第一話 まさに異世界転生って感じ
プロローグ
今自分がいるのは、緑の草が広がる草原の真ん中にあるポツンとたった木の下。右にはなんか暗い森。左にはでっかい山。そして前には凄く大きい町がある。
「……どこだここ?」
そんなどこか分からない場所で立ち尽くしてるのが俺、井尾 翔流、15歳。今日は高校の入学式のはずだったんだが、いつの間にかこのどこか分からない場所で、立ち尽くしている。
趣味はラノベを読むこと、それからアニメを見ること。……つまりオタクだ。
「それはもちろん異世界でしょ」
そう意味不明な事を言ったのは、井尾 日鈴、15歳。俺の実の妹だ。
黒色の長い髪を後ろでまとめて、ポニーテールにしているのが特徴的で、本当に俺の妹かと思うほどの美人だ。おまけにスポーツ万能、成績優秀で、いつも体育の授業では活躍し、定期テストではいつも学年1位。……アニメに出て来そうなキャラクター像だなー。本当に俺の妹かなー。
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今自分がいるのは、緑の草が広がる草原の真ん中にある(以下略)
「……どこだここ?」
そんなどこか分からない場所で立ち尽くしてるのが俺、井尾
「何回やるの!?」
「……どこだここ」
「ストープ!」
そう言って日鈴が首を絞めてくる。息できねぇ。
「気持ちは分かるけど気を確かにして! 異世界だよ! 異世界転生だよお兄!」
「分かったから、ギブギブ! 死ぬ! また転生しちゃう!」
「あっごめん」
日鈴は俺の首から手を放し、俺を解放してくれた。シャバの空気うめぇ。
どうやら俺は驚きすぎて同じ事を繰り返してたらしい。
「……(異世界転生って)まじ?」
「まじ」
そっかー、異世界転生かー、……まじで? え? 本当に異世界転生!? なら魔法とかあるよね! だったら初めにやるのはこれでしょ!
俺は立ち上がり、深く深呼吸をして、呼吸を整える。ちょうど風が吹き、周りの草が風によって揺れている。
「……どうしたのお兄。急に静かになったとお思ったら、急に立ち上がって」
「すぅーー、はぁーー」
いくぜ! オタクとして異世界転生したらやりたいことの1つ!
「エクスプロージョン!!」
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何も起きませんでした。
「……ドンマイお兄」
「ああ、最悪だ」
「よかったー。私も後でやろうと思ったんだよねー」
「兄を身代わりに使うな」
俺って魔力無いのかな? それともこの世界魔法とかない系? そうだったら異世界転生したらやりたいこと、半分は出来ないんだけど。……いやまてよ。
冷静に考えたら、やっぱり異世界じゃ無いのかな。そうだよな、普通異世界とか存在しないよな。ラノベの中だけだよな。だって
「なんで日鈴がいるんだ?」
普通に考えて異世界転生するってことは、現実世界で死んだってことだろ。つまり日鈴は現実世界で死んだことになる。俺の知る限りでは日鈴は現実世界で死んでいない。それに自分が死んだ記憶が無い。つまりおかしい。いや、もしかして転移? いや違う、だって日鈴は「異世界転生」っと言っていた。日鈴も転生と転移の違いは知っている。てゆうことはこれは転移じゃない。
こういう時は現実での最後の記憶を思い出そう。
俺は確か自分の部屋で……ちょっとまて。
俺、寝てたよな? 俺、ベットの中で目を閉じてそのまま……つまり、
「夢かよ!」
結論、夢でした。
「なんだ夢かよ。どうせなら本当に転生してたらな~~」
「お兄」
「なんだ妹よ……てか夢にまで出てくるって、俺ってシスコンすぎね?」
「……」
「どうした? 無言で近づいてきて」
日鈴が無言で近づいてきて、俺の前まで歩いてきた。どうした急に? ……急に頬をつねってきた。やめてそれ以上伸ばしたらちぎれるから! 痛いから! ……痛い?
