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Entanglement(もつれ)  作者: 千原樹 宇宙
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初デート



                  も つ れ


                               


                                  千原樹 宇宙



                     初デート



 宮城県の仙台平野は、あの日大きなダメージ受けた。太平洋海岸沿いに住んでいた多くの人間は、大津波に攫われた。


2011年(平成23年)3月11日(金曜日)14時46分18秒(日本時間)宮城県牡鹿半島の東南東沖130km (北緯38度06.2分、東経142度51.6分、深さ24km)を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。地震の規模はモーメントマグニチュード (Mw) 9.0で、発生時点において日本周辺における観測史上最大の地震である。(ウイキペディア参照抜粋)


大津波が、仙台平野を襲った。


凄まじい大津波の凶暴な破壊力に人々は全く無力だった。大津波警報に、只々、逃げるしか無かった。逃げることを選択しなかった多くの人間の命が大津波に奪われ、仙台平野の太平洋沿岸の海岸に千体以上の死者が打ち上げられた。東北地方太平洋側では、万人もの人間が大津波に尊い命を奪われてしまった。

 凶暴な破壊者である大津波は、何もかも破壊しつくし人間の命を奪い尽くすと、静かに元の海に退いて行った。残された光景は、非日常世界。破壊され尽くした惨状しかそこには無かった。多数の人間や動物の命を奪い、夢と未来を打ち壊し破壊し尽くした凶暴な大津波。その大津波は、帰るべき場所に戻り、いつもの静かな海となり、何事もなかったように目の前に広がっている。


不条理そのものが繰り返される。


 無限に繰り返される、波打ち際の波の音は、惨事など無かったかのようにザァザァーザァーザァーと音を立てている。自然は、冷酷非情だ。一度暴れだすと全てを破壊し尽くす。

人間は、致死率100%。死を避けることなど絶対不可能。必ず、死ぬ運命が口を開けて待っている。地球という惑星は、人間の命など歯牙にもかけやしない。世界の人口が、60億人だとすれば、間違いなく100年以内に、60億人の人間が死ぬ。必ず、死ぬ。これが地球という惑星の人間の運命だ。


 死んだらどうなる?


答えは簡単と言うわけにはいかない。


「魂は滅びない」と、仮定すれば肉体は腐ちて滅びるが、霊魂は不死。不死となれば、太平洋東北沿岸一帯を襲った大津波に命を奪われた「人間の魂」が、自分の死を信じられずに通りかかったタクシーを呼び止め乗りこみ、走り出すと途中で確かに乗せた乗客が消えてしまったり、死者となっても打ち上げられた海岸に多くの死者が現れ、海に帰って行くという幽霊現象は、簡単に嘘だと否定するわけにはいかない。

 何百人もの死者が、海に戻って行くのを見たという噂が、生きている人間の間に流れる。噂は、どこまでも広がり、実際に幽霊を乗せたタクシー運転手は、続々と辞職していった。そんな中には、幽霊だと知りながら黙って乗せるタクシー運転者も居たそうで、どうして乗せるのかと尋ねれば、


「可哀想に、家に帰りたいに違いないから幽霊だと知ってても乗せるよ、料金が発生しても自分が払うよ」


そんな言葉が返ってきたそうだ。それ程に、大地震と大津波で命を落とした人間達に、心を寄せる生者が数多く居たという事を、この世界に生れ出てから数年後に知った。


魂はいつまでこの世に居るのかという疑問が生じる。


 僕は、確かに、大津波に襲われ死んだ事は間違いない。間違いないけど、海水を吸い込んだまでは記憶にあるが、それからの事は、何一つとして記憶には無い。霊魂となって空を飛んだのか、宇宙まで飛翔したのか、それとも絶対無の世界に入ったのか、幾ら思い出しても思い出せない。


 僕、「高坂 大」は、確かに死んだ。


 死んだ記憶は現在でもある。死んだ時、僕は高校二年生だった。三年に進級する春が、永遠にやって来ないあの大地震の日、学校は午前中で終わって家に真っ直ぐに帰った。あの日は、子供の頃から遊んでいた親友の同級生庄司 健斗と鈴木 良太と密かに恋していた美し過ぎる浦田 紀子ちゃんと小泉 岬ちゃん達と5人で、仙台市長町に在るモールで待ち合わせて、映画を観る約束だった。


 ただ、約束の時間まで、時間があった。


 浦田 紀子ちゃんとは同じ町内に住んでいる幼馴染で、幼稚園の時から一緒で、小学校も中学校も、高校まで同じで、子供の時から、ノンちゃん大ちゃんと互いを呼んできた。ノンちゃんは、いつも僕の後ろにくっついているような大人しい女の子だったけど、高校生になると、いきなり、あっという間に美しさを身に纏い、大変身してしまった。僕の知っている幼いノンちゃんでは無くなってしまい、美しく大変身したノンちゃんを見る度に心がトキメクようになっていた。ノンちゃん見る度に、顔が赤くなって、自分でも慌てて視線を外すことしょっちゅうだった。

