王都ルーテン
転生した森から30分程飛んだだろうか。
目的地とした城下町内の人気の無いところに降りる。
「おおお...空から青年が降ってきた...」
背後から弱々しい老人男性の声が聞こえた。
しまった。見られていたか。
消すか?いや、まずは
「驚かせてすみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが。」
情報収集を優先しよう。
振り返った先にはボロボロの布切れを纏った老人が立っていた。
この世界に風呂という概念があるのかわからないが、しばらく体も布切れも洗っていないのだろう。
離れていても少し匂う。体はガリガリにやせ細っていた。
「ラーメンという料理はご存じですか?」
まずはこの世界にラーメンが存在するかの確認だ。
「そんなことより、どうしてそr」
老人が困惑してそう発言しそうになったので、顎を鷲掴みにし
「おいおい、質問しているのはこちらだ。ちゃんと回答してもらえないと困る。YESかNOかだ。」
と睨め付けた。
「いいいいえ、存じ上げません」
老人はガタガタ震えながら答え、
「そもそも料理など儂が子供の頃に食べたスープとパンの記憶が朧げに残るぐらいで、今の世には存在しませぬ。」
と続けた。
では、食事はどうしているのだろうか。
「今から60年程前にヴァーゴ様がこの世を支配するようになってからは食材の採取及び料理は禁じられ、毎月配給されるこれが食事となりました。」
そう言って老人は懐からブロック状の栄養食らしきものを出した。賊が持っていたものと同じだった。
そこから老人は色々と現状を教えてくれた。
昔はここはルーテン王が納める国だったが、ヴァーゴの部下である魔竜天のフィズがやってきてルーテン王の首を刎ねた。そこからフィズは王城に居座りこの城下町を支配、管理しているのだという。
現在、人間は裏路地に追いやられ一日8時間程ただ石を積み上げる作業をさせられるのだが、最後に監督者である魔竜族がやってきて、積み上げた石を崩すというのを繰り返す毎日だそうだ。
「誰でも知っているこの様なことを知らず、空からやってきた貴方様は伝説にあるこの世界をお救いに来られた異世界の勇者様しょうか」
老人が縋るような眼でそう尋ねたが、俺は
「いや、違うな。ただラーメンを食べに来ただけだ。」
とだけ答えた。
しかし、許せない。今の俺は腸が煮えくり返っていた。
この世界には昔パンとスープが存在していた。つまりは小麦粉もしくはそれに類似するものが存在し、スープという概念が存在していた。
ラーメンが生まれる土壌があったはずなのだが、ヴァーゴがこの世界を支配するようになりその目は潰されてしまった。もし、ヴァーゴさえ存在しなければ、人々の食事の制限などしなければ、今この世にラーメンが生まれていてすぐに食べることができたのかもしれないのだ。
「死罪だ。」
俺がラーメンを食べることを邪魔することは万死に値する。ヴァーゴには生まれてきたことを後悔するような死を与えよう。
老人はヴァーゴの居場所までは知らなかった。
となれば
「まずはフィズとやらを捕獲し、道案内させるとしよう。」
俺は王城へ向かった。