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目覚めたら盗賊団が全滅していました、なんで?

《ゴブリン山賊団視点》


(胸糞悪い依頼だ)


 ゴブリン山賊団のリーダー・アベルは、内心で吐き捨てた。


 四天王・カリンを捕らえよ(生死不問)という依頼――それは、ガルガンティア宰相の指示によるものだ。彼は、裏では山賊団やマフィアなどと手を組み、汚い手段で権力を手にしていた。



 今回、ガルガンティアが命を奪うよう命じた標的は、なんと凶暴なことで有名な四天王・カリンであった。

 最年少の四天王であり、反対した者は皆殺しにして己の地位を確保したという噂もある。そんなカリンには、皆殺しの天使――などという物騒な二つ名が付けられていた。



(そんな噂は、嘘八百。その正体は、最弱クラスのモンスター……、か)

(にわかには、信じがたいな)


 アベルは、依頼の内容を思い返していた。

 ガルガンティアが言うには、ターゲットのカリンは、四天王とは名ばかりの何の力もないスライム(今は、愛らしい少女の装いをしている)らしい。この事は、今は秘密になっているが――そのうち大々的に公開する予定だと聞いている。


 ガルガンティアは、国を騙していた大罪人を追放したとして、英雄に成り上がるつもりなのだ。その情報の真偽は置いておき――、



「邪魔になったから追放だと?」

「どうしたんです、兄貴」

「なに、つまらん依頼だと思ってな――面倒事を避けるために暗殺にまで手を染めるか。この国は、やっぱり腐ってやがる」


(だとしても、引き受けるしか無いけどな)


 自嘲気味に内心で呟く。

 裏社会で、ガルガンティアに睨まれれば活動していくことは不可能。

 これは、依頼という名の命令なのだ。



 俺たち山賊団は、今日を生きるだけで精一杯。

 とても、依頼を選り好みしている余裕はないのだ。

 スラム街に生まれた俺たちは、決して、真っ当な手段で生きていくことは出来ないのだから。


***


 指定された場所で待っていると、ターゲットを乗せた馬車がやってきた。


 現れたのは、小さな少女とメイドの主従コンビだった。……ターゲットの他に、メイドまで乗っていたのは想定外だったが、計画に支障はない。


 メイドの方は、かなりの手練れだったが、戦っている隙に、ターゲットの方を殺すことは十分にできるはずだった。

 ――はずだった。



「ど、どうなってやがる!?」


 異変は、カリンという少女が、すっ転んだ直後だった。

 彼女はストンと表情の抜け落ちた顔で、自分を取り囲む山賊団の面々を睥睨すると――



「よほど死にたいらしいな」


 ぞっとするほど冷たい声で、そうささやいたのだ。



(なんだ、なんなんだ!?)

(この威圧感は、いったいなんなんだ!?)


 山賊団の頭として、俺だって幾度となく死線をくぐり抜けてきた。

 しかし、これほどまでの威圧感にさらされたことはない。


 生存本能が、警鐘を鳴らす。

 ……さっきまでとは、纏っている魔力の質が違うのだ。


「ひ、怯むな――かかれっ!」

「おぉおおおおお!」


 今さら、無かったことには出来ない。

 ゴブリン山賊団の面々は、己を鼓舞するような咆哮とともに少女に襲いかかり――それは致命的な失敗だった。



「他愛ない」


 少女は、舞うように魔力で生み出した太刀を一閃。

 不可視の一撃を喰らい、山賊団の仲間たちがバタバタと倒れていく。


 圧倒的な戦力差による蹂躙。

 その美しい武器さばきは、どこかカミーユと呼ばれたメイドの少女と似ていた。

 演舞でも見ているかのような美しい。思わず見惚れそうになるが――戦場でその隙は致命的なものとなった。



「なっ、消えたっ!?」

「どこを見ておる」


 気がつけば後ろから、少女の声が聞こえてきて――次の瞬間、襲ってくるのは、体が深々と斬り裂かれる不快な感覚。



(ああ、くそっ)

(やっぱり、ろくでもない依頼だったな……)


 俺が、ここで死んだら。

 お腹をすかせている家族は。妹は――。

 だがもう、すべては手遅れだ。


「くっ、何が四天王最弱だ――」


 皆殺しの天使。

 ――俺は意識を失いながら、少女の二つ名を反芻していた。





《カリン視点》


 ――それからのことは覚えていない

 意識を取り戻すと……、そこは血溜まりだった。


(はあっ!?)

(わけが分からないぞ!?!?)



 まさしく死屍累々といった様相だ。

 私を襲っていたゴブリンたちが、地に伏している。

 一応、ピクピクしているから、死者は居ないとは思う。それでも、ここで何者かが暴れまわったことは明確だった。



(まさか……、また、アレが起きたのか!?)

 

 恐怖で意識を飛ばすと、時たま起きる怪奇現象だ。

 魔王城にいた時も、四天王同士で決闘になって、この怪奇現象に見舞われたことがある。 きっと、対戦相手が神の祟りにでも触れたのだろう――そうとしか考えられない。


「お見事です、カリン様!」

 考え込んでいると、カミーユの白々しい声が響きわたった。カミーユは、この怪奇現象は私が引き起こしたと言い張るのだ。


(はっ!? まさか、私が秘められた力が覚醒したのか!?)

(恐怖により意識を失ったことで、四天王としての秘められた力が覚醒したんだな!)


 ……などとは思わない。

 私は、四天王最弱のスライムだぞ。そのような、物語の主人公のような秘められた力があるはずもない。


 きっと、今回の件はカミーユが解決してくれたのだろう。恐怖で意識を失った私とは、えらい違いである。

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