「痛いということは」
「夢じゃないよお兄、現実だよ」
「分かったからそれ以上、つねるな!」
「あ、ごめん」
痛い、頬がヒリヒリする。
とりあえず夢じゃなくて、現実で、しかも異世界というのは分かった。
だとしたら色々謎が出てくる。
死んだ記憶がないのになんで転生してるのか。転生したらなぜ日鈴がここにいるのか。……考えるより日鈴に聞いた方が良いな。
「なあ日鈴」
「なにお兄?」
「どうして俺らは異世界転生してるんだ?」
「それはねぇ……」
第一話 まさに異世界転生って感じ
「はああぁぁぁ」
お兄がそこそこ大きめなため息をつく。
入学式の前日、時間は午後10時くらい? 明日は入学式のため早く寝ようとして、お風呂や歯磨きなどを終わらせて今から寝ようとしている所だ。
「入学式かぁ」
「そうだね」
「友達できるかなぁ」
「……ははは」
明日は入学式、高校の、つまり……明日から数日の間に友達を作らなければならない。
もし作れなかったら、周りが仲良くなって、そのうちにグループができる。そしてそのグループの中からクラスの中心のグループが決まり、クラスの輪が完成する。いわゆるスクールカーストというやつだ。
そのスクールカーストによってクラスの上下関係が決まり、3年間それがほぼ変わらず続く。
もしそのスクールカーストに入れなかったら、昼食はいつも1人で便所飯。教材忘れても人から借りれない。休み時間は寝たふりか、ラノベを読む。授業で2人1組になるときもいつも余るか、友達でもないよく分からないクラスメイトと気まずい時間を過ごすことになる(実話)。……と、お兄は説明していた。
今の説明みたいにお兄は小学校、中学校でこうなったため、「高校こそは」と張り切っているが、かなり緊張しているらしい。
ちなみに私はちゃんと友達いるし、昼食はいつも友達と食べるし、教材忘れても友達から借りれる。
これをお兄に言ったら「うっ、輝かしすぎる」とか言ってくる。うん、よくわかんない。
「俺もう寝るは、お休み」
「お休み~」
そう言ってお兄は自室に向かっていく。
お兄多分これ寝れないやつだな。
私は妹としてお兄の事がよく分かる。例えば好きな食べ物は当たり前だけど、よく行くアニメイドや、ゲーセン。好みなラノベのジャンルとか、お兄の好きな女子のタイプ。それ以外でも今から行きそうな場所や、今からやりそうな事。そしてお兄の性○。他にも色々な事が分かる。
今回みたいに「今日は寝れなそうだな~」とゆうのも分かる。
「よし、ここは妹として添い寝してあげよう」
私はそう言ってお兄の部屋へと向かう。
「どうもこんにちは。いや、こんばんはかしら?」
「……え?」
気づけばなんか雲の上にいるんだけど。しかも目の前に銀髪ロングの綺麗な女性がいるんだけど。
しかも白い服をまとっていて、背中に翼が会って、頭に天使の輪みたいなのがあるんだけど。……え? もしかして天使?
「はい、天使です」
天使でした。
天使って心読めるんだ~……って、そんな事を考えてる場合じゃない。この天使様に色々聞かなくちゃ。
「……ここってどこですか?」
「ここは天界です」
うん、やっぱり天界か~。……え? てゆうことは私死んだの?
「はい、死んでいます」
「そ、そん……なぁ」
私は叫びながらその場に這いつくばった。
凄い続が気になるラノベが明日発売で、私とお兄は入学式終わったら買いに行こうとしてたのに……凄い続きが気になるのに……私、死んじゃった。
「それは……まあ、残念だったね?」
天使様が心を読んで励ましてくれる。
「まあ、そんな貴方、いえ、このさい日鈴ちゃんって呼ばせて貰うわね。日鈴ちゃんに嬉しい話があります」
「……」
「まあまあ、顔を上げて聞いてください」
這いつくばったまま顔を上げ、天使様の話を聞く。
「まずは謝罪します、ごめんなさい」
「?」
「実は日鈴ちゃんは私のミスで死んでしまいました」
「……え?」
そんなラノベみたいな事あるんだ。てか天使様もミスするんだ。……まって、もしラノベ通りの展開になるなら、「お詫びとして異世界に転生するのはどうでしょう?」ってやつ? いやないないない、さすがにそんなこと起こるわけ、
「話が早くて助かります。そうです、お詫びとして異世界に転生するのはどうでしょうか?」
「……」
「? どうしました?」
「……や、」
「や?」
「やっっっったたあぁーーーーーー!!!」
異世界って本当にあるんだ! それに転生ってできるんだ! よし、異世界の人生、思いっ切り楽しもう! ラノベのタイトルにするなら『陽キャオタクJKの異世界転生物語』だ!
