小さな彼女は、言い訳の機会をぶっ壊す。 7
それから、とりあえず凛に話を聞いた結果―――
「つまり、おまえは寮生で…親戚の家に泊まるのを理由に外泊届けを出したら、その親戚があろうことかおまえを訪ねて学生寮に来てしまって…どこにいるんだ?と言うことになり、今しがた電話がかかっきて…バレたと…」
「はい…どうすればいいとおもう?!」
凛は、急に俺の膝にしがみついてくる。
「いや、ちょっと落ち着けっ! くっつくな、離れろ!」
「だ、だってどうするのよ?! あぁあ~…もう! 本当に…踏んだり蹴ったりだわ…っ!」
今度は両手を床につき、項垂れる凛を見て、俺は思う。
(いやまぁ俺もそれにガッツリ巻き込まれてるんですけどね…てか、こいつ行動力のわりに抜け作すぎんだろ…)
「てかさ、なんで親戚にしたんだよ、行き先…なんかこう、友達とかに頼むとか、なんかあっただろ! 誤魔化す手段とか!」
そう言うと、凛はその場に座り直し、罰が悪そうに頬をかいて言う。
「えっと…ははは、いろいろあって、私…友達いないのよねぇ…」
「…え?」
え?これ地雷ふんだ感じ?しかも爆発させづらい不発弾のヤツっ!…てか、マジかこいつ、確かにずれてはいるが、こんだけ行動力あって、友人が1人もいないって…あるのか? うわ、どうしよう…言葉が出てこねぇ…!
「えっと…」
「ああ、いいわよ…気使わなくて、逆に惨めになるし…さて…」
そう言うと、凛は立ち上がり鞄をひろう。そして、
「さすがにまずいから、とりあえず私、帰るわね」
「え? お…おう…てか、いいのかよ? 大丈夫なのか?」
心配する俺をよそに、凛は言う。
「まー、なんとかなるでしょ…」
「ホントに大丈夫か?」
「…大丈夫よ、それに、これ以上アンタに迷惑もかけられないわ」
凛は言うと、部屋のドアに手をかける。そして、
「今日は、本当にごめんなさい…私が余計な事言ったせいで…明日弁解するならちゃんと付き合うから、私のせいだし…じゃあね」
そう言って、部屋から出ていった。
▽▲▽
翌日、俺は学校に行く支度をしながら、凛は大丈夫だっただろうか?と考える。連絡先を交換しなかったので、今日、本人に直接聞くしかないのだが……。あと、千聖にも話さないとな…
(どう説明すりゃ、納得してもらえるかな?あー、めんどくせぇ事になったなぁ)
そんな事を考えたりしながら支度を済ませ、玄関を開ける。
「いってきまーす」
「おー、いってらー」
「いってらっしゃーい」
両親に見送られ、ガチャン…と扉を開くと、目の前には
「おはよー優馬」
いつも通り千聖がたっていた。
「お、おはよーございます…」
「ふふん♪」
にこやかな笑顔で挨拶をしてしているが、千聖は無言のまま昨日の出来事の説明を求めている。俺には分かる。幼馴染だから分かる。これは、怒っている時のそれである。
「えっと…学校行きながら話すわ…」
「うん♪」
(なんでそんなにこやかなんですかね? 怖いんですけど…いやほんと、怖いんですけど…近年希に見る笑顔なんですけど…)
そう言えば、凛が弁解を手伝うとか言ってたが…まぁ、いいだろう。ある意味俺の問題だし、早めに解決するにかぎる。だが、どう説明をしようか?凛との出会いについて、そして付き合うなんて話になった理由なのだが…そんな事を考えながら歩いていると、後ろから声が聞こえる。
「せんぱああああああああいっ!!」
「は?」
俺は振り替える
「どおおおおん!」
瞬間、腹部に衝撃が走る……!
「ぐおっ?!」
「あ、おはよう、ひよのちゃん、今日も元気だねー」
「おはようございます! 千聖先輩! 元気だけが取り柄ですからっ!!」
この、俺の腹部に両手を広げながらダイブして頭突きをかまし、何事もなかったかのように千聖と挨拶を交わしている女の子、彼女は 神崎 ひよの と言う。 145cmしかないドチビであり、細く茶色い前髪パッツンのボブカットは、天真爛漫な性格、低身長とあいまって、見た目からも完全にキッズである。
「か…神崎…、朝から人にダイビングヘッドかましたらダメだっていつも言ってるだろ…」
その言葉を聞いた神崎は俺の方を向くと、こっちへやってきて、ニコニコとしていた笑顔をスッと真顔にし瞳の光を消す、そして俺の耳元に顔を寄せると、小声でこう言うのだ。
「えー?…だって、世界の大天使である千聖先輩の近くにその美しい景観を汚すような糞ウザい蝿がうろちょろしてたら邪魔だから排除しなきゃじゃないですか?てか、幼馴染だからって調子にならないでくださいね、千聖先輩は、私の神なんで…」
(いやおまえ、今天使って言ったじゃん、神なの?天使なの?ってか、そんな事より…)
コイツは天真爛漫だと説明したが、訂正しよう。俺以外に天真爛漫な性格をしている。そして、何故か俺は千聖と幼馴染だと言う理由から目の敵にされているのだ。
「優馬?……ひよのちゃん?」
声をかけられ、神崎はクルっとまわり、千聖の方に向き直るともう笑顔に戻っていた。
「なんでもないですよーっ! さっ、行きましょ行きましょ♪」
と言って千聖と腕を組む。
「わわっ?! ひっぱったら危ないよ~」
「えへへー」
「ほら、優馬も行くよ!」
「お、おう」
結果的に神崎が来たことで、俺は結局千聖に説明が出来ないまま学校へと到着したのだった。
(はぁ~…あとでちゃんと言うか…でも、早めに誤解はとかないと…)
俺はそんな事考えながら、教室へと入るのだった。