 そんなノンちゃんが僕に向かって微笑むたびに、僕のか細い心臓が”ドッガアアアーーーン”と爆発しそうになり、胸が苦しくなり、居ても立っても居られない気持ちになる。心が落ち着かなくなる。僕の心を惑わすノンちゃんの微笑みは「百万ドルの微笑」だと心の中で呟いていた。「百万ドルの微笑」に、僕は引き込まれてしまった。恋心が急速に自分の中で膨らんでしまい心を支配していたけど、ずっとノンちゃんには気づかれないようにしていた。気づかれない日々の努力は、もう限界にきていた。


 ノンちゃんが高校生になってからの余りの変身ぶりに、どこか焦りというか気後れする僕が居た。


 二年生の後半になるとノンちゃんの噂が広がり、先輩とか同級生から、交際を申し込まれるとか、恋の告白を結構されていたようだ。僕には、どうすることも出来なかった。他校の生徒達からも、声をかけられているようだったけど、どういうわけか誰かと付き合ったという噂は聞かなかった。いつも俺達と一緒につるんでいた。僕も仲間も、成績は結構優秀で、進学特別クラスに入っていた。

 ノンちゃんの目指す大学は、東北大学と最初から公言していた。確かに、ノンちゃんなら大丈夫だろう。実は、僕の目指す大学も同じだったけど、成績は敵わなかった。クラスでは、僕たちのグループは、特別の存在のように見えていたらしい。何故なら、生徒全員がライバルのクラスで、他者の成績を気にする同級生ばかりだったから。そんなライバル達の中で、グループを作って映画を観たり、何かとつるんで遊んでいる僕達は浮いた存在だったのかも知れない。でも、自慢するわけではないけど、ノンちゃんや岬ちゃんを筆頭に健斗や良太は、成績は落ちたことが無い。僕は、少し、落ちる。


 大震災の発災より少し前、僕は、ありったけの勇気を振り絞り、ノンちゃんをデートに誘った。


恋心が育ちすぎて、心からぼとぼとと溢れ始めていたから、このままでは何もかも駄目になる、どうするどうする、最早、このままでは勉強に手が付けれない、眠れない、やる気がしない、このままでは狂い死にするしかない、振られても仕方が無い、駄目で元々、男なら勇気を出せとか、ノンちゃんに告白するまでの葛藤や自問自答の繰り返しは、無限の時間だった気がする。


「ノ・ノンちゃん・・」

「なに、大君」

「う・うん・・こ・今度の土曜日、美術館に行かないかい?」余りの緊張で声が、掠れかけている。


雪がちらちら舞落ちている学校帰りのノンちゃんの家の近くまでやって来て、苦難の行軍に耐えてやっと口に出来た。吐き出す息は白かったけど、身体は燃えていて全然寒くは無かった。


「えっ、大君・・なんて言った?」僕を見るノンちゃんの表情には、驚きが見えた。

「ど・土曜日に・・僕と美術館に行かないか?」

「ほ・ほんとに誘ってくれるの、大君」微笑んだ。嬉しそうに少し照れながら微笑んだ。僕が名付けた「百万ドルの微笑」が目の前にある。


・・・・行く・・行くと言ってくれ・・か・神様・・・・


「ほ・本当だよ・・デートに誘ってるんだよ・・」怯えを隠すように、少し声が大きくなっている。

「うっ・嬉しいぃぃーー行く、絶対行く・・約束よ大君」ノンちゃんの顔にいつしか朱が入っている。


・・・・い・行くと・・言ったぞおおおーーうおおおおーーー・・・・


「うん、絶対守るよ・・どこで待ち合わせしようか?」バス停が頭に浮かんでいた。

「大丈夫、ママに連れてって貰うから・・」

「えっ・・ま・ママに話す・・の?」ドギッとしたのは言うまでもない。

 あのママの顔が浮かんだ。ノンちゃんのママは今でも美しい女性だ。子供の頃から、ノンちゃんのママは、とても綺麗なママだと思っていた。

「当然よ、ママ喜ぶわよ・・わ~~い・・嬉しいぃぃーーじゃぁ~ね・・大君約束守ってよ」美しい百万ドルの微笑のノンちゃんは、そう言って家の中に入って行った。消えたノンちゃんの家の玄関をじっと見つめながら、