「盛り上がってるところ悪いですが、まだ話はありますよ」
「?」
「こちら、異世界転生マニュアルです」
そう言って天使様は手に光を集め、それがラノベくらいの大きさの本になった。これが魔法か、すげえ。
「大体の事はこちらに書いてあるので読んでください」
マニュアルを渡されたので、その場で座り込んで読むことにした。
【異世界転生マニュアル】
【このマニュアルは転生後も持ち込めます。ただし、転生者以外にはこのマニュアルは見えません】
【転生者は記憶を保持し、姿や能力はそのままでの転生となります。ただし服装は異世界での普通の服装になります】
【異世界での言語は、転生者の出身地の言語に脳内で自動的に翻訳されます】
【転生者は※転生特典を三つもらえます】
【※転生特典とは、天使からもらえる加護である。 例「転生後の聖剣の所持」、「魔法の才能の開花」など】
【転生後、補填として一〇万キルス。日本円で一〇万円が支給されます】
他にも異世界のルールとか魔法の仕組みとか書かれていたけど、全部読んだら相当時間がかかるし、転生後も持ち込めるのでとりあえずマニュアルを閉じて天使様に質問した。
「この転生特典ってなんで三つなんですか? 普通一つでしょう」
「それはほら、人間界で『願いを三つ叶えよう』ってあるじゃない? それよ」
もしかして天使様達って、人間界に結構いるんじゃ……。
まあそれはさておき、私は続けて質問する。
「こう言うのって普通女神様とかじゃないんですか?」
「確かにアニメとかではそうだけど、本当は天使の役目なの。豆知識でしょ?」
「へぇーー」
じゃあほとんどの異世界転生物のラノベは間違いなのか。……どうでもいいなこの豆知識。
質問はこのぐらいかな。……あ、これは純粋に興味だけど質問しとこう。
「ちなみになんで間違えて私を殺したんですか?」
「本当は、日鈴ちゃんの立っていた床の下にいる生物を殺す予定だったの。それで近くに日鈴ちゃんがいて、それで間違えちゃって、てへ☆」
天使様は右手をグーにして頭に持って行った。そしてウインクをして少し舌を出して、「てへ☆」っとやった。あ、この女神様はドジなんだな。
「ちなみに何を殺そうとしたんです?」
「あんまり口に出したくないけど、まあ簡単に言えば、G?」
え? つまり私が住んでいた家にはゴ○ブリがいたって事。____よし、聞かなかった事にしよう。
まあ質問はこのぐらいでしょ、後々疑問が出てもマニュアル読めばいいし。
「質問は以上です」
「はい、では転生特典を言ってください。何でもいいですよ」
「じゃあ、まず」
私はオタクとしてこうゆう時が来たときなのを願うのか、あらかじめ決めていた。って言っても4つあるんだけどね、どうしようかな。
とりあえずまずはこれにしよう。
「スマホをあっちでも使えるようにしてください。あと現実の世界の情報もどこでも見れるようにできますか?」
「いいですよ、充電は太陽光でできるようにしときますね」
「ありがとうございます」
まずはこれでしょ。あっち(異世界)でもスマホを使えたら、まず暇つぶしでネットサーフィンができる。それに明日発売のラノベが電子書籍で読める。だから私は一つ目にスマホを選んだ。
じゃあ2つ目は妥当に、これにしよう。
「私に魔法の才能をください」
「はい、いいですよ。それにしても、いきなり王道ですね」
「まあ私にとって魔法は憧れですし」
「そうですか、では三つ目は?」
うーーん、残ったのはこの二つ、どっちにしよう。
……よし、こっちにしよう。
「お兄を一緒に連れていっていいですか?」
「お兄って、翔流って子? 日鈴ちゃんってお兄さんが大好きなのね」
「まあ、お兄はほっとけないっていうか、何というか。お兄過去にちょっと色々ありまして」
「そう……とりあえずお兄さんを一緒に転生させればいいの?」
