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49/50

49 女王の花

 ◇◇◇


「そうと決まれば引っ越しだね!そうそう、今使ってるシリウス伯爵家の屋敷もちゃんとロイスの名義に書き換えておいたから心配はいらないよ。とりあえず最低限必要なものだけ持ってくるといい。必要なものがあればこちらで揃えるから」


「えっ、ちょっ、まっ……」


「さあ~忙しくなるぞお~!」


 そう言って意気揚々とロイスを引っ張っていく父。うん、私が嫁に行くと寂しいだろうから可愛い息子ができて良かった。ロイス、父を頼むぞ!若干うっとうしいけど愛情深いおっさんだからなんとかなるだろう。ぜひ仲良くしてやってくれ。だが仮にも王太子殿下を娘と一緒に放置するのはどうなんだろう。


「ごめんねジーク。お父様ったらよっぽど息子が欲しかったのかしら。私たちのことほったらかしで行っちゃったわね」


 全く父にも困ったものだ。と思っていると、


「いや、ガイル殿なりに気を利かせてくれたんだよ。少し二人で話せるかな?」


 いつになく真剣な顔で見つめてくるジーク。はっ!そういえば夢のように美しい花園で二人きり。これは絶好のシチュエーションなのではっ!ようやくジークとイチャイチャできるチャンスっ!?


「王太子殿下のお誘いでは断れませんね。喜んでっ」


 若干食い気味に返事をしつつ、内心ウキウキしながらジークの手を取る。私たちは花園の中心にある小さな石造りのベンチに並んで腰かけた。


 暖かな光に照らされたその場所はポカポカと心地よく、時折風に揺れる花々からは時々甘い香りが広がる。なんてロマンチック!さぁ、どうしてくれようか……と思ったところでジークがぽつりと呟いた。


「ここは本当に夢のような場所だね。この美しい花に人を狂わせる毒があるなんて、誰が思うだろうな……」


 ジークがそばに咲いていた花を1輪手に取ってみせる。ガラス細工を思わせるほど繊細な紫色の花びらを持つその花は、とても美しいがこれまでに見たことのない種類の花だ。


「ジーク、その花知ってるの?」


「これは『女王の花』と呼ばれている『奴隷の首輪』の原料になる花だ。シリウス伯爵家が生み出し、ラピス王家で最も多く使われてきた毒の花だよ」


「これが……」


 毒の知識はあったが、その毒の原材料である植物を見るのは初めてだ。あの恐ろしい毒の原材料がこんなに美しく可憐な花だとは思ってもみなかった。


「ジークも毒草に詳しいのね」


「ラピス王家に伝わる書物にも毒に関するものが多かったからね。王族は毒殺を防ぐために、ありとあらゆる毒の知識を学ぶ。香り、目や鼻、舌に感じる刺激、それぞれの毒を受けたときの体の症状などは恐ろしく正確な資料が残っている。おそらくシリウス一族から伝えられたものなんだろうな」


「そっか……」


(もともと王族の暗殺を防ぐために毒の研究を行ってたんだもんね。ジークが詳しくないわけないか)


「さっきのガイル殿の話を聞いて、ソフィアはどう思った?ショックを受けなかった?」


(ああ、心配してくれたんだ)


 ジークはとても優しいから、自分がしたことじゃなくてもご先祖様のしたことに罪悪感を覚えているのかもしれない。


「正直驚いたけれど、王族の歴史なんてどこの国でもそんなものかもしれないわね。今までずっと気楽な平民だと思っていたから、お父様が王族でお母様がシリウス伯爵家の出身っていうのが一番びっくりしたかも」


「そうだね。まさかソフィアがシリウス伯爵家の直系とは思わなかった。シリウス伯爵家にゆかりがあるんじゃないかとは思ってたけど」


「そうなの?」


「うん。実は子どものころに古い歴史書を見つけてね。代々王太子が使う離宮の隠し部屋で発見したんだ。ラピス王国創世の物語なんだけど、『長き戦いの果て、神々の花園で出会った天使と恋に落ちた王はその地に城を築き、天使を娶り妻とした』って一説があってね。その天使の描写が『稲穂のように黄金に波打つ金髪に若草のように瑞々しい翠の瞳』って書かれてたから、初めてソフィアに出会ったとき、本物の天使かと思ったよ」


 くすりと笑うジークに目を見張る。この国では金髪の女性は珍しくないが、私の瞳の色はあまり見たことがない。


「それって……ラピス王家の王は、シリウス一族の女性を愛してたから妻に迎えたってことなのかしら」


「案外本気で惚れて口説き落として妻にしたのかもしれないね……真実はわからないけど」


 そうだったらいいなと思う。ただ、最初は愛から生まれたものが歴史とともに略奪と搾取するための存在に変わっていったのだとしたら、それはそれで悲しい。



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