・・・・ま・ママにお・送って貰うって・・ひ・秘密な・なんだけど・・・・


僕も、少し歩いて、帰宅すると、

「大、お帰り・・ノンちゃんデートに誘ったの・・やるじゃない」と僕の顔を見た途端に言い出した。

「えっな・なんで知ってるの?」意味がよく分からなかった。

「ノンちゃんのママから電話があったの、紀子を宜しくって・・うふっふふふふ~~」ニヤニヤしている。


・・・・で・電話・・電話きたのか・・こ・こりゃ参った・・ひ・秘密な筈だったんだ・・・で・電話するか普通・・あ~~ばれてしまったじゃないか・・・・


ばれてしまった事に、気落ちがして、

「あのさぁ~普通デートに誘われたってママに話すかなぁ~普通秘密にすると思うけど」とママに向かって言うと、

「何言ってるの、ノンちゃん素直な女の子だからきっとパパにも言うわよ・・」と言われてしまった。

「えっ・・そ・それは・・ぱ・パパにも言うって・・あいちゃー・・」

「そうだ、お弁当作ってあげようか、あっそうか、ノンちゃんきっとお弁当作るよ・・あははは~~」ママは楽しそうに笑った。


・・・・あいやぁ~・・ひ・秘密のデートが・・皆に知られてしまった・・なんてこったぁ~・・・・


がっかりして自分の部屋に戻ろうとした時、携帯電話が鳴りだした。


じんせ~~いぃ~♪らくありゃくもあるさぁ~・・♪


・・・・だ・誰だ・・おっ健斗・・だ・・ま・まさか・・・まさか・・・・


「もしもし健斗、何、何か有った?」

「おおおーーもしもし大か、お前、ノンちゃんデートに誘ったってか・はははは~~やっとか・・やっとだなぁ~はははは~~~・」と健斗は、何故か、デートの事を既に知っていた。

「げっえぇぇーー・・な・なんで知ってんだ・・な・何分も経ってないんだぞ」声がひっくり返っている。

「おいおい、俺らが知らないと思ってたんか、えっ大ちゃんよ」楽しそうな声だ。


・・・・くそ・・知られた・・なんで知ってんだ・・・秘密に・・こっそりとデートしようと思ってたのに・・・・


「な・何をだよ・・」完全に動揺している。

「恋煩いしてたんだろ、えっ大君さ・・ほんと分かり易い奴だよ・・へへへ~~」

「な・何を変なこと言ってんだ・・怒るぞ」一応、反撃してみるしかない。

「ははははは~~~ノンちゃんが好きで好きで堪らなかったんだろ・・皆知ってんだぞ」からかうように言い出している。

「えっ・・し・知ってた・・って」


・・・・ひえぇぇ~~~ひ・秘密を・・し・知られてしまった・・な・なんでだああーー・・・・


健斗の顔が走馬灯のように浮かんでは消える。

「町内で知らないのはお前だけってさ・・ノンちゃんずっと待ってたんだぞ・・」声が大きくなった。

「の・ノンちゃん・の・・こと・・・健斗・・知ってたの」恐る恐る尋ねる。

「当たり前だろ、どんどん綺麗になっていくノンちゃんを見るお前の目には、大好きっって文字がはっきりと書いてたんだぞ・・はははは~~・オウーがんばれよぉー・・」と笑っている健斗の電話の声が楽しそうに笑い声を残して切れた。


・・・・デ・デートプロジェクトが・・何日も考えた計画が・・あ~~・・・・


悔しかった。デートプロジェクトが、完全にあからさまになってしまった。

「はははは~~大・・皆知ってるのよ・・」

「ママも知ってたの・・」高校二年生になっても、ママと呼んでいる。

「当たり前でしょ、幼稚園の時からずっと一緒、高校も同じでしょ、ずっと一緒に居たかったのよノンちゃん・・鈍感大君・・ふふふふ~~」


 それから携帯電話は鳴り続け、お祭り状態。岬ちゃんには、「鈍感大」と言われてしまい、良太にはすっかりからかわれてしまった。


・・・・な・なんでだ・・ひ・秘密だった・・筈・・だったんけど・・・・


何度も、同じ言葉を、寝るまで繰り返していた日となった。


 土曜日、快晴の朝だった。


「おっ大、今日だったよなデート」と少し早めに居間に入ると、早速パパに云われてしまった。

「うっ・うん・・」

「良いか大、デートと言うものはな、」


・・・・ま・またか・・もう止めてよ・・勘弁して・・毎日二人で盛り上がってさ・・・・


ホント、パパとママはここ数日デートの話題で、盛り上がっている。

「良いよ、ほっといてよ・・」テーブルに座りながら言うと、

「なんだ照れてるんか大」パパは、嬉しそうに言ってきた。

「い・いやだからさ、パパやママがなんだかんだと言うとさ、まるで子供みたいでしょ、高校三年生になるんだからさ・・」

「なに言ってんの大、あなたデートなんかしたことないんだから、女性の扱い方パパに聞いたら」とママも言い出す。

「い・いやだよ、僕は僕なりにするから・・さぁ~ごはん食べるよ」

「大丈夫かなぁ~・・女の子って難しいんだよ・ねっパパ」

「うん、ママなんか気が強くてさ・・」

「もう、止めてよ、あれから毎日デートの話ばかりでさ、ママとパパさ二人で盛り上がってんだもん」

「だって、心配だもん、大の事、ノンちゃん綺麗になったし・・振られたりしないかなぁ~って」

「こ・子供じゃないんだからさ・・」


・・・・もう止めてくれよ・・ひ・秘密だったのに・・あ~~参った・・ノンちゃん何でも話すんだものなぁ~・・これじゃキスも出来ないよ・・ママーノンキスしちゃったぁ~とか言ううぜきっと・・参るなぁ~・・・・


