02 辿り着いた街
魔法について色々と試している内に、壁の切れ目が見える所まで来ていた。
この高い壁は何処かの都市の防御壁だったみたいで、中へ入る為の門が見える。
入り口は開いていて、門の両脇には槍を持った人間が佇んでいる。
(そういえば、身分証もお金も持ってない)
どうしたもんかと悩んでいると、二人いた門番の一人がこちらに向かって歩み寄って来た。
「お前さん、見ない顔だな……。アーデルリュート大森林から出て来た様に見えたが、まさか中に入ったのか?」
厳つい顔のおじさんに、眉間に皺を寄せながら話しかけられた。
咄嗟に上手い言い訳は思いつかなかったので、異世界から来たという部分だけを省いて、自分の身に起こった事を正直に話してみる。
「誰かに呼ばれた気がして道の途中で振り返ったら、森の中にいました」
「転移系のトラップにでも引っ掛かったのか?」
「さぁ、どうなんでしょうか? 生憎、俺の周りには魔法の使える人間がいなかったので」
「災難だったな。ここらじゃ見かけない格好だし、お前さんが嘘を吐いてるようにも見えないから信じてやりたい気持ちもあるが、一応これでも街を護るのが仕事なんでな。何か身分証の類いは持ってるか?」
何となく、胸ポケットに入っていた中学の学生証を渡してみる。
「これでも大丈夫ですか?」
「見た事無い文字だな……。まあ、試してみるか」
そう言って琥珀が連れて行かれたのは、壁の中にある門番の詰め所の様な場所だった。
入ってすぐの所にある個室に通されて、勧められた椅子に座る。
琥珀に話しかけて来た男が部屋の奥にある棚からB5のノートサイズの水晶板を持って来て、その上に琥珀が渡した学生証を置く。
すると、水晶が淡い緑色に輝き始めた。
「お、大丈夫そうだな。とりあえず仮の身分証を渡すから、1週間以内に正規の身分証を提示しに来てくれ。じゃないと捕まるから注意しろよ」
「ありがとうございます。……あの、それってお金、掛かりますか?」
「ん? ああ、こっちの金がないのか……」
「はい」
「心配しなくても、成人前の子供から搾り取ったりはしねえよ。中に入ったら協会の孤児院を尋ねれば良い。保護してもらえれば、協会で保護登録してもらえるしな」
「そうなんですか?」
「協会には大陸中に繋がる転移陣があるから、すぐに国元に帰してもらえると思うぞ」
「分かりました、ありがとうございます」
「おう、今地図書いてやるから待ってろ」
強面の割に親切な門番に手書きの地図を持たされ、見送られながら門の中に入る。
門の内側には、煉瓦造りの家が立ち並ぶ活気溢れる街並が広がっていた。
越境者の称号のおかげか、町の人々の話す言葉の意味は自然と理解できるし、看板などに書かれた見覚えの無い文字も何となくどういう意味なのか把握できた。
街中をふらふら歩きながら、これからの事を考える。
詰め所では言わなかったが、この世界での異世界人への認識や対応の仕方がわからないし、日本には転移陣など存在しないので、正直言って孤児院を頼る気は今のところ無い。
(これからどうしたもんかなー)
道の脇に並ぶ屋台を眺めながら色々考えていると、琥珀のお腹がきゅう~と切なげに鳴いた。
(そういえば、まだお昼を取ってなかった)
此所に来る直前にスーパーに寄っていたので、幸いと言って良いのか、リュックサックには今日の昼ご飯と大量のお菓子が詰め込まれているので、食べる物はある。
今日から連休の予定だったので、気になっていた長編小説を全巻一気読みする気で、その間引き蘢るための戦利品を買いに行っていたのだ。
人の少ない隅の方で木の影に気持ち隠れる様にし、琥珀の体には大きい旅行用のリュックサックから昼ご飯に買ってあったパンとおにぎりを取り出して、ふと思い出した。
(そういえば、スキル説明で想像上の物を具現化できる能力ってあったよな? 物なら何でも大丈夫なのかな)
とりあえず、飲み物が無かったので、紙パックのいちごオレを思い浮かべる。
膝の上に物が落ちて来た感触がしたので見てみると、思った通りのものが存在していた。
ストローをさして飲んでみると、何時も飲んでるものと変わらない味がした。
(異世界転移で良くある日本食に飢える事は無さそうだな)
ついでなので、他にもいくつか思い浮かべてみる。
お値段の関係で諦めたちょっとお高めのお菓子や飲み物をいくつか出し、出て来た物をなんとか既に満杯のリュックにしまい、空腹を満たす事にする。
食べ終わってゴミを片付けた所で、人目が無いのを良い事に、色々と検証してみる事にした。
新しく作り出すのではなく、既存の物を作り替える事も出来たりするのか気になっていたので、まずは無くても困らないものから試してみようと、リュックに付いている小銭入れを取り外す。
中の小銭は財布に移したら、まずは大きさを変えてみる。
倍の大きさにしてみたり、逆に小さくしてみたり……。
結果、明確なイメージがあれば、思い通りの物が作れる事が判明した。
なので、思いきって今持っているリュックがマジックバックになる所を想像してみた。
手に持っていたリュックが軽くなったので、中を開けて確認してみる。
ステータスの時と同じ画面が現れて、中に入っているものリストが表示された。
画面に触れるでも、念じるでも、簡単に取り出せるみたいだ。
中身の無くなったリュックは、潰れてぺしゃんこになっているので、外見を琥珀の体格に合わせた黒い革のリュックに変更する。鞄のサイズも、半分程の大きさにした。
その後も色々作ったり、改造したりして、気が付いたら2時間程経っていた。
衣食住の内、洋服と食べ物は何とかなりそうなので、後は泊まる所だ。
相変わらずお金がない事には変わりがないので、どうにかしてお金を稼がないと。
想像魔法で作り出した魔法使いっぽい黒いローブを羽織り、大きめのフードで顔を隠す。
靴もスニーカーからブーツへと作り替え、準備ができたら出発だ。