「はい、そうです」
「分かったは、おまけとしてお兄さんにもスマホを持たせるはね」
「ありがとうございます」
私はお辞儀をして、天使様に感謝を伝える。
「全然いいのよ、元はと言えば私のミスですし」
「いえいえ」
「それじゃあ、転生する準備はいい?」
「はい」
「それじゃあ」
天使様は一拍おいて、右手を私にかざしてた。
そして次の瞬間、私の足下に光り輝く魔方陣が出現し、私は宙に浮いた。
「いってらっしゃい」
天使様がそう言った次の瞬間、私は光に包まれた。
◇
「回想おしまい!」
「日鈴」
「なっなに、お兄。も、もしかして怒ってる?」
俺は日鈴の肩をガシっとつかんだ。日鈴は少しおびえた様子で俺の顔を伺っていた。
そして次の瞬間、俺はこう言った。
「まじありがとう、本当にありがとうございます。日鈴、いえ、日鈴様!」
「だろ!(キラーン☆)」
日鈴が親指を立てて胸元に持って行き、そして歯を輝かせた。一瞬キラーン☆っと効果音が聞こえた気がするが、おそらく気のせいだろう。
どうせなら俺にも魔法の才能が欲しかったが、そこは目をつむろう。とはいえせっかく異世界に来たんだ、俺はこの異世界生活を満喫しようと思う。
「とりあえず目の前の町に向かうか」
「そうしよっか」
俺は日鈴の肩を掴んでいた手を放し、日鈴を解放した。
とりあえず俺達は、目の前の町に向けて歩き出した。
ラノベで大体の主人公が異世界転生したときに一番最初にすること、それはギルドに登録することだ。
町に向かって歩いてるときに、日鈴とこれからの方針についてある程度話し合った。
その話し合いでまず一番最初にすることを決めた。それがギルドの登録だ。
ラノベの知識が正しければ、ギルドに登録することでクエストを受けられるし、そのクエストでお金が稼げる。よって初めにギルドに登録することにした。
そして今は、ギルドと思わしき建物の前にいる。
「ここであってるのか?」
「多分、だって看板に“冒険者ギルド”って書いてるじゃん」
確かに看板には”冒険者ギルド”っと書いている。どうやら脳内で日本語に翻訳してくれてるらしい。
「ギルドの登録に年齢制限とかはないのか?」
「マニュアルには年齢制限無しって書いてあるよ」
転生したのは良いが、なぜか俺はマニュアルを持っていなかった。うん、なんでだろう。
とりあえずギルドの登録に年齢制限はないらしい。
それより、
「なあ、俺達なんで高校の制服なんだ」
「さあ、天使様のおまけか何かじゃない?」
そう、なぜか俺達の服装は明日、いや多分今日に入学する予定だった高校の制服だった。
このせいで周りから変な服装っと思われて視線が痛い。
俺の着ている制服はいたってシンプル。白いシャツの上に黒に少し白色の線が入ったジャケットを着ていて、青と白の縞模様が特徴のネクタイを着けている。ズボンは黒一色のシンプルなデザインだ。
そして妹の日鈴は上半身は俺の制服とほとんど一緒で、ネクタイの部分が青と白の縞模様が特徴のリボンを付けており、下は青と白が特徴のスカートをはいており、そこそこ短いが中身が見える事はないらしい(日鈴情報)。そして黒色のソックスをはいており、どこにでもいる普通の女子高生みたいだった。
「とりあえずギルドの中に行こ」
「そうだな」
まあ服装は後々服屋で買えばいっか。
このギルドは町の中心部にあり、ここに付くまでに色々なお店やら家やらを見た。もうまさに異世界って感じがした。建物は全てレンガで作られており、店は野菜やら果物はもちろん、武器がたくさん置いてあった鍛冶屋や、異世界らしい服が置いてあった服屋など、異世界らしい店や建物がたくさんあった。
それらを見たときには(まじで異世界じゃん)っと思った。きっと日鈴もそう思っただろう。
転生特典で俺を選んでくれてありがとう日鈴!