ピンポーーーン・ピンポーーーン


玄関のベルが鳴った途端に、ドッグッウッ~~~ンと、心臓が、高らかに打ち鳴った。全身が一瞬で真っ赤になったのが、分かった。


「は~~い」ママが居間から勢いよく出ていく。


・・・・き・来た・・・・


「おっ、大・・来たぞ・・なんだ顔が赤いぞ、緊張してんのか」パパに言われて更に、赤くなる。

「ち・違うよ、もう、ほっといてよ」

「はははは~~良いぞ青年よ大志を抱けえええーーははははは~~頑張れ」パパは、嬉しそうに分けの分からない事を言っている。


「大ぃぃーー迎えが来たよぉぉぉーー」居間のドアーを開け、ママが叫んだ。

「あ~~分かってるよぉぉーーもう、ほっといてよ」居間から出て、大きな声でママに言うと、

「うふふふふ~~大君・・頑張るのよ、女の子は優しくしなくちゃダメよ」

「あ~~煩い、うるさいぃぃーーもうー行ってくるよ」


パチン・パチン・パチーン


毎朝パパが仕事に出て行く時のように、

「行ってらっしゃい、神仏の御加護がありますように」と言って、ママは手を打ち鳴らす。

「行ってきまぁ~~す」


 外に出ると、あの美しいノンちゃんのママが笑顔で立っていた。

「大君、おはよう、今日は紀子を宜しくね、」

「あっは・はい、あっおはよう御座います・・ノンちゃんは?」車にはノンちゃんは乗っていなかった。

「お弁当作ってるの、大君の為に、うふっさぁ~乗って」

「は・はい・・」


・・・・そ・その笑顔・・負けそう・・・・


車に乗り込んで、相変わらずの美しさに、負けそうだった。車は、走り出した。


「お弁当作らなくても良かったのに・・」

「大君の為の、初お弁当よ、そんな事言わないの」

「は・はい、すみません・・」

「なに着て行こうかって大騒ぎだったわ・・うふっ」

「・・・・・」


・・・・そ・そうですか・・あのう~こちらも大騒ぎだったんですよ・・おっ待ってたんだ・・・・


 冬の朝の弱い光に包まれたノンちゃんが立っているのが見えた。車は、ノンちゃんの家の前で停まった。車から、降りると、そこには、見たことのない女性が立っているように思えた。

 ノンちゃんの服装は、流石に真冬だったので、白い防寒着を着て、ジーパンという地味なものだったけど、毛糸の帽子から垂れた長い髪がぐるりと首に巻かれたマフラーの上に乗っている。ノンちゃんは全体的にすらりとした体形で脚も長く、まるでファッション誌のモデルが立っているように思えた。


・・・・うわっ・・こ・これは・・全然別人じゃん・・な・なんだか気後れするなぁ~・・・・


気後れしていた。

「おはよう大君」

「あっ・おはようノンちゃん」僕に向ける笑顔は、やはり「百万ドルの微笑」だ。

「今日は、宜しくお願いします」と、畏まった言い方をされてしまって、

「は・はい・・」戸惑ってしまった。


・・・・き・綺麗だ・・あれっ・・け・化粧ばっちりしてるんだ・・すげぇー大人の女性みたいだ・・・・


 仙台の女子高校生は、外出する時は化粧はしている生徒が多いと思っている。勿論、私立と県立では違いがあるけど、大概の生徒は、学校以外の外出には化粧をするようだ。僕たち仲間と遊ぶ時のノンちゃんや岬ちゃんは、ほとんど薄化粧だけど、口紅はしっかりと塗っている。


 仙台市青葉区に在る、美術館に着いた。


「ママ~ありがとう・・」ノンちゃんの言い方は、蕩けるように甘えている。

「送って頂いてありがとう御座います」


・・・・子供じゃないんだから・・挨拶しなくちゃ・・・・


そんな事を自分に言い聞かせていると、

「大君、紀子とキスする積りでしょ、プランその1ね」と、とんでもない事を言いだした。ノンちゃんのママの美しい瞳に吸い付けられるように見つめながら、

「げっえっ・・な・な・何を言ううのです・・お・おかぁ~様は・・」完全に動揺しまくりだった。心の底を見透かされていた。

「図星ね・・大君紀子を頼みましたよ、」ノンちゃんの美しいママが、そう言い残して、車で去って行った。


・・・・そ・そう言う・・普通言わないよ・参るなぁ~・・有り得ないでしょ・・娘にキスするとかってさ・・なんでも有りだわ・・・あいやぁ~・・これじゃキスしたら・・大変だわ・・町内全員が知ってしまう・・・パパにも言うだろうし・・あいやぁ~・・キスプロジェクトが・・・破綻しそうだ・・・・


