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1.  ふたりの女王

まさか、本当に続編を描くハメになろうとは……。

このお話だけは、絶対に続編なんて書きたくは無かったのに、あちらからネタをしょって飛び込んでいらしたのです。超迷惑ッ!!

 春になると、我が家のベランダは賑やかになります。

 育てている植物たちが、いっせいに自己主張を始めますから。





 今年もプランターの苺が、白い可憐な花をつけ、そして実を付けました。

 花びらが落ちてしまうのは悲しいですが、残された額の中央部分が少しづつ膨らんでくるのを毎朝観察するのは、それはもう楽しいもの。やがて()()()()()形が形成され、赤く色付いてくるのです。人工授粉しているわけでも、特別な肥料を上げている訳でもないのですが、健気な苺は毎年赤い実を届けてくれるのです。


 そうは申しましても素人が栽培しているのですから、お店の店頭に並べられているような大粒にもなりませんし、味も人気品種のように甘みが強くて美味……なんてこともありません。

 大きくなってもせいぜい二~三センチ程度。しかも不揃いで不恰好。味の方は酸味と甘みがミックスされた、懐かしくもベリーらしい味なのです。

 でもウチのベランダ産の摘み立て苺をヨーグルトにトッピングして食べれるのは、この季節だけの楽しみであり、喜びでも!

 白いヨーグルトの上に、摘み立ての赤い完熟苺。そこに蜂蜜をトロッとかけて、見た目も美味しそうな朝食のお供の出来上がり。

 家族が出かけた後のひとりきりのテーブルで、忙しい朝のちょっとした贅沢なのです。



 それから鉢植えのばらたちもたくさんの蕾を付けました。それらが順番に花開いていくのを眺めるのも、大きな楽しみ。

 赤、白、黄、オレンジと色もさまざまですが、一重咲きから房咲きに高芯咲きそしてカップ咲きと、花のかたちも大きさもとりどりです。

 じっくりゆっくりと花開く秋咲きのばらも気高くて好きなのですが、華やかさはやはり春咲きのばらでしょうか。強い日の光を浴びて咲く花は輝いて見えます。


 春は命が華やいで見える季節なのです。




 そして。

 活動が活発化するのは、植物だけではありません。昆虫たちも動き出すのです。





 * * * *





 前作の「女王様とわたし ~とある攻防戦のゆくえ~」をお読みくだされた方は覚えておいででしょうか。

 わたし、六本脚の生物はダメなのです。見るだけなら良いのですよ。彼らの生体に感服させられることもあります。デザインに、素晴らしいと感銘しながら眺めることも出来ます。


 でも、触れません。


 どうも、あの六本の脚がウニャウニャと動くのが気持ち悪いのです。

 けれどあちら様から見れば、二本脚歩行する人間の方がよほど奇怪な生き物かもしれません。

 たまたま目の前を横切っただけで悲鳴を上げられ、挙句の果てには殺虫剤なる必殺兵器を振りかざし、情け容赦なく命を奪おうとしたりするのですから。


 まあ、なかには喜んで歓声を上げてくれる人間もいます。特に子供とか呼ばれる小型サイズの人間が。

 けれど、うっかりしていると捕獲され、狭い場所に閉じ込めらてしまうことだってあるのです。監禁され、のちに釈放されれば幸い。忘れられて衰弱死するケースも。

 最悪、薬づけにされ標本。遺体は人目にさらされることに……、とか。


 人間恐るべし……、と思っていても不思議ではありませんよね。



 その昆虫類の中でもハチ類は特に「アウト!」なのです、わたし。

 以前に刺されて、大変な目に遭ったことがありますからね。ハチとかアブとか、蚊に刺されても、痕は真っ赤に大きく腫れあがってしまいます。命に別状……まではいかなくとも、アレルギー反応が出てしまうらしいのですよ。

 先端が鋭利なものも苦手ですし。



 なのに、我が家のベランダにはハチがやって来るのです。

 昨年はベランダへの出入り口付近、しかも頭上二〇センチほどのニアミス必至の場所にアシナガバチの女王様が巣を作ろうとして、築城(営巣)と破壊(駆除)の攻防戦を繰り広げていたのでした。


 その一戦は辛くも勝利を掴みとったのですが、ハチは同じ場所に巣を作ろうとするという習性があります。そこはゲッソリするほどキッチリ学ばせていただきましたので、今年は暖かくなり始めたころから警戒態勢を敷き、周囲に注意を払い黒い小さな影を見逃すまいと心してきたのです。





 そして、案の定やって来ました。

 ゴールデンウィークのある陽射しの強い日に。物干しざおの横に、黒い影。

 羨ましいほどのスレンダーでナイスなボディに、長い脚。


 そう、アシナガバチの女王様でした。





 彼女は昨年の女王様と同じく、ベランダの屋根を支える梁の脇やら柱の影を物色しつつ飛び回っていました。乾いた洗濯物を取り込んでいたわたしは、しばらく静観をしていました。というか、相手を刺激しないように動かずにいるより他なかったというべきか。

 やがて彼女はあの場所に、そう、あの激戦の跡地へと留まります。

 ベランダへの出入り口の軒下。ハンガーのかかっている物干しざおのすぐ上部。超至近距離で、背伸びして手を伸ばせば届いてしまいそうな場所。


 ――かの因縁の地へと!!





 そこまで見届けたわたしは、観察を止め屋内に逃げ込みます。その慌て振りを見た主人。何事かと、録画しておいた大好きなドラマを中断して、こちらにやって来ました。


「ハチよ、ハチ。アシナガバチが来たの~」


 ベランダの、わたしが指差す先を見た主人も女王様のお姿を発見。


「あれか~」


 とつぶやき、すぐさま居間に取って返します。戻ってきた彼の手には、カウンターGブリ用の強力殺虫スプレーが。

 幸いにもすでに洗濯物は片付けて有りますので、主人は心おきなく女王様に向かって噴射攻撃を仕掛けます。


 女王様は、サッと身をひるがえしました。逃げた先に、第二射。間一髪、避ける女王様。さらに追いかけ、第三射。執拗に繰り返されるオニごっこ。

 なにせ主人、去年は痛恨のミスをやらかして、敵に再築城(同じ場所に営巣)を許してしまいましたから、今回は「させてなるか!」と並々ならぬ気合い。情け容赦なく、彼女に吹きかけます。



 しつこい攻撃に、彼女も辟易したのでしょう。軒下を抜け、優雅な軌道を描いて、飛び去って行きました。

 撃退に成功した主人は大喜び。けれども、勝って兜の緒を締めよというのでしょう。はたまた昨年と同じ轍は踏むものかという想いか、念には念を入れて営巣しそうな場所に丹念にスプレーを吹きかけていきました。

 

 でも、それ、Gブリ用よ。

 てらてらと黒光りするボディに生命力を漲らせ、スピードと機動力を誇るGブリに効果があるくらいですから、もちろんハチにも殺虫効果はありますが持続効果はいかがなものでしょう。

 でも、気休めでもいいからなにかしておきたい気持ちは存分にわかります。


 ただし、わたしのかわいいばらには吹きかけないで!!





 兎にも角にも、まずはひとり。

 女王様の進出を阻んで、私たち夫婦は喜びを分かち合ったのです。(←大げさな!)





* * * *






 しかし、その勝利から約一週間後。

 我が家のベランダに、ふたり目の女王様が訪れました。

 もちろん招かれざる客です。


 まさかそんな形で遭遇するなんて思ってもいませんでしたし、ふたり目の女王様はひとり目の女王様以上に「ヤバい」お方だったのでした……。



現れた新たなる女王様とは。

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