ギルドの中に入ると、筋肉が露出していて斧を持った人がいたり、杖を持っていてローブを着ている人だったりと、まさに異世界って感じの人達がたくさんいた。おそらく冒険者だろう。
そしてギルドの内装は、ドアから手前側にテーブルが置かれており、そこで飯を食べている人達や、こんな真っ昼間からお酒を飲んでる人がいた。
そして奥にはカウンターがあり、その上にギルド受付っと書かれてある。
「マニュアルによるとあそこでギルドに登録ができるらしい」
日鈴がそう言うと奥のカウンターに視線を移した。
「だよな、だってギルド受付って書いてあるし」
「とりあえず行こっか」
「だな」
日鈴はマニュアルを制服のポケットにしまい、カウンターに向かう。マニュアルはラノベとほぼ同じサイズなので、制服のポケットにぴったり収まる。
そんなことより、
(周りの視線が痛すぎる)
周りの視線が凄く痛かった。あっちからすれば(なんか知らん服装の子がいる)ってなるから当然だろうけど。日鈴すげえな、そんなの無視して普通にいられんのマジですげえな。
(うん、とりあえずカウンターに行こう)
俺は少し身をかがめてカウンターに向かった。
カウンターに行くとそこには黒髪ショートカットの美人なお姉さんがいた。多分受付嬢の人だろう。
日鈴はその受付嬢の人に声を掛けた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、本日はどのようなご用件で?」
「ギルドに登録したいんですけど」
「はい、そちらの方もご一緒に登録をされますか?」
そちらの方とは、おそらく俺の事を指してるのだろう。
日鈴はその質問に「はい」っと答えた。
「ではこちらに記入事項をお書きください」
そう言って受付嬢の人は書類を二枚出し、ペンと一緒に俺達の前に置いてくれた。
書類に名前やら年齢やらを記入し、俺達2人は受付嬢の人に渡した。
「井尾 翔流さんと、井尾 日鈴さんで間違いないですね」
「あ、はい」
「では、こちらにサインを」
俺達は差し出された書類にペンでサインを書いた。
「はい、では」
受付嬢の人は棚からカードらしき物を二枚取り出して、自分達の前に置いた。
「こちらに手をかざしてください」
(ちょっとまって、これってあれ? 冒険者カードってやつ?)
そう思いながら俺はその冒険者カード(?)に手をかざした。
手をかざすとカードは光り輝き、空欄だった場所にこう書かれていった。
【ステータス】
【筋力 32】
【速度 47】
【防御力 32】
【魔力 38】
【幸運 50】
うーん、平均は分からないけどなんとなく低いのは分かった。
日鈴の方を見ると、カードにはこのように書かれてあった。
【ステータス】
【筋力 53】
【速度 76】
【防御力 65】
【魔力 3141】
【幸運 50】
(円周率かよ)
そう思ったが、あえて口にはしなかった。
日鈴は小学校、中学校でバスケをやっていた。なので魔力以外のステータスはこのくらいだろう。
受付嬢の人は、俺のステータスを見ると「ま、まあ、頑張ってください」っと言ってくれた。うん、低いんだねこの数値。
そしてそのまま受付嬢の人は日鈴のステータスに目を移す。そして魔力に目をやると、受付嬢の人はフリーズした。
「 」
「フリーズしちゃった」
「『しちゃった』っじゃねえよ、多分これ戻ってきたら」
「さ、ささささ、さんぜんひゃっひゃく、よんじゅういちいぃぃーーーーーー!!!!!」
受付嬢の人の声に周りの人達がこっちに視線を向けてくる。うん、こうなると思ったよ。
「し、失礼しました」
「ああ、全然。大丈夫です」
「とっとりあえず、ステータスについて説明しますね」
受付嬢の人によると、このステータスには上限は今のところないらしい。今のところというのは、まだ上限に達した事のある人がいないからとゆうことらしい。
それで幸運以外のステータスの上げ方はモンスターを倒したら経験値を獲得できて、それでレベルが上がるとステータスも上がるらしい。レベルはこの冒険者カードのところに書いてあって、レベル1と書いてあった。この辺はド○クエとかのRPGのゲームと一緒である。
そして幸運の上げる方法は、魔法などの一時的な上げ方しかないらしい。そして幸運のステータスの平均は50だそうだ。よかった、平均だ。っと思ったのもつかの間、レベル1でのステータスの平均。つまり初期のステータスの平均が、全て50だそうだ。
俺、幸運以外のステータス全部平均以下じゃねえか!!