「の・ノンちゃん・・ママの言った事気にしないでね・・」

「キスして良いわよ大君・・ママに了解貰ったから・・」ノンちゃんの言った言葉に、心臓が口からはみ出しそうになった。

「えっ・えっえええええええ~~~~ま・マジっ」


ガアアアアア~~~~ン


・・・・うっ・嘘っ・・嘘だろ・・・ま・参った・・なんでも言ってるんかノンちゃんさ・・・・


ショック山だった。動揺しまくっている。駐車場内で、立ち止まったまま、時間が止まっていた。


「おい、大、何してんだお前ら」と動揺しまくっていた、僕の心に更に、追い打ちをかけるような、恐怖の声が耳に達した。


ぎょっ・・


恐る恐る振り返る時間の長かった事。

「うわっわっわっ・・な・なんでいるんだああああ~~~健斗ぉぉ」有り得ない恐怖の出現に、まじまじと健斗の顔を見つめてしまった。


・・・・うっ・うっ嘘だろ・・なんで・・い・居るんだ・・・プランが・・プロジェクトが・・・・


計画が、瓦解していく足音が聞こえていた。

すると、聞き覚えのある声が、耳に入って来た。

「大君、初デートおめでとう」再び、恐る恐る、声の方に顔を向けると、

「み・み・岬ちゃん・・」くらくらと眩暈がしてきた。


・・・・み・岬・・ちゃん・・ま・まで・・・うわっあああああ~~~どう・どうして・・居るんだああああ~~~・・・・


「大君のデート皆で、見物しようって打ち合わせしたの」

「げっえええ~~け・見物・・打ち合わせ・・」

「そうよ・・」

「だ・ダメだよ・・邪魔しないでよ・・」全然、平気な顔をしながら言う岬ちゃんの顔を見つめてしまった。

「大君の提案、却下します・・ねっノンちゃん良いよね・・」と岬ちゃんがにこにこしながらノンちゃんに同意を求めた。それに対して、な・なんとノンちゃんが、

「良いわよ、今日は告白タイムがあるの、大君」と、理解できない事言いだした。

「こ・こく・告白・・た・タイムって・・」


その時だった。


「おい、大、今日は、彼女を連れてきたぞ」とまたまた、聞き覚えのある声がしたので、ゆっくりと振り向けば太平洋じゃなく、荒浜でもなく、

「りょ・良太・・お・お前まで・・」


・・・・ち・畜生・・終わった・・・お・俺の青春は終わった・・あ~~くそう・・寝ないで考え悩みぬいた・・ぷ・プロジェクトが・・終わった・・えっか・彼女・・・て・・・誰・・・・


良太の背後にいたのは、見知らぬ女性だった。

「大、紹介するぞ、私立花園桜高校二年生の田所 美香さんだ」

「田所 美香です・・宜しくお願いします・・」清楚なお嬢様が、にこにこと微笑みながら、立っている。


・・・・りょ・良太まで現れるとは・・終わった・・・これじゃいつものメンバーだろ・・ノンちゃんと二人きりになって・・・キスするって・・プランが・・うっん・・し・私立花園おおおーー・だとぉぉーー・・・・


仙台の男子高校生の憧れの私立花園桜高校。女子高校で、お金持ちのお嬢様が通う特別な学校。東北各地から入学希望者が絶えない狭き門。就職率、99.5%の引く手数多の即戦力育成高校。


