の力に隠された秘密が待っていることを、彼らはまだ知らなかった。
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次回、第4話では、ガードとイリスが最初の試練に立ち向かいます。新たな敵や困難が彼らを待ち受け、盾の力が試されることになるでしょう。