彼女は、唐揚げの代金が払えない。3
「で、なんで私達は喫茶店にいるのかしら?」
「あ、俺アイスコーヒーで」
「かしこまりました」
注文を取り、店員が席をあとにする。あの時の問題発言のあと、さすがにいきなり女子を家に泊めたりはできないと思うのと、とりあえず詳しく話を聞きたいと思い、俺達は喫茶店へと入っていた。
「いや、当たり前だろ! てか、そもそもなんで急に泊まりとか言う話になってんだよ、意味わからなすぎるだろ。それに俺ら初対面なんだぞ?!」
「そんな事ないわ。少なくとも私はアンタを知っているし、それに、こんな可愛い子が家に泊まる機会なんて、そうないわよ?」
「いや、そこじゃねぇから。てか…え? 初対面じゃない?」
「いえ、初対面よ」
「はぁ? なんだそれ、おちょくってんのか?!」
「違うわ。私がアンタを知ってるだけよ」
「………ストーカー?」
「ハァアアッ!? なんで私がアンタなんかのストーカーしなきゃいけないわけっ!? ふざけるのは顔だけにしなさいよ!」
「おまっ! 誰の顔がふざけてんだっ!」
「その顔よ!」
「なんだと!?」
「なによ!」
俺とこのぶっ飛び系意味わからない少女の口論を見て、店員が「すみません、他のお客様のご迷惑に…」とやんわりと注意をしてくる。
「アンタのせいで怒られちゃったじゃない」
「はぁっ?! おまえが…」
俺が文句の一つでも言おうとすると、それを遮るようにぶっ飛び系女子は言う。
「まぁいいわ。それより、なんで私がアンタなんかの家にいきたいかなんだけど」
「…えらく上からだな…俺泊める側なんだけど?」
「はぁ~…アンタ、いちいち嫌味からはいらないと、会話もできないわけ?」
「あ?なんだと?」
「そんなんじゃモテないわよ」
「…ぐっ!」
そんな話をしていると、店員が注文したものをはこんでくる。
「失礼します、こちらアイスコーヒーと」
「あ、ありがとうございます」
「こちら、スーパーウルトラミラクルアルティメットアンノウン唐揚げでございます」
店員はそう言いながら、とてつもない量の唐揚げをドン!とどっかの少年漫画のバックに描かれそうな音と共に、ぶっ飛び系女子の前においた。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?ごゆっくりどうぞ」
と言うと、店員はさがっていく。
「なぁ…おまえマジでこれ食うの?」
「食べるけど? なんで?」
「いや…量…」
「あ! あげないからねっ! これは私のなんだからっ!」
「いや、いらねぇよ…見てるだけで胸焼けすんだけど…」
「そんなことないわよ!」
と言うとそいつは、嬉しそうにものすごい量の唐揚げを頬張り始めた。
「んふふ♪」
「ご機嫌だな」
「んぐんぐ…♪ おいひい~♪ んぐんぐ」
めちゃめちゃご満悦な表情をしておられる…そう言えば、こいつ名前何て言うんだ?
「なぁ」
「あ~…んっ! んぐんぐ♪ …んくっ! うっ! ゴホゴホッ」
「あーあ、ほら水」
「んくっんくっ!…くはっ! し、死ぬかと思ったわ…ありがとう…で、なによ?」
「いや、おまえの名前、聞いてなかったから」
「あぁ、私? 私は 黒瀧 凛 よ、アンタは九重でしょ? 九重 優馬」
「黒瀧…凛…え? あ、ああそうだけど…てか、マジで俺の事知ってんだな」
「だから言ったじゃない、ふぅ~…ごちそうさまでした!」
そう言いながら黒瀧は手を合わせる。そうして、ようやく本題である家に来る話を始める。
「で、なんで家に来るって話になんだよ」
「そ、それは…」
ん?なんだ?急にもじもじしだした。黒瀧は少しうつむき、顔を赤らめている。
「なんだ?どうした?」
「そ…その…それはねっ、わっ…私がっ…」
「あ?」
「くっ、黒崎くんの事が…すっ、好きだからよっ!」
「は?」
(え?ええええ…?黒崎モテすぎだろおおおおっ!なんなの?この世の中には、黒崎以外はもう♂はいないの?絶滅しちゃったの?いや、いるよ! ここにも、粗品だけどついているのがいるよ!!)
「ま、まさか、おまえまで黒崎とは…」
「な、なによ…! 悪いっ?!」
「いや、悪くはねぇけどさ…それと家来んのと、なんの関係があるんだよ」
そう聞くと、黒瀧は、
「だって、アンタ楢橋さんと黒崎くん、くっつけようとしてるでしょ…?」
「なっ! 何故それをっ!」
「やっぱり…!昨日、たまたまアンタ達が話してるのを聞いたのよ…! 私が…私の方が先に黒崎くんを好きになったんだからっ!」
「いや…先とか後とかは関係なくね…?」
俺のその一言にムッとした様子の黒瀧は
「だから、敵を知るためにアンタの家にいって観察しようと思ったのよ」
「ああ、俺と千聖が隣同士だからか?つか、そこまで調べてんのかよ…(こわっ!怖いよこの子!)でも、それは無理ありすぎるだろ、だいたい俺が断ったらどうするつもりなんだよ」
「……考えてなかったわ…」
「こいつバカだっ!」
「うるさいうるさい! 私だって必死なの! く、黒崎くんをとられちゃうんじゃないかって…必死なんだから…」
涙を目にため、そう訴える黒瀧を見て、俺は気づかされる。
――誰かに…とられるんじゃないかと思って…気づいたら…。
こいつは、諦めたくないんだ…自分の好きを、ちゃんと叶えたいんだ…。俺は…どうだ?
千聖が望むならって、自分の気持ちを1度もぶつけないままで逃げようとしていたんじゃないか…?このままでいいのか?
確かに、黒崎は良いヤツだ。イケメンだし優しいし、考えれば考えるほど、勝てる気がしない…!でも、それを理由に、自分の気持ちから逃げて良いのか?
――千聖の笑顔が頭をよぎる。
嫌われてしまうかもしれない…あまりにも自分中心に考えてしまっているかもしれない。
それでも、それでも、俺は……
「いいぜ、家に来いよ…」
「え? 本当に?」
「ああ、その代わり、俺の話も聞いてほしい」
「話?」
「そうだ、俺は…
――誰にも言った事のない気持ちを、初めて口にする
楢橋 千聖 が好きなんだ!」
「へ…?」
「だから、黒瀧! 俺にも協力してくれっ!」
「アンタ…好きな子の恋愛に協力してたってこと?」
「そうだけど…」
「ばかじゃないの…?」
「う、うるせえ!とにかく、そう言う事だから、頼む!」
俺の言葉を聞いた凛は、「…ふ」と浅納得したように笑うと、立ち上がり手を差し出す。
「黒瀧……」
そして、俺も立ち上がりその手を握った。
「凛でいいわ! お互いのために、がんばりましょ! 相棒!」
「ああ、俺も優馬でいい、よろしく頼むぜ、相棒!」
こうして、俺達は【お互いの恋愛を応援し隊】を結成したのだった。
「ところで、さっそく相談なんだけど、いいかしら?」
「なんだよ?」
「唐揚げのお金が、思ったより足りなかったのよ…」
「おまえ…」