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「今度はきみと遊んであげようかぁ?」


「ありがとう、絵梨(えり)。本当にお金を持ってきてくれたんだね」

「え、ええ……信一(しんいち)さん……でも、その人たちは? それに……」


 絵梨――そう呼ばれた女性は、廃屋の出入り口からやってきた男たちを見て警戒を露に数歩後退する。彼女こそが、西園寺の姉だ。

 彼女に「信一さん」と呼ばれる男が、西園寺の言っていた「長谷川さん」のようだが――その姿を見て、トートは確信した。その男こそ、ターゲットである須藤充(すどうみつる)本人。今は信一という偽名を使っているのだろう。


 しかし、絵梨の目に映っているのは男だけではない。自分の恋人であるはずの信一――須藤の後ろには、派手に着飾り、キツめのメイクを施した女性がいたのだ。それは紛れもない、須藤の妻だった。彼女は知らないが、トートは知っている。彼女が須藤と共に女性たちを嘲笑っていたのを。



「この人たちがサラ金だよ。この場でお金を渡せば、もう取り立てはしないでくれるって約束なんだ」

「そ、そう……」



 ウソだ。西園寺は絵梨の隣で、ハッキリとそう思った。

 それは、その直後に的中した。

 絵梨の目の前までゆったりと歩いてきた男が、彼女に顔を近付けると共に口が裂けてしまうのではと思うほどに口角を釣り上げ、それはそれは愉快そうに笑ってみせたのだ。



「――なァんてねぇ、ウソだよぉ」

「え……?」



 絵梨は、目の前で告げられた言葉に目を丸くさせると、今にも消え入りそうなほどのか細い声で疑問と思われる音を洩らした。その様子がまた更に信一の――否、須藤の機嫌を昂揚させていく。

 猫を被ることをやめて、須藤はその場で片足を軸に身を反転させると共にやってきた仲間たちへ身体ごと向き直った。



「ぎゃはははッ! なぁなぁ、今のこの女の顔、見たか!? 俺の演技力ってすごくね? 俳優顔負けの演技だったろぉ!?」

「ああ見た見た、ご苦労なこったねえぇ。借金あるから結婚できましぇ~んって言われたら、ホイホイ金用意して来ちまうんだからなぁ!」

「まっ、そのお陰でアタシは大助かりだよぉ? ああ、はじめまちてぇ。アタシぃ、彼の妻でぇ~す」



 次々に発せられる言葉の数々に、絵梨は思考が停止したように身動きひとつ取れなくなった。代わりに、彼女の隣にいた西園寺が一歩前に出ると、おっとりとした彼女にしては珍しく声を上げる。



「やっぱり……! 騙してたんですね!」

「ひゃはははッ、お嬢ちゃんはなに? 可愛い顔してるねぇ、今度はきみと遊んであげようかぁ?」

「結構です! 二度とお姉ちゃんに近付かないでください!」



 下卑た笑い声を上げながら舐め回すような視線を向けてくる須藤を睨み返し、西園寺は放心している絵梨の腕を引いた。帰ろう、と。その意味を込めて。

 しかし、須藤やその仲間たちの方には、まだ彼女たちを帰す気はないらしい。当然だ、まだお目当てのものを手に入れてないのだから。



「おいおい、大事なこと忘れてない? 金だよ金ぇ、俺の代わりに絵梨が借金返してくれるんだろぉ?」

「ふざけないでください! 誰があなたみたいな詐欺師に……!」

「詐欺師ぃ? そりゃないぜ、随分な言われようだなぁ! コッチは貴重な時間を使ってモテないブスにささやかな夢と希望を見させてやったんだ、感謝はされても文句言われる筋合いはないんですけどぉ~!?」

「お陰でいい夢見られただろ? んじゃ、ウチの旦那のレンタル料――その金で払ってよね。嫌だって言うなら既婚者と知りながら人の旦那を誑かしたって弁護士に相談するけどいいの?」



 淡々と紡がれる夫妻の言葉に、西園寺は愕然とした。

 目の前にいるのは確かに人間のはずなのに、自分と同じ人間には見えなかったのだ。人の皮をかぶったモンスターか何かのようにさえ感じられる。

 須藤は言い返せないでいる西園寺と絵梨を見て、これまた上機嫌そうに口角を釣り上げて笑うと、むしり取るように絵梨の腕から金の入ったカバンを強奪してしまった。



「あっ! ダメ、返して!」

「ひゃははは! や~だねぇ! ほらよっ!」

「あいよぉ、いっただきぃ! おっほほほ、こりゃあかなり入ってるねぇ!」



 西園寺は慌てて手を伸ばしたが、その手は虚しく空を切る。彼女が行動に移るよりも先に、須藤が後ろに控えていた妻にひょいと鞄を投げ渡したからだ。

 両手でしっかりと鞄を抱きかかえた女は、ずっしりと感じる重みに嬉しそうな声を洩らす。鞄の中にどれだけの金額が入ってるか、それを考えるだけで自然と顔には笑みが浮かんだのだ。

 そうして他の男たちと共に慣れた足取りで階段へと駆けていく。その様が、このような行いが今回初めてではないことを伝えてくれる。


 遠ざかっていく足音を聞きながら、絵梨は上着のポケットからあるものを取り出した。そうして、目の前にいる須藤を見据える。



「……彩に言われて、持ってきておいてよかった。私の方があなたたちのことを弁護士に相談しに行くわ、これが動かぬ証拠よ。これ以上、甘い汁を吸えると思わないで!」

「ああ……? ククッ……バカだねぇ、絵梨ィ。そんなイイモノ持ってんなら、相手に教えないようにしなきゃなぁ……黙ってりゃ、死なずに済んだんだぜぇ……?」



 絵梨の手に握られているもの――それは、ボイスレコーダーだ。電源が入っていることを確認した須藤は近くに落ちていた割れた瓶を拾い上げ、ゆっくりと絵梨と西園寺の元へ近付いていく。ニタニタと薄ら笑いをべながら。

 しかし、男の目には明らかな怒りと殺意が滲み出ている。絵梨と西園寺を殺して、ボイスレコーダーを破壊しようと言うのだ。


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