「し・私立花園桜って言えば、女子高で・・お嬢様学校・・ど・どうして良太が・・」もう、動揺も治まっていた。

「黙っていたけど現在口説いてるんだ・」良太は、はっきりと口にした。

「な・何ぃぃーーく・口説き中・・マジにか・・」

「うん、マジ、へへへへ~~今日は、告白タイムがあるんだぞ、大、聞いてるか?」

「き・聞いてない・・」


・・・・なんだ・その告白タイムってさ・・折角二人きりのデートが・・終わった・・・・


 雪が、舞いだしていた。朝の弱い光が、雲に遮られると、冷えがジワリと身体に忍び寄る。

「提案だけど、中に入りましょ・・」ノンちゃんが言うので、

「そうしよ・・寒いわ・・参った・・あいや~じゃ邪魔しにくるんだものなぁ~・・」と恨み言を呟くしかなかった。


 時間を決めて、美術館の展示物を見ようとなり、男女3組、別々に歩き出した。館内は、暖かった。暫く順路に従って絵画とか展示物を見る。


・・・・あ~~二人で・・手を繋ぎ・・絵画を・・・手繋ぎプランが・・・・


「ねぇ~ノンちゃん、仲間が邪魔に入ってしまってごめんね」狭い展示場に入ると、ノンちゃんに話しかける。

「あら、気にしてないわ、凄い絵ね・・大君、手繋いで・・」

「えっ、えっ、今なんて言った・・」


・・・・えっ・・い・今・・確かに言ったぞ・・手を繋ぎたいって・・・・


「大君と手を繋いで歩きたいって言ったの・・」ノンちゃんとの身長差は、僅かしかない。ほんと、目線が、水平に近い。そんなノンちゃんの大きな瞳を見つめながら、

「そ・そう・・ほんとに良いの?」と伺うように言う。心には、手繋ぎプロジェクト再開の鐘が鳴りだした。


・・・・カァーーン・・カァーーン・・・て・て・手を繋げば・・つ・次は・・うわぁぁおぉぉーーやりぃー・・・・


「はい、手袋脱いで・・」ノンちゃんの細く白い指が好きだ。

「う・うん・・」


手を繋ぐと、人間の暖かさが、一瞬で全身に伝わる。嬉しさで、泣きそうになってきた。


「嬉しいよ・ノンちゃん・・」僕は素直な男子です。

「私も、待ってたわ・・大君」百万ドルの微笑が、笑みを与えてくれている。


・・・・い・言わなくちゃ・・誰にも奪われたくないんだノンちゃんを・・ノンちゃんが好きなんだ・・男らしく言うって決めたんだ・・でも・・でも・・お・お断り・・断られたら・・・あほ・・・・


ハムレットの心境が、またまた始まったが、決めた事なんだと思うと、勇気が出た。


「良し言うぞ、の・の・ノンちゃん」

「何、大君・・」

「そのう・・ぼ・ぼく・僕と結婚してくれませんか・・」勝手に、口から漏れ出てしまった。


・・・・げっえっええええーーーち・違うぅぅぅーーこ・恋・恋の告白だぁーー・・す・すき・好きだと言う積りが・・なんでだぁー・・・ひえっええええーーけ・結婚・・結婚してくださいって言ってしまった・・未だキスもしてないのに・・なんでだぁ~~~・・・・


後の後悔前に立たない。口から出た言葉は、元には戻らない。

すると、意外にも、

「今、ここで言ううの大君・・」ノンちゃんが、そう口にした。

「あっご・ごめん・・」


・・・・うわっ・・か・勝手に声が出てしまった・・・ご・ごめん・・じゅ・順番があったんだ・・な・なんて事・・言ううんだ・・あいつらに邪魔されたもんだから・・うわっ・・あわ・あ・慌ててしまったぁーー・・・・


「大君、告白タイムの時にもう一度言って・・」

「こ・告白タ・タイム・・あっ、分かった・・ごめん」直ぐに謝ってしまう僕の心の弱さ。


・・・・ひぇ~~ま・不味かった・・け・結婚してなんて・・なんで言ううかなぁ~・・・あ~~不味かったわぁ~~・・で・でも・・告白タイムって・・なにすんのかなぁーー・・まさか・・男三人並んで・・付き合ってくださいって右手を出すとかってなんかな~・・・・


取り敢えず、展覧会場を二人で見て回った。そこで感じたことは教科書に乗るような西欧の有名な作家といえ、「画が下手くそだわ」だった。中には、精細な画もあったけど、なんだか適当に描いているような気がしていたのは正直な気持ちだった。僕には、画の才能が無いらしい。


