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「次の女はもう決まってるの?」


 拠点へと戻ってきたトートは自室に籠り、早速その力を行使していた。

 ハッキリと肌に感じた彼女の憎悪と恨みを思い返し、その行く先を探る。


 彼女が自ら命を絶った現場から離れ、その憎悪は都市部にある一際大きな高層マンションを垂直にぐんぐんと昇っていく。

 最上階手前へ到達すると、大きなリビングの窓から室内が窺えた。

 広いリビングの中には、男と女が一人ずつ。革のソファにどっかりと腰を下ろして愉快そうに高笑いを上げている。



「それでぇ? 次の女はもう決まってるの?」

「ああ、心配すんな。ストックはあと三人はいるからよぉ。あいつら、ちょ~っと結婚をチラつかせてやりゃ、面白いくらいに金を出してくるぜ」

「アハハハ! 可哀想にねぇ、アンタが既婚者だって知らないでさぁ! まぁ、そのお陰でコッチは優雅な暮らしを満喫できるんだけどぉ~」



 鼓膜を打つ言葉の数々に、トートの表情は自然と歪む。

 愉快そうに笑うこの男こそ、次なるターゲットであり彼女の憎悪が行き着く先――須藤充(すどうみつる)だ。その隣の女は須藤の妻なのだろう。

 須藤充は既婚者でありながら独身女性と結婚を前提に交際し、あらゆる理由をつけては金の無心をして生活費としているのだ。


 新しい商売をするために金がいる、軌道に乗ったら結婚しよう。

 親が病気で治療費が必要になる、落ち着いたら結婚しよう。


 理由としては、そんなものばかりだろう。

 惚れた男のためならばと尽くしてしまう女性は「結婚しよう」という言葉に釣られて金を渡し、須藤はその金を搾り取れなくなったらあっさりと手の平を返して彼女たちを捨てるのだ。

 今朝、飛び降り自殺で命を絶った女性も――その一人。



「……ふぅ……」



 そこまで考えて、トートは伏せていた目を開くと深い溜息を吐き出す。目を開けるなり、先ほどまで見ていた光景は視界から消えた。

 ――反吐が出るほどの醜い生き物だ。トートは純粋にそう思う。胸の中を掻き回されるような胸糞悪さを覚えた。


 ストックはまだ三人ほどいる、そう言っていた。

 そのストックとは、間違いなく他の独身女性だろう。今回の件は一刻の猶予もない。

 また男の手に多額の金が舞い込む前に早々に片を付ける。



「あ、あの……死神さん」

「……」



 そこへ、ふと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

 トイフェルがノックなどするはずがない。となると、考えられるのは一人だけだ。

 案の定、開かれた扉の先から顔を覗かせたのは人間の少女――西園寺だった。すっかり通い詰めるようになってしまっている。

 結婚詐欺男のことも問題だが、トートにとってはこちらも深刻な問題だ。



「け、結婚詐欺の人を探してるって聞いて……あの……」

「……どうした」

「わ、私のお姉ちゃんが今度結婚することになったんですが、なんだか相手の方が最近おかしいらしくて……長谷川さんっていう人なんですけど……」



 ぽつりぽつりと紡がれる言葉に、トートの表情は自然と曇る。それを見た西園寺は慌てて胸の前で両手を軽く振り、すぐに何度も頭を下げ始めた。気分を害したと思ったのだろう。

 だが、トートは座っていた椅子から立ち上がると幾分早足で彼女の正面へと歩み寄った。



「……その話、詳しく聞かせてくれ」



 西園寺が言う婚約者の「長谷川さん」が須藤のことかどうかは不明だが、可能性はゼロではなかった。



 * * *



「ははぁ、ここですね。そのお姉さんが男と会う場所というのは……」

「そのようだ。ボイスレコーダーというものを所持するようにと彼女から伝えてもらった」



 現在、トートとトイフェルが足を運んだのは街の外れにある廃屋。恋人との逢瀬にはまったくもって相応しくない場所だった。

 西園寺から聞かされた話は、こうだ。


 なんでも、彼女の実姉が結婚することになり婚約の約束をしたものの、相手の男が結婚に対して二の足を踏んでいるとのこと。

 痺れを切らした彼女が男に事情を聞いたところ「サラ金に追われている」と言い出したのだ。

 自分には借金がある、結婚はしたいが今すればきみに迷惑がかかる、だからできない――と。


 その話を聞いて、西園寺は不審に思ったのである。

 当然、学生の西園寺が不審に感じるほどだ。彼女の姉が怪しいと感じないはずがなかった。

 しかし、好きな男のこと。できれば信じたい。それに、借金がなくなればやっと結婚できるのでは、と淡い期待をしてしまっているのも事実。


 多くの女性はそうして結婚詐欺に引っ掛かり、騙されてしまうのだ。



「おや、あの方ですね。彩花さんもいらっしゃいますよ」

「……あやか?」

「……トートは本当に仕事以外に関心のないお方ですねぇ。西園寺さんですよ、彼女は西園寺彩花さんと言うのです」

「そうか。……しかし、付いてくるなと念を押したはずだが……」



 トートはもし「長谷川さん」が須藤であるのなら、次の犠牲者が出る前にこの場で片を付けると決めている。西園寺に惨殺死体など見せたくはないし、この場に危険がないとは言い切れない。そのため、決して同行はしないようにと伝えたはずなのだが、西園寺は姉を心配して付いてきてしまったのだろう。



「人間とはそういうものです、ダメと言われれば余計にそうしたくなるものなのですよ。……さて、男もちょうど来たようですね」



 トートはちらりと横目に相棒猫を見遣ると、それ以上は口を開くことはせずに廃屋の一階部分を見下ろす。

 現在彼らがいるのは三階だ。元々は工場か何かだったのだろう、一階から五階まで吹き抜けの造りとなっているため、手すりから身を乗り出さなくとも容易に階下の様子が窺えた。


 入口からやって来る影は――五つ。

 相手の男だけではないことを、その影が物語っていた。


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