「以上がステータスについての説明になります。質問はありますか?」
「特にないです」
「そうですか。では、クエストについての説明をしますね」
それからクエストについての説明やらなんやらの説明を受けた。
「説明は以上になります。質問はありますか?」
「特にないです」
「ではこれから冒険者として頑張ってください! 私はこのギルドの受付嬢のマリナと言います。気軽にマリナと呼んでください」
「じゃあマリナさんで」
「はい、分からない事がありましたらいつでも読んでくださいね」
「はい、ありがとうございました」
日鈴はそう言うと、このギルドから出るためにドアに向かう。俺もそれについて行く。
受付嬢の人、改めてマリナさんと会話や質問をしていたのはほとんど日鈴だった。いやほとんどじゃなくて全部だな。俺、一言も喋ってない。え? 兄としてそれでいいのかって? コミュ障の俺に初対面のあんな美人さんと喋るのは無理があるって。
ギルドから出ると、俺達はあるお店に向かった。
その店に向かってる途中、俺と日鈴は痛い視線を向けられた。てゆうかずっと向けられている。
その原因は、俺達の服装である。
俺達の制服は制服である。現実の世界では違和感は全くないが、異世界では違和感がありすぎる。
なので俺達はあるお店、服屋に向かっている。
それともう一つ理由がある。それは単純に異世界の服を着てみたかったのだ。魔法使いのローブとかマントとかオタクとして一回着てみたかった。コ○ケに一回だけラノベの中の異世界転生した主人公のコスプレをしたことがあるが、まじで楽しかった。初めは妹に無理矢理着せられてイヤイヤでやったけど、なぜか楽しかった。この話はまたいつか。
とりあえずそんなことがあったためもう一回着てみたかったのだ。しかも異世界だからずっと着られるし。異世界最高!!
とまあそんなしょうもない事を考えてるうちに服屋についた。
中に入ると、魔法使いのローブや冒険者がよく付けてる胸当てがあった。
「「おぉぉーーー!!!」」
ついそんな声が日鈴とそろって出た。
日鈴は「試着いいですか?」っとレジにいる店員さんに聞いて「ああ、いいぜ」っと店員さんに了承を貰うと、何枚か服を持って行き試着室に入った。
多分日鈴のファッションショーが始まると思ったので、俺はその周辺で待機していた。
店員さんに目をやると、店員さんは凄く体格がデカく、筋肉が露出している服装だった。普通こういう人って鍛冶屋の人とかじゃないの? それか斧使いの冒険者じゃないの?
そういえばさっき日鈴が「試着いいですか?」って聞いたときも返事が「ああ、いいぜ」っと図太い声だったな。おそらくこの筋肉マッチョな店員の声だろう。
よし、この人はマッチョ店員と名付けよう。_____何考えてんだ、俺。
「じゃじゃーーん!! どう、お兄」
アホなことを考えてるうちに日鈴が着替えるのが終わり、日鈴は試着室のカーテンを勢いよく開けた。
日鈴が着替えた服は……メイド服だった。
「どう?」
「『どう?』じゃねえよ!! なんでメイド服なんだ!!」
「え? 異世界といったらメイドでしょ?」
「……確かにそうだけどさ」(そんな事はない)
「じゃあいいでしょ、じゃあ次ね」
日鈴はカーテンを閉じ、違う服に着替え始める。
こういうのって俺が感想言ってから次の服装に着替えるイベントじゃないの?
ちょっとまて、あのマッチョ店員が店長だったりしたら、さっきのメイド服ってあのマッチョ店員が用意したってことに____よし、これ以上は考えないようにしよう。
それから日鈴のファッションショーが始まった。
メイド服の次は黒猫の服装だった。
お腹と肩が露出しており、危ない部分は黒のもこもこした生地で隠すようになっている。そして頭には猫耳を付け、両手には猫の手を付けていた。めちゃくちゃ可愛い。さすが俺の妹だ。
続いて日鈴が着替えたのは黒いローブに黒い三角帽子を頭にかぶせた魔法使いの服だった。ここに来てまともな服装がきたが、日鈴は右手で左目をかくしてこう言った。
「我が名は日鈴!」