 階下に降りると、4人が待っていた。1階には、思った以上のお客がいる。


「おっ良太・・悪い、悪い、じっくり鑑賞してたんだよ」と照れを隠しながら、4人に聞こえるように言うと、

「大、遅い、待ちくたびれたぞ」良太が、直ぐに返して寄こした。

「ワリィーワリィー・・」


いつものメンバーに初めてのお嬢様が参加してペアーが3組。


・・・・へぇ~・・良太の彼女・・結構可愛いじゃん・・・・


良太と彼女は、お似合いだと思った。


「喫茶店で暖かいものでも飲もうか?」

「そうね、そうしましょ」

「遅いんだもの、何してたんだ大」と健斗が言い出した途端、な・なんと、有り得ないご発言がノンちゃんのお口から出てしまった。

「ごめんね健斗君、遅くなったのはね、理由があるの」

「えっ・・」一瞬で不安感に包まれる。

「ほう、どんな理由なの?」岬ちゃんの目が益々、大きくなっている。

「大、なにやらかした?」

「大君、まさかノンちゃんに無理やりキスしたとか・・へへへ」岬ちゃんの表情は、もう完全ににやけてしまっている。

「げっえっええええ~~~な・何てこと言ううの・・」顔が火照りだす。


・・・・ひ・秘密のき・キスプロジェクトが・・ナンデダアーーーなんで知ってんだ岬ちゃん・・・・


「したんか大」良太が、おかしさを噛み殺した表情している。そんな良太に向かって、

「す・するわけないよ・・」と。

間を置かずに、

「疑わしいわね、健斗君」と畳みかける岬ちゃん。

「み・岬ちゃん、酷いよ、僕がそんなことする筈がないでしょ、そ・それはないよ、有る分けがないよ・・ほんと」焦っていた。

「何ぶつぶつ言ってんだ大」健斗の表情は、今にも吹き出しそうになっている。

「ご・誤解だよ・・もう~岬ちゃん酷いよわぁ~・・」


・・・・ぼ・僕は犯罪者かよ・・何てこと言ううの岬ちゃん・・・・


「ほんとかなぁ~ノンちゃんキスしても良いって言ってたのに」

「げっええええ~~~あいちゃぁ~・い・言ってるんか・」唖然としてしまった。


・・・・ひ・秘密って言葉・・し・知ってるんかな・・参いるなぁ~・・な・何でも言ってるのかなぁ~・・ノンちゃん・・は・・・・


「大君さ、見ている途中でね私に言うの」


ぎぐっ・・

「・・・・・」


・・・・ま・まさか・・ひええええ~~~・・・・


「なんて言ったの大君」岬ちゃんの目が更に大きく見開いている。

「岬ちゃん、大君がね、結婚してくれって言うの」と普通、他人には言わないはずの言葉を口にした。

「げっえっえええーーの・ノンちゃん・そ・そ・それを言うのノンちゃん」


・・・・い・い・言ううの・・そ・それって・・ひ・秘密・・二人の秘密・・なんだけど・・・・


「ひいぃぃーーうわっ、はっはっはははぁ~~~まんず・お前って笑わせてくれるよ大」良太。

「い・言ったのか、け・結婚してくれって・・くっうっうっうううははははぁぁ~~~~」健斗。


・・・・く・くそう・・・・


言われてしまった以上、もう、元には戻れない。

「ほんとに言ったの大君・・」岬ちゃんの表情は、いつもと違って笑いを必死に耐えている。

「ほんとよ・・びっくりしちゃった私、後でママとパパに言わなくちゃ・」真剣な顔してノンちゃんに言われてしまった。


・・・・あ・あいや~・・パパとママ・・・あ~~なんて事を・・・・


後悔の前には後悔が立たない。

「あのなぁ~大よ、ほんとお前って笑わせてくれるよな、お前順番って知らないのかよ」良太に言われてしまった。

「そうよ、大君、いきなり結婚しては無いわよね、ねっノンちゃん」

「うん、でも・・嬉しかった・・うふっ」


 この後、美術館を出てバスに乗り、駅前にあるカラオケ店に入った。この時、僕とノンチャンだけ個室に入り、良太と健斗のペアーは別な個室に入った。僕の横に座ったノンちゃんは、カラオケの画面を見つめたまま落ち着いていたけど、僕の心臓は、太鼓叩いているように、ドグン・ドグンと打ち鳴っていた。


・・・・あ~~~な・なんて甘い香りなんだ・・あ~~胸がときめく・・香りだ・・・・


「の・ノンちゃん・・とても素敵な香りだよ・・」画面から視線を外さないノンちゃんに言うと、

「ママの借りたの・・ありがとう」やっと僕に視線を向けた。



・・・・そ・その笑顔・・堪らない・・ど・どうしよ・・あ~~胸が苦しい・・・ふ・二人きりになったぞ・・こ・告白しないと・・け・結婚してなんて言ううなよ・・・・


「の・の・ノンちゃん」言葉が、かろうじて口から漏れ出た。

「何、大君・・」僕と見つめ合ったままのノンちゃんが、更に身体を動かす。


・・・・くぅぅーーか・可愛い・・・そ・その笑顔・・ま・負けそうだ・・・・


負けそうだった。

「あのさぁ~あ・アイツラ一緒でなくて良いのかなぁ~」と心にもないことを、視線を外さず言うと、

「うふっ、気を使ってくれたんだわ、大君・・私と二人きりになりたかったんでしょ」と言われてしまった。

「うっ・・うん」見透かされている。

「さぁ~大君、もう一度言って」ノンちゃんは、僕の右手をぎゅっと握りしめてきた。


・・・・うわっ・・て・手・手が・・・・


 ノンちゃんの手は、何かを訴えるように強く握りしめている。そして、暖かった。転生してからも、この告白タイムの記憶は、失われる事はなかった。ノンちゃんも、自分が近いうちに死ぬ予感が有ったのかも知れない。何かが急速に動いているようだった。


