第13話: 盾の秘密とイリスの異変
古代の神殿を後にしたガードとイリスは、山道を下りながら静かな空気の中を歩いていた。しかし、何かが変わり始めていることにガードは気づいていた。
「イリス、大丈夫か?」
彼は心配そうにイリスの顔を覗き込んだ。イリスは少し青白く、汗が額に滲んでいる。ここ数日、彼女の様子は明らかにおかしかった。時折ふらつき、急に顔色が悪くなることが増えていた。
「…大丈夫よ、心配しないで」
イリスは微笑みを浮かべてガードを安心させようとしたが、その表情は明らかに無理をしているようだった。彼女の瞳に映る疲れは隠しきれなかった。
二人はそのまま無言で歩き続け、やがて日の暮れた頃に小さな休息場所に辿り着いた。ガードは薪を集め、火を起こしたが、イリスは疲れ切った表情でその場に座り込んでいた。
「イリス、君の体のこと…本当に大丈夫なのか?」
ガードは改めて尋ねた。彼はもう黙って見過ごすことができなかった。
イリスはしばらく何も答えず、ただ焚火を見つめていた。炎の揺らめきが彼女の瞳に映り込み、その瞳がわずかに揺れる。
「…ごめんなさい、ガード。ずっと隠していたけど、もう限界かもしれない」
彼女は深く息を吐きながら、静かに口を開いた。
「実は、私には癒えない病があるの。身体の中で命が少しずつ削られていっている…まるで、何かが私の命を食べているみたいに」
ガードは衝撃を受けた。彼女がずっと体調不良を隠していたこと、そしてそれが単なる疲労ではなく、深刻な病であったことを知り、言葉を失った。
「そんな…なぜ僕に言わなかったんだ?」
「あなたに心配をかけたくなかったの。でも、もう隠すことはできない。私が旅に出た理由は、この病を治す方法を探すためだったの」
イリスは静かに語り続けた。
「私は錬金術師として、多くの治療法を試してきたけど、この病だけは治せなかった。だから、神具の力に賭けるしかなかったの。私があなたと旅をしている理由は、盾が命を操る力を持っていると知ったからよ。」
ガードはその言葉を聞いて、さらに深く考え込んだ。イリスが自分を助けてくれたのは、純粋な友情や使命感だけではなく、彼女自身の切実な理由があったのだ。
「じゃあ、盾の力で君の命を救えるかもしれないってこと?」
ガードは自分の盾を見つめた。命を刈り取る力を持つ盾は、命を与えることもできる。しかし、それがイリスの病に通用するのかどうか、彼には確信がなかった。
「…分からない。でも、少なくともこの盾なら、私の命を保つことができるかもしれない。私は、少しでも長く生き延びたい。それが今の私の願い」
イリスの声は静かで、けれども深い決意が感じられた。彼女は病に侵されながらも、諦めることなく生き続けようとしていた。
「わかった。君を助けるために、僕は盾の力を使うよ。どんな方法があるか、これから一緒に探そう」
ガードは力強く言い切った。彼は今、自分の使命がイリスを助けることにあると確信していた。盾のさらなる秘密を解明することで、彼女を救えるかもしれないという希望が胸に灯った。
その夜、ガードは眠れなかった。焚火の音だけが響く中、彼は盾を見つめて考え続けた。この盾がもたらす命の力。それは刈り取ることだけではなく、与えることも可能だ。しかし、その力を完全に解放するためには、まだ何かが足りないように感じていた。
「命を操る力か…」
彼は再び試練で得た答えを思い返した。命は連鎖している。奪うことと与えること、その両方が一つの流れの中にある。もしかすると、盾の力を完全に解放するためには、その連鎖を深く理解する必要があるのかもしれない。
翌朝、イリスは再び弱々しい体を引きずりながら旅立つ準備を整えていた。彼女の病が進行していることは明らかだったが、それでも彼女は歩みを止めることはなかった。
「行こう、ガード。まだ道は続いているわ」
イリスは微笑んでそう言ったが、その笑顔の裏には深い覚悟が感じられた。
次回、第14話では、ガードが盾の力を使ってイリスを救うための新たな手掛かりを得る瞬間が描かれる。神殿での試練は終わったが、まだ解かれるべき謎は残されている。イリスの命を救うため、ガードはさらなる試練に立ち向かう。