そして左手を目からはなし、左手でローブをたなびかせる。
「井尾 翔流の妹にして、ブラコンであるもの」
「……この厨二病」
「ひどい!!」
それから日鈴はいろんな服装に着替えていった。
剣士や僧侶のまともな服装もあったが、それよりも水着やバニーガールといった明らかにおかしい服装もあった。なぜ服屋にこんな服装があるのだろうか。
「じゃーん!」
もう何度目か分からないが、日鈴はカーテンを勢いよく開ける。
「どう? ヒロインっぽいでしょ?」
俺は日鈴の姿を見たとき、思わず「おぉ」っと声に出していた。
そう、日鈴の言うとおり、まさにヒロインの服装だった。
白を基調とし、青が少し刺繍されたワンピースの上に同じようなデザインのローブを着ていた。
(俺に語彙力があればもっと説明できるのに)
もうそのくらいだった。語彙力が足りなくなるほど似合っていた。まさにヒロインの服装だった。
「ヒロインじゃねえか」
「でしょ?」
その後、日鈴はこのヒロインみたいな服装に決めたらしいので、日鈴はそのままレジに行き、マッチョ店員に「この服ください」と言った。マッチョ店員は「お、嬢ちゃんその服似合ってるじゃねえか」っと言った。
「その服、俺の自信作なんだぜ」
「そうなんですか。ちなみに値段はいくらしますか?」
「値段? ああ、お嬢ちゃんに免じて無料にしてやる」
「本当ですか? ありがとうございます」
あの服結構高そうだったけどいいのか? まあ俺には関係ないか。……うん? あの服を作ったのがあのマッチョ店員なんだろ。それで他に店員がいなさそうだから、ここの店の服は全部あのマッチョ店員が作ったって事になる。つまりあのメイド服やらバニーガールやらを作ったのは____よし、考えないようにしよう。ていうかさっきもそう決めたのに、なに俺は考えてんだ。アホか俺は。
「後このメイド服とこの水着ください」
「ちょっとまて」
「? どうしたのお兄」
「お前そのメイド服買ってどうすんだ?」
「え? そりゃあ」
俺はメイド服を買ってどうするのか、念のため聞いた。水着は百歩譲って分かる。もしかしたらいつか海に行くかもしれないからな。でもメイド服は分からなかった。日鈴が着る? いやそれはない。なぜなら日鈴は今も着ているヒロインの服装が気に入ってるからだ。これ以外の服はしばらく着ないだろう。
ならなぜメイド服を買うのか、その疑問が残った。異世界に転生してまだ間もないので、できるだけお金は使いたくない。
まあ絶対にいらない物なので、日鈴がなんて言おうと俺は『買わない』を突き通そう。
「これから仲間になる子のためのメイド服」
前言撤回、買おう。
例えば盗賊に売り飛ばされた女の子を助けて仲間にしてメイド服着せるやつ。日鈴はそれをするためにメイド服を買おうとしているのだ。さっすが俺の妹! 天才!
「ならいいぞ」
「じゃあお会計で!」
「さすがにこれは金取るぞ?」
「分かってますよ」
「一万七千キルスだ」
日鈴は脱いだ制服のジャケットの内ポケットからお札を二枚取り出し、マッチョ店員に渡した。日本でおそらく一万円札になる物だろう。
「お釣りの三千キルスだ」
マッチョ店員はさっき日鈴が渡したお札とはデザインが違うものを渡した。日本でおそらく千円札に該当する物だろう。
「おい坊主」
俺はマッチョ店員に呼ばれた。え? 心の中でマッチョ店員って呼んでることバレた? っと思ったが、全然違った。
「お兄って事はお前嬢ちゃんの兄だろ? 良い妹を持ったな!」
「あはは、ありがとうございます」
俺は苦笑いしつつ感謝を述べる。
「坊主、それに嬢ちゃん。名前は?」
「日鈴って言います!」
「翔流って言います」
「そうか、俺の事は……まあマッチョ店員と呼んでくれ」
(自分で名乗るんかい!)
心の中で呼んでいた名前が現実で呼んでくれっと言われたので、笑いそうになったがそこはこらえた。
その後、俺の服装選びになったが、鎧など一切ない普通の冒険者の服装となった。妹いわく、「お兄に主人公っぽい服装はもったいない」だそうだ。ひどくない?