「の・ノンちゃん・・ノンちゃんが好きなんだ、死ぬほど好きになってしまったんだ・・胸が苦しくて、苦しくてさ・・」ノンちゃんの大きな目を見つめながら、言うと、

「うっ・嬉しいぃぃーーずっと待っていたわ、その言葉・・うっぐすっ・・」ノンちゃんの両目に、大粒の涙が零れ落ちるのを見て、慌てて、

「あっ、ご・ごめん・・な・泣かないで・・ノンちゃん」両手でノンちゃんの手を握りしめた。


少しの時間、互いに見つめ合っていた。


「もっと言って・・大君」

「ぼ・僕と・・け・結婚して・・く・下さい・・」見つめるノンちゃんの両目から、涙が溢れる。

「うっ・嬉しいぃぃーー大君のことずっと好きだったの・・うっうっうっ・・」涙は止まらない。

「誓うよ、ノンちゃん以外誰も愛さない・・來世でも必ず結婚するよ・・僕と将来、結婚して下さい」人生最大の勇気を出しての告白だった。

「はい、お受けします・・ママとパパに言わなくちゃ・・婚約しなくちゃ」

「こ・婚約・・」


・・・・こ・婚約・・高校生・・高校二年生が・・・こ・婚約・・って・・うわっおおおおーー・・・・


「大君・・キスして良いわよ・・」

「き・キス・・・は・はい・・」もう完全に、意識は感激で舞い上がっている。


・・・・き・き・キス・・ぷ・プロジェクトが・・良いか・・ゆ・ゆ・勇~気を出す~~~~んだ・・男・・・僕は・・お・と・こ・・良いか・・大・・き・キス・・するんだ・・・・


完全に舞い上がっていた。あれほど考え悩んだプロジェクとが、簡単に実行されようとしていることに、なんの疑問も沸かずにいた。


事態は、急速に、動き出していた。


「の・の・ノン・・ちゃん・・す・す・するよ」

「うん・・良いわよ・・」コクリと頷いたノンちゃんは、キスすると決めていたらしい。


 握りしめていた両手を離して、ノンちゃんの両肩を引き寄せ、間近に迫ったノンちゃんの唇に唇を重ねた。目を閉じて重ねたお互いの唇は、震えていた。人生初めてのキスに、お互いの身体は、カタカタと震えていた。


・・・・き・キス・・した・・こ・これが・・キス・・・か・・・・


唇は、直ぐに離れた。離れると直ぐに目を開いたノンちゃんの目を見つめて、ゆっくりと、再び、ノンちゃんの唇に唇を重ねた。意識は、完全に、宇宙に飛んでいた。あんなに悩んだ日々が、まるで嘘の日々に思えた。


・・・・あ~~や・柔らかい・く・唇だ・・・こ・これが・・ノンちゃんとのキス・・・したんだ・・・・


二度目のキスの時には、何故かしら互いの身体の震えは止まっていた。天高く舞い上がっていた。こんな事がある筈がないと心の何処かで叫んでいたけど、唇は、重なっている。唇の感触が、全身に広がっていた。


唇は、再び、離れた。


「あ・ありがとう・・ノンちゃん・・大好きだよ」大好きと言った言葉に、何故かしら感動して目から涙が零れ落ちそうだった。

「うっ・嬉しいぃぃーーもっと言って・・大君」

「な・何度でも言うよ・・好きだよ、大好きだ・・離さない・・大好きなんだ」


・・・・ぜ・絶対離すもんか・・ぼ・僕が必ず・・守るよ・・ノンちゃんを・・・・


 でも現実は、非情で、無慈悲で、二人は大津波に引き裂かれてしまった。同時刻に、大津波に襲われ、ノンちゃんと僕は、必死な抵抗虚しく波にのまれて意識を失った。


ノンちゃんを守ってやれなかった。


・・・・き・キス・・・プロジェクトが・・終了してしまった・・・・


「あっ・・」

 ノンチャンが、僕の唇を、ハンカチで拭いてくれたのには、驚いていると、

「ママが、必ずそうしなさいって言ったの」と言った。

「えっ、ま・ママが・・い・言ったの・・あいちゃー・・」あの美しいママの顔が浮かんでいた。

「うん・・」


・・・・キスの終わり方まで・・・・


 告白タイムは、終わって、僕とノンちゃんは良太達の部屋に入った。


「ノンちゃん、どうだった?」岬ちゃんが、直ぐに聞いてきた。

「婚約したわ・・それにキスもしちゃったし・・」

「げっえっえええーー・・い・言ううの・・」隣に座ったノンちゃんの平気な顔には、呆れてしまった。


・・・・い・言ううかなぁ~・・ふ・二人のひ・秘密・・なんだけど・・・・


「大、良かったなぁ~」

「ほんとだよ・・」

「教室でも、辛そうな顔ばかりで、元気なくてさ、恋煩いもこれで終わりだな」健斗だった。

「おめでとう、大、良かったよ、悶々してたもんな、見ている俺たちも苦しかったんだ」

「良かったね、ノンちゃん」


 岬ちゃんと健斗は、僕の知らない内に、交際していたらしい。残念ながら、津波に襲われ、転生することになる。健斗と美香さんは津波には襲われず、結婚して、仙台で暮らしているとは、転生して捜索開始が始まってから暫くの間、知らなかった。


 婚約が正式に、成立したのは震災のほんの少し前で、宴会が仲間との最後の集まりとなった。


 


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