楢崎 千聖は、彼の思いに気づかない。 2
――翌日の放課後。
「なぁ、黒崎、今日暇?」
俺が今声をかけたこいつ。こいつの名前は 黒崎 那由多 身長178cm 細身で甘いマスク、そしてそれを引き立てるマッシュの無造作ヘアと、俗に言うところのイケメンである。しかも、勉強スポーツもできて優しい。
「え? うーんまぁ暇かな、部活ないし」
「ちと、付き合ってくんね?」
「なに?買い物かなんか?」
「そんな感じ」
で、黒崎を誘って千聖とも合流し、買い物に来たは良いものの…
「……。」
「なぁ、優馬、何買うの?」
「えーっと…だな…」
(千聖、おまえはなんでずっと無言なの?人見知りするようなタイプじゃねぇだろ!いつもみたいに明るくすれば黒崎くらいワンパンだよワンパン!そんくらいの力おまえはもってるよ!)
「えっと…楢橋さん…?」
「ひゃ!ひゃい!」
(なんっだその反応!?こいつマジか?!……緊張してんのか…?)
「久しぶり…だよね?前は優馬と部活の応援来てくれた時に会った事あったよね?」
「あ…うん、覚えて…くれてたんだ…」
おうおう、顔を赤らめて乙女全開ですか。つか…やっぱり好きな子が好きな人といて、もじもじしてんの見るのって結構キツいなぁ…あー、この場にいたくねぇ……どうすっか…?と考えた結果、俺はおもむろにスマホを取り出す。そして、
「あー、はい、もしもし?うんうん」
なんて電話のフリをする。
「なに?電話?」
黒崎に言われ、ジェスチャーでゴメンなんてして、俺はその場を離れる。我ながらバカみたいな事をしていると言う自覚はある。だが、恋をする千聖を見るのがしんどかったのだ。
そして離れたところで適当に電話を終えたふりをして、この演技の途中から考えていた言葉を口にする。
「ごめん、親父にバイクのパーツもらってくるように言われたから、俺ちと行くわ」
「え?」
「ちょ、嘘でしょ? 優馬!」
「マジゴメン! 今度埋め合わせすっから!」
俺は振り返りダッシュしてその場を離れる。
――ダせぇ…
――超ダせぇ…
走りながら、そんな事を思う。しばらく走っているうちに、自分がどれだけ身勝手かを考えはじめる。
(ああ…千聖があんな緊張してんの久しぶりに見たのに…逃げちまった…っ!)
適当なとこで息を整え、やっぱり戻ろうか?と考える。「やっぱ大丈夫だったわ!」って言えば誤魔化せるか?
「いや、マジ無責任すぎだろ…俺…何が明日黒崎誘ってどっか行こうぜだよ…完全にビビっちまった…くそっ!」
一人あたふたする姿を道行く人に見られていることに気付き、急に恥ずかしくなる。
「…もどろ」
呟いて引き返し、さっきのところへ戻ってくる。が、近くに二人の姿はない。そこから少し歩くと、二人を見つける。
「そうそう! そうなの! だから優馬は私がいなくちゃ、ダメダメなんだよ!」
「ははは、そうなんだ! 楢橋さんって優しいんだね」
「そ、そんなこと…!」
(……なんだ、うまい事いってんじゃん)
そこには、さっきとはうってかわって、楽しそうにベンチに腰掛け、談笑する二人の姿があった。
「なら、俺はいらねっか…」
そのまま踵を返し、駅を目指す。途中、黒崎に千聖を家まで頼むとメッセージを送ると、『ok』とスタンプが返ってきた。
「なんだよ、うまいこといきそうじゃねぇか…」
「あ、あの…」
あー、やばい泣きそう。
「ダッせ…」
「ちょっと」
呟いて到着した電車に乗り込もうとしたその時だった。急に襟首を捕まれ、ひっぱられて乗車を阻止される…!
「ぐえっ」
「ちょっとアンタ!」
「げふっげふっ!…な、なんだっ?!…ゴホッ!」
「あ、あぁあ~…ご、ごめんなさい? まさかそんなにむせるなんて思わなくて…」
「はっ?ゲホッ!まじっ!死ぬかと思った!ゲホッ! ゲホッ!」
「ちょ、ちょっと…大袈裟なんじゃないの?」
「はぁ?!…」
俺は息を整えながら、半ばキレかけて振り返ると、その子は目を横に流して、何故か頬を少し赤らめ、黒く長い綺麗な髪をくるくると指に巻き、罰が悪そうにそこに立っていた…
(うちの制服…?)
「いや、てかおまえ誰だよ、なんで急に襟首つかまれなきゃなんねぇんだ!」
「う、うるさいわね! 何度も声かけてるのに、アンタが無視するからでしょっ!」
「はぁ?! いつ俺が無視したんだよ!」
「さっきよ!」
「さっきっていつですかー?何時何分地球が何回回った時ですかー?」
「は…はぁーっ?アンタばっかじゃないの?! 何よその子供みたいな言い方っ! だいたい、こんな可愛い子が声かけてんのに、止まらないとかありえないからっ!」
「はっ! 自分で自分を可愛いとか正気か?痛すぎんだろ」
「ぐ…!」
「なんだよ?」
「なによ!」
しばらく睨み合いが続く…そして、
「はぁ~…まぁいいわ…」
「あ?よくねぇから」
「いいから!ちょっと、あんたに話があるのよ」
そういう彼女を改めて見る。睫毛も長く、黒く綺麗な髪は少しゆるふわな髪型をしている。身長は150cm~155cmくらいだろうか?千聖よりも少し小さいかもしれない。総合的に見ても、確かに千聖に負けず劣らず可愛い…でもまぁ…
「千聖ほどじゃねぇな」
「なに?」
「うんにゃ、別に。で、話ってなんだよ」
俺のその言葉を聞いたその子は、待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、勝ち誇ったように、こう言う。
「ふふふ、今日、私を貴方の家に泊めなさいっ! 作戦会議をするわよっ!」
「……何言ってんだコイツ。マジかよ、誰かこのぶっとび系女子を早く病院につれていってやってくれ、頭がだいぶやられている」