店を出ると、もう日が暮れていた。
なぜこんな時間なのかは明白だった。なぜなら初めにこの町の門をくぐってからギルドに付くまでに、体感六時間はかかっていた。理由は異世界の町に興奮していろんなお店を見ながらギルドに向かったからである。
それからギルドの登録やらなんやかんやあり、気が付けばこんな時間になっていた。
こんな時間なため、この後に予定していた武器探しは明日にして、俺達は宿屋を探した。
宿屋は案外すぐに見つかった。
スマホで時間を確認すると、スマホには六時半と書かれてあった。
宿屋の外装は至ってシンプルで、レンガで作られた建物で、少し苔が壁に張り付いていた。
「まじで異世界の宿屋じゃねえか」
まさに異世界の宿屋だった。
主人公は初めにこういう宿屋を拠点にして、しばらくしてから自分の家を建てる。まさにその初めに拠点にする宿屋じゃねえか。
「アホな事考えてないで早く入ろうよ」
「思考を読むな」
「妹ですから」
「説明になってないぞ」
もし妹だから兄の思考が読めたら、全世界の兄が困るんだが。
それはさておき、俺達は宿屋の中に入った。
中に入ると前にはカウンターがあり、そこには金髪ロングの十歳くらいの女の子がいた。
「いらっしゃいm」
「ねえ君、名前なんて言うの?」
「え、ええっと」
日鈴が女の子を見るなりすぐにそばにより、しゃがみ込んで女の子の手を掴んだ。女子って可愛いの好きだよな。
「え、エリスです」
「エリスちゃんか、髪の毛サラサラで綺麗だね。しかも金髪だし」
「そ、そうですか」
エリスちゃんが青色の瞳でこっちに「助けて」と視線を送ってくる。可愛い。仕方ない、ここは兄として注意しよう。
「日鈴、エリスちゃんが困ってるだろ」
俺はしゃがみ込んでる日鈴を引っ張り上げた。すると日鈴は「ぐへぇ」とアニメでよくある声を出していた。
「ごめんね、エリスちゃん。うちの日鈴が迷惑掛けたね」
「い、いえ。全然」
「このロリコン」
「うっ!」
翔流は100のダメージを受けた。
「ごめんね、エリスちゃん。ちょっと取り乱しちゃった」
「え、ええ。全然大丈夫ですよ」
「ま、まあ。俺達、最近こっちに来たばっかなんだ。今から空いてる部屋ある?」
「はい、あるにはあるんですが。一部屋しかなくて」
「「なんだ、そのくらい全然いいよ」」
俺達は迷いもせずにそう言った。
エリスちゃんは「え? いいんですか?」と言っているが、俺達にはちょっと分からない。別に部屋一緒でもベット分かれてたら何の問題もないでしょ。
「一様、ベットは二個ですから」
エリスちゃんは頬を赤らめながら遠慮がちにそう言った。ああ、これ俺達が普通の男女だって勘違いしてるのか。
勘違いを直そうと俺が言おうとする前に、日鈴は口を開いていた。
「エリスちゃん、私ら普通の兄妹だよ?」
「え、そうだったんですか」
「うん、そうだよ。それでさぁ~~、エリスちゃんは何を想像していたのかなぁ~~」
「え、ええっと」
エリスちゃんは頬を赤らめた。
「ひょっとしてぇ、エリスちゃんってエッな子なのかな~~」
「うっ、うう」
「何言ってんだよ!!」
俺は日鈴の頭を思いっ切り殴った。
その後、「ご飯の準備があるので先にお風呂に入ってください」とエリスちゃんに言われたので、お風呂に入った。
そして風呂を上がると、寝間着の代わりの制服に着替えて食道に向かうと夕食が出来ていた。ちなみにメニューはよく分からない名前の動物の肉のハンバーグと、パンとトマトスープだった。
朝飯と昼飯を食べてなかったので、俺達は一瞬で夕食を平らげた。
そしてエリスちゃんに部屋を案内してもらい、俺達は部屋のベットにダイブした。
「「疲れた~~」」
今日は色々あった。まずは夢にまで見なかった異世界転生をして、それから異世界の町並みを見てからギルドに登録。そして服屋で服を買って、宿について、今に至る。色々ありすぎてもう疲れた。
(でも、転生して良かった)
ほんとにもう、転生して良かったと思う。天使様、日鈴を間違えて殺してくれてありがとうございます。
異世界に転生したからこれから色々できるな。例えば魔法とか……魔法? そうだ魔法!!
「日鈴、魔法!!」
「……そうじゃん魔法!!」
日鈴はいきよい良く飛び上がり、マニュアルを取り出す。
「えっと、魔法魔法」
日鈴がマニュアルのページをペラペラめくっていく。
「あった」
俺は日鈴のベットに移動し、その魔法について書かれてあるページをのぞき見する。
【魔法について】
【異世界には呪文がありますが、それは意味がありません。理由は至ってシンプルです】
【魔法とは体内の魔力を使い、その使った生物がイメージしたとおりに、その魔力はイメージを現実にしようとします】
【例えれば、Aさんが火を出すイメージをすると、魔力はそれを現実にして火を出すのです。これが魔法です】
【そして呪文はそのイメージがしやすいように存在するのです】
呪文についてはこれで終わりだった。
そして俺は思った。
「分からん」